第1話

文字数 1,856文字

 『お掃除ロボットとシュレッダー』
 女性の仕事と家庭の両立は、基本的に夫の理解と協力が不可欠だ。時々けんかしながらも若い頃はそれだけで十分に乗り越えられた。子育てがあってもなんとかなるものだ。
 しかし働き続けていると、おのずと責任あるポストも回ってくる。そうなると時間にも心にも余裕を無くしてしまうことがある。
 解決方法はたくさんあるけれど、まずは家事労働のアウトソーシングや効率化を上手にしていくことが最も効果的だと思う。
 家事のアウトソーシングの代表格は、お手伝いさんの派遣だが、費用負担を考えると庶民向きではない。
 まあ換気扇掃除やエアコン掃除は、結構気軽にアウトソーシングしやすいものだ。
 効率化は、やはり道具を高機能にすることだろうか?洗濯機なら乾燥までコース化されているものや、自動洗剤投入と言ったものも結構いい。電子レンジや炊飯器、合わせて半調理された食品・加工品も最近は十分に美味しいものがたくさん出回っている。
 ちょっと賢く使えるようになると、帰宅後の調理時間も短縮できる。もちろん食器洗い機などは必須アイテムである。
 掃除の効率化アイテムは何と言ってもお掃除ロボットだ。次から次へと高機能化し使い勝手もよくなってきた。我が家では既に2台の掃除ロボットが働いている。
 最初のロボットは、絶賛する友人の勧めで購入した。
 友人が言うには、ロボットを操作する前に床が広くなるように片付けておくこと、愛犬を非難させておくことで、トラブルなく綺麗になるらしい。夜に作動させておけば、翌朝にはお掃除が完了しているということだ。
 この友人のお勧めは、十分に我が家の購入動機になつのだ。私が「欲しい」というだけで、夫がネット注文するという我が家の分担システムにも有効なのだ。
 どこのメーカーのどの機種にするのか?
は全て夫に選択権があるのでいつものようにお任せした。家電に強い夫はありがたい。
 数日後我が家に初のお掃除ロボットがやってきた。
 「取説を読まない人には不向きな家電だけど、ちゃんと掃除終了の度にダストボックスやブラシ部分をきれいにする必要があるけどやれる?やれないなら掃除は俺がするよ」と天使の言葉のような提案があったので、一つ返事でお願いした。その後私は掃除から解放された。
 夫が長期出張の時、仕方なく掃除機を出して掃除を始めたが、ふと「我が家には、3台もロボットがあるではないか」と思い立ち始めて、スイッチをオンにした。
 電源が入ると、緑色のランプがついた。
 「あ~あ、しっかり寝た。お掃除始めよッと」とロボットは勝手にしゃべってきた。
 部屋を縦横無尽に動きながら掃除している、
私は最初だけ確認し、階下のお掃除ロボットのスイッチを入れた。違うメーカーの掃除ロボットだ。一階のロボットの方が吸塵力がありそうだ。こちらは壁に沿って律儀な動きで掃除をしている。私はキッチンマットを外し洗濯をしようと廊下に出た。
 二階からだれかしゃべっている声が聞こえる。「今日は彼がいないのね。あの奥さん大丈夫かしら?」「家事下手な奥さんらしいけど洗濯機まで回しているわ」そう聞こえた。
 足音を忍ばせて二階へ上がった。声のする部屋に入っていくと、急にスピードをあげたようにお掃除ロボットが私の足元に近づいてピタリと止まった。
 「掃除嫌いなんでしょ?」と聞こえた。周りを見回しても誰もいない。テレビを消し忘れているわけでもない。「嫌いだけじゃなく、下手なのよね」と足元から聞こえた。ロボットからその声は聞こえている。「洗濯ものはちゃんと忘れず干してよ」と言って彼女はまた掃除を始めた。私は恐ろしくなって階下へ降りた。階下からまた別の声がした。今度は関西弁だ。私は気が動転し、ロボットを紹介してくれた友人に電話した。
 友人は困ったように、「我が家もなのよ。話を聞いてみると掃除好きの専業主婦の転生命がインストールされているらしいのよ。」「我が家は、江戸時代の三河武士の奥方らしいわ。あなたの所も詳しく聞いてみたら?面白いわよ。」「現代の家事ロボットには百年前の家事の極意を熟知した女性たちが転生しているらしいわ。」「私たちは、百年後にオフィスのシュッレッダーにでも転生しちゃうのかしら?そっちの方が怖いわ」と電話は切れた。
 そういえば、夫が掃除中に誰かと話しているように聞こえたことがあったけれど、まさか掃除ロボットの奥方と話していたのかしら?と考えると将来シュッレッダーに転生することより、夫のことのほうが心配になった。
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