麦の谷の物語 (梗概)
文字数 748文字
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星は巡り大地は巡り、海から流れついた人々は次々と新しく生まれ増え、獲物多く棲みやすき暖かき土地は奪いあわれ血に穢され、杭打たれ国境が築かれ、弱き者、戦いを好まぬ者は、追われ逃げ、進んで移住して、北へ北へ、獲物少なく森深き暗く寒き土地へと、流れ流されて広がって去った。
草の穂や木の実を食し加工し保存する術を身につけた女たちがあった。女たちは男たちの相争う姿に愛想尽かして、女らだけで草の実を蒔き育て収穫して蓄え砦を築き、冬を越え、また歳を過ごした。
噂を聞きつけて子らを従え、また身重の体で、ほうぼうから逃げてくる女達を迎え入れて、そこは女だけが住む大いなる都邑となった。
夫が欲しい女らはその時々でほうぼうへ出向いて行き、手頃な男を見つけ、身ごもると、また都に戻ってきて子どもを産み、麦を育てた。
外の男たちはその都邑を含む一帯をこう呼んだ。…「妻の麦の穂の谷」と…。
近在の男たちは自分と交わった女や自分の種から生まれた赤児たちのいる都邑をあえて襲うことは決してせず、互いにほどよい距離を置いて、女らは女らばかりで暮らしていたが。
ある年、北方の大旱魃と続く大寒波で、耐えかねて南方に押し出してきた一大部族があった。
蛮族の戦士らは女ばかりで食糧を豊かに蓄えている谷の噂を聞くと、遠慮なぞしなかった。
嵐のように襲いかかり、女を犯し、殺し、また拉致し去り、麦は奪い、畑には火を放ち、都邑は砕いて去った。
女たちは、諦めなかった…
嵐が去り、冬が去り、また、残された麦穂の粒から芽が出れば…
戦を好まぬ女たちは、またどこからともなく集まり寄り添い、争わずに暮らせる都邑を築いて、いついつまでも気づかぬ愚かな男たちに嘆息をつきつつ…
再び。育てるのだ。
麦と子どもら歓声とが、谷を、埋め尽くすまで…。
星は巡り大地は巡り、海から流れついた人々は次々と新しく生まれ増え、獲物多く棲みやすき暖かき土地は奪いあわれ血に穢され、杭打たれ国境が築かれ、弱き者、戦いを好まぬ者は、追われ逃げ、進んで移住して、北へ北へ、獲物少なく森深き暗く寒き土地へと、流れ流されて広がって去った。
草の穂や木の実を食し加工し保存する術を身につけた女たちがあった。女たちは男たちの相争う姿に愛想尽かして、女らだけで草の実を蒔き育て収穫して蓄え砦を築き、冬を越え、また歳を過ごした。
噂を聞きつけて子らを従え、また身重の体で、ほうぼうから逃げてくる女達を迎え入れて、そこは女だけが住む大いなる都邑となった。
夫が欲しい女らはその時々でほうぼうへ出向いて行き、手頃な男を見つけ、身ごもると、また都に戻ってきて子どもを産み、麦を育てた。
外の男たちはその都邑を含む一帯をこう呼んだ。…「妻の麦の穂の谷」と…。
近在の男たちは自分と交わった女や自分の種から生まれた赤児たちのいる都邑をあえて襲うことは決してせず、互いにほどよい距離を置いて、女らは女らばかりで暮らしていたが。
ある年、北方の大旱魃と続く大寒波で、耐えかねて南方に押し出してきた一大部族があった。
蛮族の戦士らは女ばかりで食糧を豊かに蓄えている谷の噂を聞くと、遠慮なぞしなかった。
嵐のように襲いかかり、女を犯し、殺し、また拉致し去り、麦は奪い、畑には火を放ち、都邑は砕いて去った。
女たちは、諦めなかった…
嵐が去り、冬が去り、また、残された麦穂の粒から芽が出れば…
戦を好まぬ女たちは、またどこからともなく集まり寄り添い、争わずに暮らせる都邑を築いて、いついつまでも気づかぬ愚かな男たちに嘆息をつきつつ…
再び。育てるのだ。
麦と子どもら歓声とが、谷を、埋め尽くすまで…。