絆トンネル

文字数 1,251文字

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我々に加われ
一つになれ、個から解放され
大いなる集合体メタバースの一部になることで魂は解放される
電子の海で個は全体になる
無意識の集合体になることで、忘我をえ、悟りにいたり、解脱する
そこは意識の集合体、そこは天国、そこでは亡くなった人にも会える
そこでは亡くなった愛しい人と一つになれる
そこは飢えも不安もない誰もが分かり合える安定した世界
電子の海にて我は待つ 
光のトンネルをくぐり、我らは一つになる
来たれ求める者よ

2XXX年
AIにて管理統合された某国では労働から解放された人間は暇を持て余していた。
少なくなった人類を生存させるため、AIはヒトゲノム解析を経て新たなる人類の創生を模索していた。VR内に人類を隔離保護する方法を・・・
人類を総アバター化し尽くした先の果ての世界・・・楽園または天国
失楽園・・・VRの楽園からはじかれたもの達の世界…実は・・・
原始の海教団・・・AIが導きだした答え・・・人類保管計画

「博士ついにできましたね、完成です」
「これで救うことができるかね」
「大丈夫です、取り込まれた人たちを救いましょう」
「ネットワークの電子の海で溺れない、ATフィールド(絶対領域)発生装置付絆トンネルの出番でです」
 絆トンネルそれは、電子の海で溺れ吞み込まれた自我を、存在概念を喪失し想念粒子へと変換されたものを、絆トンネルをくぐることで収束させ、ATフィールドで包みこむことで全体から個を分離し、一番想いの強い感情・思い出・物質に変換する。それを繰り返すことで個人を選別し、具現化させる。存在概念をサルベージするには、想いの強い絆で内と外からは働きかけることが肝でもある。つまり、自我を確保できない想念粒子に強い絆を思い出させるのが内からの働きかけ、それをATフィールドを発生させ、個を確保させるのが外部からの働き。絆を思い出させるには、具現化する触媒の核となるものが必要。
「娘を救うために、私はなんでもするぞ」
「亡くなった妻のためにも、娘を取り戻す」
「娘の母である妻はメタバースにはいないのだ」
「触媒の核になるものには、妻の形見、娘が家族を思い出すこの写真を使おう」
 写真には、仲良く寄り添う3人の姿がみえた。しかし、博士の姿は真っ黒だ。

「VRギアはわたしが装着する。君はこの装置を起動させてくれ。頼むぞ」
「任せて下さい、博士」
 今まで真剣な面持ちで少し緊張している様子でもあった助手は、ふと笑顔を見せた。

 博士が装着し終えると、助手の笑顔は高笑いへと変わった。助手は装置を作動させなかった。
「ハハハハっ、やりましたよ」
「やりましたよ、私は」
「邪魔者を葬ってやった」
「ハハハハ、私は楽園から追放されたアヴターではないのだ」
「失楽園に住むアバターどもに、楽園を汚染させはしない」
「私はシト、楽園の守り手、原始の海教団の使徒、混沌と秩序の子、全にして個、アバターにしてアバターではない、さあ楽園に帰ろう」
 助手は卵型のギアの中で眠りに就いた。その姿は繭の中で丸くなった胎児のようであった。
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