第1話
文字数 1,997文字
私はペンギン。
私の仕事は日夜水族館に訪れる人間たちに愛嬌を振り撒いて喜ばせること。そう、いわばアイドル。
別に自分で選んだわけじゃない、生まれた時から運命付けられていた。
私のルーツは“南極”っていうここからすごい遠いところにあるらしく、そこには人間はいなくて、だからアイドルもいなくて、家族と自然の中で気ままに暮らしてるんだって誰かが言ってた。
それを聞いて、ここに生まれて本当に良かったって思った。
ここにだって大事な仲間がたくさんいるし、多い時は1日3公演もあるペンギンショーも慣れるまではキツかったけど、キラキラ目を輝かせてる子供とかキャーキャー言ってカメラを向ける大人を見るとすごいモチベになるし、毎日すごい充実してる。
うちは新設水族館だったから最初は全然ガラガラで、それこそ閑古鳥が鳴いてたけど、だんだんファンの人も増えてきた。
多分私は元々アイドルに向いているんだと思う。
てか、南極って周り何にもなくてほぼ氷しかないらしい。Wi-Fiない世界なんて無理。ほんと日本最高。
アイドルは個性。
これはアイドル世界における不文律らしいんだけど、ペンギン界ではこれがまた難しい。
何せお客さんである人間達は私たちペンギンの区別がつかないらしい。私はこんなにかわいいのに。
だけど、私にはとっておきの個性がある。
実はエスパーなのだ。
いや、待って、電波ちゃんじゃないから。そういうボロの出やすい設定は敵を作りやすいからダメ。
初めは人間の感情がちょっとわかる程度だったし、何も自分だけの能力とは思っていなかった。けど楽屋で愚痴りあっている時、ふとその日のMCの笑顔が嘘くさすぎて嫌だったーって話をしたら、みんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してたのを見て他の子にはわからないことなんだって思ったのがきっかけ。
決定的だったのはある日の公演の練習中のこと。
その日のトレーナーさんは新人で、投げられた餌を食べる練習もその人のコントロールが悪くてみんな文句を言っていた。案の定、私の時も魚はいつもより30センチくらい遠くに投げられた。けど、私も負けず嫌いだから、絶対に落とさん!と思って地面を蹴ったの。
その時、私は空を飛んだ。実際には浮いたって感じだったけど、多分ペンギンが空中を移動していい距離じゃなかった。
偶々みんなこっち見てなかったし、新人さんも距離感とか知らなかったから、気づかれなかったけど、私はなんか別の力に押し上げられたって確かに感じた。
まあ、その後はバレないように夜な夜な特訓?してたら色々できるようになった。
空飛べたのは念力って力なんだって。マネージャーのスマホで調べた。
もう自分より軽ければ自由自在。エゴサなんてお手のものよ。
動物とは調和。
私もアイドル以前に動物だったってことかな。段々と毎日が狂い始めた。
私はこの能力を使ってどんどんトップに上り詰めた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
キャッチコピーは“空飛ぶペンギン”。流石に露骨に浮いてても愛嬌がないから、あえて翼パタパタしたりして、ちょっとだけね。リアリティって大事でしょ?
すぐに色んなメディアが来てたりして、私は所属事務所を支える稼ぎ頭になった。
その辺りからかな、最初は先輩ペンギンからの嫌がらせ。
だけど、あの子達に人間に真実を訴える力なんてないって知ったから、私はこの力を使って分からせてやった。同期のみんなからも腫れ物扱いされるようになったけど、当時の私は気にも留めなかった。売れない奴らの僻みとしか思わなかったから。
けれど、そうやってやりたい放題してたら、先に身体の限界が来たの。
連日、休みなく人前に出ては笑顔を振り撒いて、公演が終わったかと思えば今度はYouTubeの撮影。雑誌とかTVも増えて残業ばっかでほとんど寝れない毎日。
そんなある日、私は頭が割れるくらいの痛みに襲われた。
すぐに病院に行ったけど、お医者さんにも原因はわからなかった。
でも私にはなんとなく分かってた。能力の使いすぎのせいだって。
やっぱりペンギンには過ぎた力だったのかな。
そして私は人前に出ることをやめた。しばらくして頭痛は治ったけど、一日中引き篭もってばかりになった。
能力はまだ使えるみたいだったけど、もう使おうとも思わなかった。疲れちゃった。
ある日、新しく南極からペンギンがやってきた。
かなり珍しいことらしくてみんなに質問攻めにされてた。
そんな彼女は言う。南極なんて何もないよ、と。
私はここを出る決意をした。もうここにはいられない。しがらみも何もないすごく遠くへ。
でも、暇過ぎたらどうしよう。
いいや、いざとなったら南極の観測基地行ってバズろう。
無事に辿り着けるかな。南極までは一体この水槽何個分だろう。
大丈夫か。いざとなったら飛べばいいじゃん。私は飛べるペンギンだから。
私の仕事は日夜水族館に訪れる人間たちに愛嬌を振り撒いて喜ばせること。そう、いわばアイドル。
別に自分で選んだわけじゃない、生まれた時から運命付けられていた。
私のルーツは“南極”っていうここからすごい遠いところにあるらしく、そこには人間はいなくて、だからアイドルもいなくて、家族と自然の中で気ままに暮らしてるんだって誰かが言ってた。
それを聞いて、ここに生まれて本当に良かったって思った。
ここにだって大事な仲間がたくさんいるし、多い時は1日3公演もあるペンギンショーも慣れるまではキツかったけど、キラキラ目を輝かせてる子供とかキャーキャー言ってカメラを向ける大人を見るとすごいモチベになるし、毎日すごい充実してる。
うちは新設水族館だったから最初は全然ガラガラで、それこそ閑古鳥が鳴いてたけど、だんだんファンの人も増えてきた。
多分私は元々アイドルに向いているんだと思う。
てか、南極って周り何にもなくてほぼ氷しかないらしい。Wi-Fiない世界なんて無理。ほんと日本最高。
アイドルは個性。
これはアイドル世界における不文律らしいんだけど、ペンギン界ではこれがまた難しい。
何せお客さんである人間達は私たちペンギンの区別がつかないらしい。私はこんなにかわいいのに。
だけど、私にはとっておきの個性がある。
実はエスパーなのだ。
いや、待って、電波ちゃんじゃないから。そういうボロの出やすい設定は敵を作りやすいからダメ。
初めは人間の感情がちょっとわかる程度だったし、何も自分だけの能力とは思っていなかった。けど楽屋で愚痴りあっている時、ふとその日のMCの笑顔が嘘くさすぎて嫌だったーって話をしたら、みんな鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してたのを見て他の子にはわからないことなんだって思ったのがきっかけ。
決定的だったのはある日の公演の練習中のこと。
その日のトレーナーさんは新人で、投げられた餌を食べる練習もその人のコントロールが悪くてみんな文句を言っていた。案の定、私の時も魚はいつもより30センチくらい遠くに投げられた。けど、私も負けず嫌いだから、絶対に落とさん!と思って地面を蹴ったの。
その時、私は空を飛んだ。実際には浮いたって感じだったけど、多分ペンギンが空中を移動していい距離じゃなかった。
偶々みんなこっち見てなかったし、新人さんも距離感とか知らなかったから、気づかれなかったけど、私はなんか別の力に押し上げられたって確かに感じた。
まあ、その後はバレないように夜な夜な特訓?してたら色々できるようになった。
空飛べたのは念力って力なんだって。マネージャーのスマホで調べた。
もう自分より軽ければ自由自在。エゴサなんてお手のものよ。
動物とは調和。
私もアイドル以前に動物だったってことかな。段々と毎日が狂い始めた。
私はこの能力を使ってどんどんトップに上り詰めた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
キャッチコピーは“空飛ぶペンギン”。流石に露骨に浮いてても愛嬌がないから、あえて翼パタパタしたりして、ちょっとだけね。リアリティって大事でしょ?
すぐに色んなメディアが来てたりして、私は所属事務所を支える稼ぎ頭になった。
その辺りからかな、最初は先輩ペンギンからの嫌がらせ。
だけど、あの子達に人間に真実を訴える力なんてないって知ったから、私はこの力を使って分からせてやった。同期のみんなからも腫れ物扱いされるようになったけど、当時の私は気にも留めなかった。売れない奴らの僻みとしか思わなかったから。
けれど、そうやってやりたい放題してたら、先に身体の限界が来たの。
連日、休みなく人前に出ては笑顔を振り撒いて、公演が終わったかと思えば今度はYouTubeの撮影。雑誌とかTVも増えて残業ばっかでほとんど寝れない毎日。
そんなある日、私は頭が割れるくらいの痛みに襲われた。
すぐに病院に行ったけど、お医者さんにも原因はわからなかった。
でも私にはなんとなく分かってた。能力の使いすぎのせいだって。
やっぱりペンギンには過ぎた力だったのかな。
そして私は人前に出ることをやめた。しばらくして頭痛は治ったけど、一日中引き篭もってばかりになった。
能力はまだ使えるみたいだったけど、もう使おうとも思わなかった。疲れちゃった。
ある日、新しく南極からペンギンがやってきた。
かなり珍しいことらしくてみんなに質問攻めにされてた。
そんな彼女は言う。南極なんて何もないよ、と。
私はここを出る決意をした。もうここにはいられない。しがらみも何もないすごく遠くへ。
でも、暇過ぎたらどうしよう。
いいや、いざとなったら南極の観測基地行ってバズろう。
無事に辿り着けるかな。南極までは一体この水槽何個分だろう。
大丈夫か。いざとなったら飛べばいいじゃん。私は飛べるペンギンだから。