第1話

文字数 1,830文字

 五月はツツジがきれいで、次はアジサイだろう。電動自転車を漕いでいると、すかっとした気分になる。本当は電動自転車よりもクロスバイクが欲しい。
 快晴だし、日中の気温はちょうどいい塩梅だ。薄着でも大丈夫だろう。自宅にいても一人なので、しゃべる人もおらず、落ち込んでしまう。鬱々としているのも、精神を病んでしまうだろう。メンタルクリニックに通う羽目になる。
 ゴールデンウイークが明けた。会社員はさぞかし憂鬱だろう。私は三十代だが、すでにFIRE(Financial Independence, Retire Early)を達成した。年中ゴールデンウイークのような私は、取り立ててやるべきこともなく、ぜいたくに暮らしているわけでもないが、暇で暇でどうしようもない。
 なぜ私はFIREしたい、と思ったのだろう。会社員が嫌だったのは間違いなく、週四十時間も働きたくない、と考えていた。週四十時間労働制は、長過ぎるだろう。
 働くことは単なるお金儲けだし、サラリーマンなのだし、給料分働けば十分だ。適当に手を抜き、仕事をサボればいいのだ。とはいえ資本主義社会の片隅でも、生きる必要がある。私は感受性が鋭いせいなのか、生きるのがつらくなってしまう。
 現在は仕事に励むことはせず、ストレスがたまることはない。以前働いていた職場では、同僚が適応障害やうつ病など、精神疾患を発症し、次々と精神科に通うようになった。私は妻や子など、養う家族もおらず、自分だけのことを考えていればいいから、気が楽だ。
 電動自転車を漕ぎ、行きつけのインターネットカフェに到着した。店内に入り、受付で会員証を渡す。リクライニングシートではなく、フラットシートのブースを選択した。三時間パックで十分と思ったが、結局六時間パックを選んだ。
 ブースに行くと、もちろんフラットシートだった。パソコンが設置してあるのは当たり前だが、やたらハイスペックだった。とりあえずリュックサックを下ろした。
 フラットシートの上に寝転んだ。フラットシートで、ごろんと仰向けに寝転んでいると、インターネットカフェは天国ではないか? とさえ思えてくる。
 自宅に引き籠もらず、半強制的に外出し、週四、五日はインターネットカフェで過ごしている。もちろんネットカフェ難民というわけでもなく、近所に家賃五万円のアパートを借りている。
 早速パソコンの電源をオンにし、ブラウザを起動した。二千万円ほどの資産を元手に投資しているので、株価をチェックするのが、現在の仕事のようなものだ。主にインデックス型の投資信託に投資している。
 しかしインターネットカフェのセキュリティは、大丈夫なのだろうか? キーロガーなどで、個人情報を抜かれてしまう危険性もあるから、ネットショッピングはしないように気をつけている。
 仕事は辞めたが、副業でブログを書いている。早速自分のブログにログインし、記事を書き始めた。収入は月により変動はあるが、アフィリエイトとアドセンスで、月五万円程度の小遣い稼ぎのアルバイトになっている。
 インターネットカフェはフリードリンクだから、コーヒーやお茶、ジュースなどは飲み放題だから、助かる。ソフトクリームも食べ放題だ。おまけにシャワーも浴びることができる。
 現在の暮らしは暇がありすぎる。ぶらりと旅行に出かけようか? 瀬戸内海にウサギ島があるらしい。大久野島のことだ。ウサギは世界一かわいい動物ではないだろうか? ウサギ島へ行って、癒やされたい。
 私は約八年間、ウサギを飼っていたことがあるので、ウサギのことはよく分かる。よくウサギの前でカメラを構えて、写真を撮っていた。
 ウサギは繊細だし、臆病な生き物だ。捕食される側の動物だから、当然だろう。なかなか抱っこさせてくれないし、飼い主に懐くのも時間がかかる。もちろん個体差はあるだろう。ウサギは我慢強い。しかしこの上なく鈍感だと感じるときもある。
 瀬戸内海にある大久野島は、ユートピアなのだろうか? 船に乗り込み、大久野島に行きたい。たくさんのウサギが出迎えてくれるだろう。理想郷なのかどうかは、実際に行けば分かるだろう。(了)
参考文献
『いちからわかる! FIRE入門 積立投資で目指す早期リタイア術』(監修:類藤太希 インプレス)
参考サイト
快活CLUB https://www.kaikatsu.jp/
休暇村大久野島 https://www.qkamura.or.jp/ohkuno/

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み