粛然(しゅくぜん)

文字数 581文字

 友人Mと再会したのは、去年の9月、知人の結婚式だった。新横浜駅からブライダル会場へ向かうため横浜市営地下鉄に乗り換える。
「この地下鉄に乗るの、ニッパツ三ツ沢球技場に行く以来だな」
 車内の路線図を見ながら、友人は呟いた。
「最近、サッカーやってるの?」
「しばらくやってないかな。そのかわり、今は走ってるよ。このあいだもマラソン大会に出た」
 再会は去年のことなのに随分と昔のように思える。この感覚はいったい何だろう。そんなことを考えながら、私は京王線の飛田給から味の素スタジアムの道のりを散歩する。スタジアムは月灯りに照らされて粛然としていた。
 スタジアムの周辺をうろついてから、甲州街道に出た。夜のジョギングをしているランナーと、2人か3人くらいと往き合う。女性らしきランナーの蛍光色のジャージが、車道のヘッドライトに照らされて、一瞬光る。その刹那、ランナーのジャージが私にはクラブのユニフォームに見えた。
「へぇ、走るの、好きだったっけ」
「まぁまぁかな。それより、俺が一番好きなのは、マラソンのスタート前なんだ。スタートを待ってるときの状況って、キックオフの前のスタジアムとどことなく似ているんだ」
 私は友人のように走ることはない。けれども、Jリーグのキックオフを粛然と待つのもわるくないと思えた。だって、まだ何も始まっちゃあいないではないか。
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