第1話

文字数 1,068文字

「うーん……」
「……なに? じろじろ見て」
 幼なじみがじーっと見つめてくる。学校を出てからずっと。さすがにうっとうしくなってきてにらみ返すと、「いや……」と首をひねられた。
「なんか最近さ、まぶしいんだよな」
「何が? 日差しが? 帽子とか被れば?」
「いや……。羽月が?」
「……。は?」
 予想外の答えが、しかも疑問形で返ってきて、つい怪訝な声をあげてしまう。が、すぐに納得のいく答えを見つけた。
「ああ……。この間から、夏服になったからじゃない?」
「なんで夏服になったらまぶしく見えるんだよ?」
 首をかしげて問い詰めてくる、少しおバカで鈍感な幼なじみに、「ほら」とセーラー服の白い襟とリボンをつまんでみせる。
「冬服ってさ、全体的に暗いでしょ? 特にうちの制服は襟のラインもリボンも真っ黒だからさ、まわりと比べてもかなり暗く見えるわけ。けど先月から夏服着てるから、そのせいでまぶしく見えたんじゃないの? 白いし、光も反射するだろうし」
「そうかー……?」
「昨日からは盛夏服着てるから、なおさらじゃない? 襟まで白いから、これ」
「たしかにな。今日なんて、家出たとき目開けられなかったくらい太陽もギラッギラだしな」
 納得したのか頷いている。その様子を横目で見ながら、羽月はぎゅーっとかばんを握りしめた。
 ——っあーびっくりしたーっ! 私がまぶしく見える、とか! まぎらわしいことを言うなバカ!
 羽月の心中なんて知らず、そっかー、そりゃ夏はまぶしいわなーとつぶやいていた幼なじみが、じゃあ、と隣に向き直る。
「同じく夏服の俺もまぶしく見えるわけだ」
「……今は別にそこまでまぶしく見えない」
「なんでだよ! あれか、夕方だからか⁉ 昼間ならどうだ!」
 そうじゃない、とは言わないでおく。
「そんなに発光したいの? 誕生日、光るカチューシャとかあげようか?」
「別に光りたいわけじゃねぇわ! 羽月がまぶしくて俺はまぶしくないとかなんか悔しいだろ!」
「……前からバカだとは思ってたけど。純って、思ってたよりもさらにバカで子供なのかもしれない」
「バカでも子供でもない。バカにすんな」
 こうやってぎゃんぎゃん言い合う関係も楽しい。楽しいから、今までもきっとこれからも、何も変わらない、変えようとしないまま。
(だってこいつ、ほんとにバカだしな……。自分はまぶしくなくて悔しいとか、子供か……)
 心の中で八つ当たり気味につぶやく羽月は、純が「いやでも、他のやつも夏服は着てるから白いよな……? でもまったくまぶしくは見えねえな……?」とまた首をかしげていることに気づかない。

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