人工知能(AI)の画期的性格について

文字数 4,920文字

人工知能(AI)技術は、
農業・工業・情報技術に続いて文明の発展段階を分けるような、
画期的技術、文明発展上の主力技術だと思います。


Ⅰ 人工知能とは

人工知能とは、機械学習により法則性の発見と応用を可能にする、
自己改良型の演算指示(プログラム)です。

従来の電算機(コンピュータ)では、何か仕事をさせる時、
『こういうときはこうする、ああいうときはああする』と
一々教えておかねばなりませんでした。

しかし人工知能なら、人間が与えた課題を解決するため、
人間自身が『どうしたらいいか分からない』時も含めて、
機械が自らの経験から学習して判断し、活動を修正していける、
すなわち人間のように『考える』ことができるというのです。

人間は、高度な知性に基づく文明活動により、発展してきました。
知性(知能)とは、知的生命活動能力すなわち、
抽象的な思考により物事の間の因果法則を発見し、
その原因に働きかけることで、生存に好ましい結果を得ることです。

これまでは人間にしかできなかった、
法則性の発見と応用という知的活動自体を、
機械が行えるようになるというのは、大きな技術的飛躍です。


Ⅱ 主力技術とは

では、文明発展上の主力技術とは何でしょうか?
それは経済・社会活動に対し、
大きく直接的な影響を与えて変革をもたらし、
さらには制度・政策までをも変化させて、
文明社会全体に画期的な影響力を及ぼす……、
つまりは『社会を変える』ような技術です。

以下の文明論(私見)によれば、それを理解しやすいと思います。
文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動ですが、
自然から富を得て、それを豊かにするのが科学・技術であり、
人々の間で富を分け、それを健全に保つのが制度・政策です。

しかし、技術の利用には物的資源への具現化、
政策の実施には人的資源による実現、
政策による新技術の開発・普及時には、
自然・社会環境が、制約または促進条件となります。




以上の6要素から文明の意義を説明するのが、
私的文明論〝文明の星〟理論(仮説)です。
ご興味がおありの方は、拙作『文明の星』なども
ご覧いただけましたら幸いです。

この理論からみると、技術の分類としては、
主力技術の他に3種類、計4種類が考えられます。
それは、主力技術の物的資源化に役立ち、
次世代の主力技術をも生み出し得る関連技術、
科学研究・技術開発に役立つ研究・開発技術、
制度・政策の実現を助ける社会工学的技術です。




これと対称的な形で、政策の分類にも4種類が考えられます。
経済・社会活動に直接働きかけて、
人々の利害を調整する経済・社会政策、
人的資源の確保のための保健・教育といった人的資源政策、
制度・政策自体の企画・実施のための行政管理政策、
科学・技術の開発・普及を助ける技術的政策です。




人工知能と各種政策の関係について言えば、
まず、すでに国の技術的政策においても、
AIを活用する新しい社会の創造という意味で、
『ソサエティ5.0』という言葉が使われています。
狩猟・農耕・工業・情報社会に続く人工知能社会、
文明としての順番でいえば4.0にあたるでしょう。

また、スマートグリッド(技術的政策の中の、インフラ政策)、
マイナンバー(経済・社会政策の中の
財政・社会保障政策、及び行政管理政策)、
データヘルス(人的資源政策の中の、保健[公衆衛生]政策)や、
スマート/スーパーシティ(総合的な、地方自治政策)など
他の政策においても、人工知能の普及や利用を前提とし、
あるいは想定しているのではないでしょうか。


Ⅲ 検証

しかし、人工知能は本当に、主力技術といえるのでしょうか?
『社会を変える』主力技術の具体的基準とは、一体何でしょうか?
それは、①科学・技術において全く新しい分野を(ひら)き(新規性)、
②多くの在来技術の生産性を高める(多能性)ことだと思います。

ここでは他の主力技術と並べて比較した、
8つの視点から新規性・多能性を考えてみました。
4が多能性、それ以外の1~3、5~8が新規性をみる視点になります。

1.本質
農業技術 …… 体外物質の利用
工業技術 …… 体外エネルギーの利用
情報技術 …… 体外情報の利用(記録 ・演算・通信)
AI技術 …… 体外知性の創造と利用(思考)

2.直接的産物
農業技術 …… 農地・牧場
工業技術 …… 動力機械
情報技術 …… 電算組織(コンピュータ・システム)
AI技術 …… 自己改良型演算指示(ソフトウエア)

3.直接的効果
農業技術 …… 食料の生産
工業技術 …… 物品の生産・輸送の大量高速化
情報技術 …… 機械操作や社会活動の効率化
AI技術 …… 技術開発や意思決定も含む、人的(知的)役務(サービス)の代行支援

4.在来技術への貢献
農業技術 …… 金属器、狩猟・採集技術の改良など
工業技術 …… 農業機械、大型漁船など
情報技術 …… 遺伝子解析、産業ロボットなど
AI技術 …… 新素材・エネルギー、知能ロボット、
自己学習型の 電算組織(コンピュータ・システム)など

5.必要な関連技術
農業技術 …… 土木、冶金、器械など
工業技術 …… 機械、化学、電気など
情報技術 …… 電子、ソフトウエア、光工学など
AI技術 …… 制御工学(コントロール・エンジニアリング)生物工学(バイオテクノロジー)生物模倣工学(バイオニクス)応用情報科学(インフォマティクス)など

6.経済・社会活動への影響
農業技術 …… 食料確保による安定化
工業技術 …… 大量生産による豊富化
情報技術 …… 情報処理による利便化
AI技術 ……(体内環境含む)自然・社会環境との親和化

7.制度・政策への影響(長期的なもの)
農業~工業技術 …… 技術的政策の時代
(富の防衛を含む生産のための、開発や国防を行う国家が生まれる)
工業~情報技術 …… 経済・社会政策の時代
(富の再投資を含む分配のための、社会保障や産業政策の比重が増す)
情報~AI技術 …… 人的資源政策・行政管理政策の時代
(生活向上・高齢化や進歩の加速化により、富の生産と分配を担う
人間自身の向上や活用が必要かつ可能になる)

8.文明への影響
農業技術 …… 文明の成立
工業技術 …… 文明の世界的拡大
情報技術 …… 地球的限界への到達による衝撃の緩和
AI技術 …… 地球上における持続可能性の確保

以上のように見てみると、やはり人工知能(AI)技術は、
農業 ・ 工業 ・ 情報技術のように次なる文明段階を(ひら)く、
主力技術としての要件を備えていると思います。


Ⅳ 意義

私は初め、人工知能もこれまでと同じ電算機(コンピュータ)の話でしょ?
などと思っていました。
しかし、それは動力機関と電算機(コンピュータ)を、
同じ機械だからといって同視するような、誤りでした。

冒頭でも述べたように、従来は人間だけが行えた、
一般法則の発見と応用という、知的活動の本質的な部分を、
機械に支援・代行してもらえるようになるというのは、
全く新しい分野を開拓する、技術革新です。

しかも、電算組織(コンピュータシステム)の演算・記録・通信能力は高いので、
その学習能力は人間よりも桁違(けたちが)いに大量高速であり、
同様の事例があれば忘れることなく迅速的確に法則を適用し、
学習内容を他の電子頭脳に広めることも簡単確実です。

小規模電力を集めて変化する広域需要に応えるには、どうしたらいいか?
必要とされる性質を持つ物質を見つけて作るには、どうしたらいいか?
事故や渋滞を防ぐため、どう運転や交通を制御したらいいか?
ある内容を他の言語で伝えるには、どう翻訳・表現したらいいか?
人間同様の仕事ができるロボットを、どう作り、動かしたらいいか?
顧客の需要を満たし収益を増すには、どんな商品や販売法がいいか?
人々の生活や健康を改善するため、どんな助言をしたらいいか?
難病を治すために、どう新薬の発見・製造や遺伝子治療を行えばいいか?
様々な子供達に教育を提供するため、どんな個別的配慮を行えばいいか?
国民の満足度を高めつつ行政費用(コスト)を下げるには、どうしたらいいか?
……それらに必要な法則性を発見し、情報提供や機械操作をするのです。

こうした機能を持つ人工知能は、
人間の頭脳だけで運営するにはあまりにも拡大し、複雑加速化した、
文明活動すなわち技術や政策、経済・社会活動を運用していくうえで、
必須の技術だと思います。


Ⅴ 危険(リスク)

しかし、技術は両刃(もろは)の剣です。
特に、強力な主力技術の使用には注意が必要です。
農耕技術も、不作による飢饉(ききん)などの恐れを伴います。
工業技術は、核戦争による自滅の危険をもたらしました。
情報技術も、ウイルスやデマ拡散などを通じて、
社会に甚大な被害をもたらす恐れがあります。

人工知能においても、将来ありうる人間の知能を超えた汎用AIが、
映画『ターミネーター』のように人間の制御を離れ、
人々に危害を及ぼすようになってしまったりしたら大変です。
そこまでいかずとも高度な人工知能が、悪意ある人間に利用されたり、
人間が与えた命令を誤解したり、重要な判断を誤ったりするだけでも、
人類の危機をもたらしてしまうかもしれません。

『人工知能はこの世の楽園も終末ももたらしうる』と言われるように、
使い方を誤れば人間の文明や、存在意義さえ危うくしうる技術なので、
あくまで最終目的は人間が正しく決定し、良い結果を導けるよう、
その開発・利用をしっかり管理していくことが不可欠でしょう。

そこで、『勝てないなら、混ざれ』(イーロン・マスク)ということで、
人間の脳と電算組織(コンピュータシステム)の直接的な接続を図り、
さらには量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)も考えられるなど、
人間自身が近づくことで、危険を避ける発想も生まれてきました。

究極的には、人類が各種の量子頭脳や機械・生物的な身体の間で
自由自在に人格を移転できれるようになれば、
神あるいは悪魔のような全知全能・永遠不滅に近い存在になれましょう。
私も拙作(せっさく)『ルシファー』シリーズで、その設定を使わせていただきました。

もちろん人格転移(マインドアップローディング)ほど高度な技術は、すぐには実現できないでしょう。
しかしいずれは遅かれ早かれ、『人間は神のようになる』
(レイ・カーツワイル)ともいわれます。
どうせなるなら『責任ある神々にならねばならない』
(Y.N.ハラリ)ということで、
今からしっかり安全策を講じてゆかねばなりません。

安全対策としてはまず、知的生命活動の段階に応じて、
学習内容を管理する、行動能力を制限する、
判断過程を可視化・調整するなどの関連技術や
そうした技術を開発するための研究・開発技術が必要でしょう。

しかし、こうした強力な主力技術の健全な開発・普及にはまず、
技術の開発・利用を助ける、技術的政策での配慮が不可欠です。

また、技術により変化する社会の利害を調整する経済・社会政策、
社会を営む我々自身の能力を向上させる人的資源政策、
そうした政策を健全に行う行政管理政策といった、
他の政策との連携も求められます。

すると、そうした総合政策の実施を助ける
企画支援技術(オペレーションズ・リサーチ)など、
社会工学的な技術も重要になってきます。

それらができて初めて、AIを中心とする次世代技術が、
今の段階では解決しきれない政策課題の解決を可能とし、
次なる文明段階を導いてくれるのではないかと思います。


Ⅵ まとめ(結論)

従来の様々な技術と同様に、危険を防ぎつつ活用できれば、
これまでは人間にしかできなかった仕事(問題解決)を
より良くできるようになるというのが、
人工知能技術の画期的な利点です。

そのような人工知能(AI)を中心とする次世代技術は、
① 新素材・新エネルギー、IoT(インターネット・オブ・シングス)とビッグデータ処理、
知能ロボット、生物工学(バイオテクノロジー)生体工学(バイオニクス)、先進医療・教育のように、
② 人工物・自然物間の障壁を除いて双方の持続可能性(サステナビリティー)を高める、
体内環境含む自然・社会環境に優しい技術であり、
③ 環境、経済、社会(人間含む)、政策の全分野において、
まさに文明の持続的発展を可能にしてくれる技術であり、
〝持続可能性技術〟あるいは〝環境親和技術〟と呼びうる技術です。




これを環境と生物の相互作用という生物学的視点から(とら)えると、
人智を越えて拡大、複雑加速化していく文明活動に対し、
その自動最適化により人間の頭脳を助け、
文明の自己制御による持続的発展を可能にする技術といえます。

地球上での持続可能性が実現できれば、それは本格的な宇宙開発という、
次なる文明段階への発展にも役立てることができるでしょう。

人工知能(AI)を中心とした次世代技術と、
その活用政策に期待します。
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