第1話

文字数 8,250文字

「なんで生きてんの?お前。」
 嘲笑混じりで言われたそのセリフに、僕は何も言い返せなかった。なんでと言われれば何となく、としか返せない。なにか目的があるわけでも好きなことがある訳でもない。死ぬ理由もないからただ生きてるだけ。「そんなこと、言わんでよ。」蹴られて痛む横腹をさすりながら、半笑いでそう返すことしか僕にはできなかった。
 僕は普通の高校に通う普通の高校2年生だ。ただ、世間は僕のことを普通だとは思ってなかった。ただほかの人とノリを合わすのが苦手で、楽しい会話に入るのが得意ではなくて、人よりも優れてるとこが特にないだけの「普通」だと思っていた僕は、高校生活が始まってすぐいじめにあった。きっかけは些細なこと。クラスの真ん中にたむろして座り、大きな声で笑いながら話すグループの連中の前でつまづき、転んだだけだった。転んだ僕を見て笑った彼らに対しどうやら僕は不満げな顔をしたらしい。もともと陰気な顔をしてるだけだったのに。なんならその時の僕の心の中は不満どころか楽しい会話をしている彼らの邪魔をしてしまったことに対する申し訳無さに溢れていた。ただし、彼らはそんな僕の心中など知る由もない。僕のことを反抗的なやつ、と位置づけクラスの中で徹底的にはぶいた。彼らにかかればクラスの空気感を操ることなど簡単なことでそれまで特段仲は良くなくても害意なく接してきてくれてたクラスメイトすらも僕と関わるのを辞めた。たった1人の親友を除いて。
 「アキラは悪くないよ。なんというか、ただ運が悪かっただけだ。あいつらはああやって誰か一人をつるし上げて自分の力を誇示したいんだよ。」そうやってイツキは僕の顔を心配そうに覗き、手を差し伸べた。「大丈夫。分かってるから。」ここでも僕は得意の半笑いを見せながらその手を取った。イツキは小学生からずっと同じ学校で陰気な僕にも気さくに話しかけてくれる。今のクラスで人権のない僕を唯一人として扱ってくれる。彼のおかげで僕は生きてるのかもしれない、なんてことをうっすら考えた。「ほら、授業始まるぞ。一緒に戻ろうぜ。」「そう言ってくれるのは嬉しいけど、一緒にいるとこ見られたらお前まで虐められるぞ。」そう返す僕に対しイツキはなんだか悲しそうな目をしながら「友達だろ?そんときは2人で殴られりゃいいよ。アイツらも疲れるだろうしふたりで殴られれば案外1人あたりはそんなに殴られないかもしれないしさ。」と冗談を飛ばしてきた。そんなイツキの顔を見ながら僕は先程蹴られた腹の痛みが引いていくような気がした。
 「〜であるからして、古文と漢文は歴史的背景を知ることが大事なわけだ。」古典の先生はいつも通りゆったりとつまらない授業を続ける。つまらない授業だが、先生という第三者の大人がいる以上アイツらは僕に手を出してこ
ない。授業中だけが安心してこのクラスに居れる時間だ。そんな時、隣の女子生徒が話しかけてきた。「ね、付箋、持ってる?」そう話しかけてきたのは立花咲さんだ。このクラスの委員長であり、いつもみんなに優しい。先輩の男の子に呼び出されて告白された現場も見た事がある。いわゆる良い子で僕を迫害してくるアイツらとは違う意味でクラスの中心人物だ。そしていつも長袖のジャージを制服の上から着ている。急に話しかけられてビックリしながらもそれを悟られないように付箋を1枚とって渡す。「ありがと!助かった〜」笑顔でそう言われた。そういえば高校に入ってイツキ以外の人から笑顔で話しかけられるのなんていつぶりだろう。そう思うと使いもしない付箋を筆箱に入れて置いて良かったと心底思えた。それから特に話しかけられることも無く授業が終わった。アイツらも僕に構ってばっかではいられないようで授業後の呼び出しはなかった。アイツらの気が変わらないうちに僕はイツキと共に帰路に着いた。「サキさん、良い人だよな。こんな俺にも話しかけてくれるなんてさ。」そう自嘲気味に話した僕に対しイツキの反応は微妙なものだった。「そうかな、俺はあの人のあのわざとらしい笑い方嫌いだな。」そう言いながら足元の石を蹴りあげた。そういえばこいつ、昔から女の子苦手だったなと思い、それからサキさんの話題を出すのはやめた。「そういえば、蹴られた腹大丈夫かよ。俺がいない時だったから見てないんだけど今回酷くやられたんじゃないのか。」イツキはいつも僕のことを心配してくれる。ただ僕も男だ。毎回痛かっただの泣き言を言う訳にもいかない。「大丈夫だよ、そんなことより昨日の佐々木廻戦、みた!?」と無理な話題展開だとは分かっていたが今人気のアニメの話に持っていった。そんな僕のつよがりを見抜いてかは分からないが特にアイツらの話を追求することも無く、なんてことないアニメの話をしながら帰った。こんな時間ばっかり続けばいいのにな、なんてことを思いながら現実逃避するかのようにその会話を続けて行った。
 朝。憂鬱極まりない。また今日も学校に行き、つまらない授業を受け、アイツらのストレス発散に付き合い、イツキとしょうもない話をしながら帰る。こんな一日を繰り返すんだろう。行きたくないなあと思うと自然と足も重くなる。遅刻するかどうかぎりぎり。その時急に心が折れた。なんで何もしてない僕がアイツらなんかに殴られるために学校に行かなきゃならないんだ。偉そうにしてる先生も僕の異変に気づいてはくれない。気づいたとしてもきっと揉め事を嫌って見て見ぬふりするに決まってる。やっぱり帰ろう。今日くらいズル休みしたってバチは当たらないはずだ。そう思って回れ右をしようとしたその時後ろから声をかけられた。「アキラくん!なにしてんの!そんなペースじゃ学校遅れちゃうよ!今日校門に立ってるの生活指導の上田らしいから見つかるとめんどくさいよー。」そう軽快に告げ、僕の横を走り去って行ったのは立花咲だった。帰るつもりだった僕はその勢いに呆気に取られてしまい、さっきとは違う理由で動けなかった。今日もはなしかけてくれるんだ、なんてことを考えた。確かに先生は何もしてくれないけれどイツキは仲良くしてくれるし隣の席のサキさんは今日も声をかけてくれる。そう思うと少しだけ気が楽になった。その楽になった気持ちのまま僕は学校に向けて走り出した。
 遅刻することも無く無事学校に着いた僕は自分の席でいつも通り寝たフリをしていた。昼休みも終わろうかと言う時自分の枕代わりにしていた机が大きく揺れた。「おい!寝てねーだろどーせ。俺ら友達が来たってのに無視して寝たフリこいてんじゃねーよ。いつも通り遊ぼーぜ。」そう声をかけてきたのはアイツらだった。顔を上げるといつも通りのニヤケヅラで僕の方を見ている。もちろん、僕に拒否権なんてない。泣きそうになる気持ちを抑え、半笑いで立ち上がった。今日は何発殴られるのかなあ。せめて2発くらいにしてくれたら助かるんだけど、なんてことを考えながらついて行こうとした瞬間、後ろから大きな声がした。「アキラくん!先生が進路について話があるってさ。私と今すぐ職員室に来てって。」立花咲はそう言いながら僕の手を取り、強く引っ張った。アイツらは不満げな顔をしながらも先生というワード、委員長という存在に対しては無力なためチッと舌打ちをして帰って行った。強く引っ張っられるままに廊下にでると、サキさんは不安そうな顔で僕の顔を見てきた。「いつも、この時間アイツらに呼び出されてるもんね。なんだか見てられなくなっちゃって。呼び出しなんで嘘ついちゃった。」彼女はそう言うと僕の手を離した。僕は助けてもらった嬉しさ、殴られなくて済む安堵感を感じながらも女子に助けられたという恥ずかしさからぶっきらぼうに返事をしてしまった。「別に、大丈夫だよ。慣れてるし。」そう伏し目がちに返すと彼女はいつもの温厚の顔とは違い、顔に怒りを浮かべながら言い返してきた。「殴られるのに慣れる状況が正しいわけないでしょ!何かあったら、言って!私、委員長だから何とかするよ。」そう言うと彼女は自分のクラスに向かって歩き出した。数歩歩き、立ち止まった彼女は振り向きながら僕の方を見て言った。「わかるの。わたしも虐められてたから。誰も助けてくれないって思うと、辛いよ。何も出来ないけど、何かあったら力になるから。いつでも私に連絡して。」そう言いながら電話番号の書いた紙をわたしてきた。そのまま彼女は走り去り、もうこちらを振り向くことは無かった。
 その日の放課後、イツキと帰りながらしょうもない話をしていると、嫌な声が聞こえた。アイツらの声だ。大きいばかりで品がない。取り巻きの笑い声も聞こえてくる。イツキもそれを察知しこちらに心配そうな顔を向けてくる。幸い向こうはこちらに気づいていないようで僕たちの方には来ず、角を曲がって行った。安堵しため息を着くとイツキが怪訝そうな顔をしていた。「どうかしたの?」と聞くと「いや、なんだか女の子の声も聞こえた気がして。そんなわけないよな。アイツらいつも男としかいないし。」そうつぶやいた。「気のせいじゃないか?俺は聞こえなかったし。そういえば女の子と言えば!サキさん今日俺がアイツらに連れてかれそうになったのを止めてくれたんだ。やっぱり良い子だよ。」そういう俺に対しどこか引っかかる顔をしながらイツキは「そうなんだ。良い子だな。ああいう子ばっかだったらもっと楽なのにな。」と返した。「アキラ、もしさ。どうしようもない時があったら言えよ。俺は隣のクラスだからいつも見てはやれないけど、いつでも助けになるからな。なんかあったらすぐにでもいえよ。」そう言って微笑む親友に対し、若干の劣等感を感じながらも嬉しい気持ちは隠せなかった。
 その次の日からいじめがやんだ。アイツらは俺に構うことなく毎日楽しそうだ。なぜかわからないが呼び出しもなくなった。そのおかげでクラスメイトたちも今までよりか話しかけてくれるようになった。唐突に始まったいじめが唐突に止んだのだ。その違和感を感じながらも手に入れた安息の日々を俺は楽しんでいた。
 いつも通りのホームルームが終わり、ぼーっとしているとアイツらがトイレから帰ってきた。何やらニヤニヤとして楽しそうだ。目を合わさないようにしているとアイツらは俺の机まで着てこう言った。「今までごめんな。俺ら友達としてこれからは仲良くしてくれよ。」急に何を言っているのかわからなかった。ただ、そう言われて反論などできるはずもない。俺はいつも通りの半笑いでう、うん、と返した。アイツらは笑いながらなにか意味ありげな目線を向けて去っていった。次の授業を受ける準備をしているとサキさんが隣の席に戻ってきた。いつも通り長袖のジャージを着ていたが、いつもよりも袖をひっぱって着ているように感じた。その視線に気づいたのか両手を膝元に隠し、「次の授業、体育だよ。早く準備しないと。」と笑いながら声をかけてくる。俺が生返事を返すと「なんだか最近のアキラくん楽しそうでよかった。また何かあったら私に言ってね。」そう言いながら彼女は教室を出ていった。
 その日の帰り道、イツキはなんだか物憂げな表情だった。何か悩みでもあるのだろうか。いつもは楽しそうに食いついてくるアニメの話にも反応が悪い。「なにか、あったのか?上の空だから。気になって」そう聞くとイツキは言い出しづらそうな顔をしながらも、口を開いた。「お前に言うのは悪いんだけど、サキさんのことなんだよ。前にさ、帰り道アイツらに会いそうな時あったろ。その時聞こえた女の子の声ってのがサキさんだった気がするんだ。聞クラスメイトに聞いてみたらアイツらとサキさん、同じ中学校で昔は仲良かったらしいぜ。」「ああ、その事ならなんか心当たりあるよ。サキさんにアイツらに虐められてることがバレた次の日からいじめがやんだんだ。多分注意してくれたんじゃないかな。」「だったらいいけど、そんなんでアイツらがいじめを辞めるかな。」何かを含ませたようなその言い方になんだかイラッとした。「何が言いたいんだ?」そう語気を強めて聞き返すとイツキは渋そうな顔をしながら口を開く。「いや、俺は彼女の笑い方がどうか嘘臭く感じるって前言ったろ。お前を助ける理由もないし。わざわざ声をかけてくるのも弱者を救う私えらいっていう自己肯定感をたかめるためだけの偽善者にしか見えないんだ。」それを聞いて俺は酷く不快な気持ちがした。「そうだよな。虐められてる俺なんかに声をかけるやつなんて偽善者しかいないもんな。」そう返した俺の顔を見てイツキは後悔の念を浮かべる。「違う、そういうことが言いたかったんじゃない、おれは」「いや、いいんだ。事実だから。お前もそうだったんだろ?いじめられてた俺を見下してさ。偽善者はお前じゃないか。いつもお前は俺が蹴られたり殴られてる間何もしてくれなかった。終わったあとに来て同情の言葉を投げかけてくるだけだ。サキさんはいじめをとめてくれたしその前にも俺を助けてくれてた。偽善者はお前だよ、イツキ。」ここまで言ってしまってからいいすぎた、と思った。ただ、1度昂った感情は止まらない。「俺、先に帰るわ。」そう一言言い残し俺はイツキを置いて足早に帰った。
 イツキと絶交してから1ヶ月くらい経ったあと、購買に行こうと歩いているとアイツらの声がした。関わらないように道を変えようかと思った時、聞き慣れた女性の声がして足を止めた。サキさんだ。「約束は明日だからな。ちゃんとやれよ。」「わかってる。私はあんたたちなんかに負けないから。」そんなやり取りが聞こえてきた。心拍数が上がるのを感じる。そうだ。いじめが唐突に止むわけがなかった。誰かが身代わりにでもならない限り。サキさんだ。サキさんがあの後俺の代わりにいじめを受けていたんだ。そう気づき、今まで能天気に日々を楽しんでいた自分に腹が立った。吐き気がした。俺を気遣ってくれた人の事を俺は何も気遣えてなかったんだ。アイツらの笑い声と足音が聞こえてる。アイツらはこっちに向かってきている。そう気づいたが足は動かなかった。見つかった。アイツらは笑うのをやめてこちらに向かってきた。「良かったな。最近楽しそうで。」そう言ってニヤリと微笑んだ。俺は何も出来なかった。「そうだ、お前明日いつもの場所にこいよ。覚えてるだろ?いつも俺らで楽しんでたあの場所だよ。久しぶりに遊ぼうぜ。」そう言うとアイツは俺に肩を組み、耳元で囁いた。「やくそくだからな。友達だろ?俺たち。」そう言って笑いながら去っていった。アイツらが去っていったあと、声がした場所に向かうとサキさんが一人で立っていた。「サキさん、」なにか声をかけようとしたが何も出てこない。今までのうのうと過ごしていた奴が何を声をかけれるというのだろう。「聞いてたの?私は大丈夫だから。」そう言いながらジャージの袖を引っ張る。「明日さ、アイツらとちゃんと話すんだ。昔は仲良かったし、ちゃんと話せばきっと良い子に戻ってくれるよ。」そう笑いながら話す彼女に僕は何も出来なかった。
 1日が過ぎ、その日の放課後、アイツらとの約束の場所へ行くとサキさんがいた。あいつらはまだ来てない。俺は迷ったがサキさんに声をかけた。「大丈夫?俺の代わりに、ごめん。」「私は大丈夫って言ったじゃん。約束あるから私行かないと」そう言いながら逃げようとするサキさんの腕を掴んでとめた。「俺の代わりにアイツらのいじめにあってるんでしょ。そんなの見過ごせないよ。前みたいに俺が孤立すれば済む話だ。」そう言った時ある違和感に気づいた。サキさんの長いジャージの下に青い痣らしきものが見えたからだ。サキさんはその視線に気づいたのか手をはねのけ、「大丈夫だから!!!」と、強く言い放った。そこから沈黙が続き、サキさんが口を開いた。「私ね、アイツらが悪いやつだって知ってても、ちゃんと話せば大丈夫かなって思ってたんだ。アキラくん、いつも教室で悲しそうな顔してたし。助けたかったんだ。私も虐められてたことあるって言ったよね。それ中学の頃の話なの。私もアイツらに委員長気質が腹たつって理由で目をつけられててさ。私と同じ境遇のアキラくんみてたらいても立っても居られなくて。」そう言うと彼女は涙を隠すようにジャージの裾で目を覆った。「ねえ、あきらくん。2人で逃げない?この高校辞めてさ。2人でどこか行こうよ。私、もういやだ。どっちかがいじめられるならどっちも逃げるしかないよ。片方が救われてももう片方が傷つくなら、もう逃げた方がマシだよ。アイツらとの約束なんてもういいじゃん。今日はもう帰って、明日からこの学校来なければいいんだよ。ねえ、アキラくん。そうしよ?」そう言いながら俺の腕を掴む彼女の口元は、笑みが浮かんでいた。「うん、そうしよう」そう言いそうになりかけたところで思いとどまった。これで、いいのだろうか。俺を助けるために犠牲になった彼女がなぜ学校をやめなくてはならないのだ。俺は、まだ立ち向かってない。反抗してない。ただ周りにいじめられて、周りに助けられただけだ。次は、俺の番だろう。俺が何とかすればいいんだ。「サキさん、その提案はだめだよ。僕が何とかするから。サキさんは先に教室帰ってて。もうすぐアイツらが来るから。2人とも笑顔でこの学校に通えるようにするから。その提案には乗れない。」そう返すとサキさんの顔から笑みが消えた。「はーーー…負けかぁ…」そうサキさんはつぶやき、舌打ちをした。「え、どうか、したの?」そう俺が聞き返すと後ろのドアが勢いよく開き、アイツらが入ってきた。「よーーし!俺の勝ちだな!サキ!」そうニヤケヅラで教室に入ってくるアイツら。俺は状況が掴めなかった。「行けるかと思ったのになー。わざわざ腕にメイクまでしたのに。最後の最後で無駄に勇気出しやがって。ほんとに使えない。」サキさんはそう言うとアイツらに1万円を手渡した。「おい、何ほうけてんだよこの間抜け。」そう言いながらアイツは俺の腹を蹴りあげた。鈍い痛みが走り、その場に倒れ込む。息苦しくなりながらも俺はアイツらに向かって「どういうこと?なにが、なんで?」そう聞くとアイツは俺の顔の目の前で満面の笑みを浮かべる。「賭けてたんだよ。お前がサキの誘いにのって俺らから逃げるか。それとも乗らずに俺らとの約束を優先するか。俺はお前に逃げる勇気なんてないっておもってたんだけどな。」そう言って言葉を切り、俺に顔を近づける。「お前、サキのこと好きだろ。助けてくれてたもんな。お前のこと。サキはな、お前の代わりにいじめを受けてたんじゃなくて賭けに勝つために俺らにいじめを辞めさせてお前の好感度を稼いでたんだよ。騙されやがって。まあ思ってたよりお前がサキに入れ込んでたおかげで俺は儲けることができたんだけどな。」そう言うとアイツらは高笑いをした。状況が掴めた。吐き気がする。なんで。信じてたのに。俺は。こんな俺でも生きてていいんだって。学校に来るのが楽しくなってたのに。なんで俺をみて笑ってるんだよ。サキさん。なんで。その笑い顔を見てるとイツキが言っていたことを思い出した。「俺はあの人のあのわざとらしい笑い方嫌いだな。」わざとらしい笑い方。たしかに。見たことない。こんなに笑顔で笑うサキさんを俺初めて見た。ああ、イツキが正しかった。俺は本当に自分のことを思う友達を信じず偽善者として迫害した。その結果がこれだ。その瞬間、世界が裏返った。見えていたものが、全て逆になった。信じいた人は俺の敵だった。俺をバカにして、嘲笑っていた。あの時、ちゃんとイツキの話を聞いていれば。この女の顔をちゃんとよく見ていれば。アイツらのニヤケヅラの意味を考えていれば。俺は。こうはならなかったのに。「ぅぅううあぁあああああああぁぁぁぁああ!!!!」そう叫び、気づいたら俺は窓から飛び降りていた。飛び降りる刹那、一瞬見えたアイツらの顔は焦っていた。まさか飛び降りるとは思ってなかったんだろう。ざまあみろ。これで俺のいじめのことは問題になる。アイツらも大変なことになるだろう。ざまあみろ。ざまあみろ。そんなことを考えていると、強い衝撃が体に伝わる。その瞬間、俺の意識は途絶えた。裏返った世界はもうもどらない。
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