第1話

文字数 1,890文字

 少し前に転職したが、早くもイエローカードである。いや、ほとんどレッドカードに近い。何度か面談を繰り返し、私の気持ちはどうなのかと尊重しているようではあるものの、辞める方向へ持っていくように感じた。
 転職先は、紹介予定派遣という形をとり、一定の派遣期間を経て、派遣先と私の双方の合意があれば正社員に登用されるというものである。一定の派遣期間というものは派遣先によって異なるが、今回は半年となっていた。このまま派遣期間を経て、正社員として勤めていくのは厳しいというのは、自分自身でも感じていた。暗に合ってないと示すのであれば、クビと言ってくれた方が気持ち的には楽だ。ただ、面倒な派遣の契約期間が絡んでいる以上、簡単にクビとは言えないのである。最終的には成績を注視した上での判断にはなるが、派遣期間を経て、このまま正社員になりたいかと問われた。精神的に追い詰められていないか、と気遣っているのもわかる。上手く出来ていないという自覚がある以上、このまま続けても自分を追い詰めることになり、周りにも迷惑をかけることから、派遣の契約期間を以って辞めることで話は落ち着いた。
 ホッとしたというのと同時に、どこかモヤモヤした気持ちと、この次どうしようという不安もある。このモヤモヤした気持ちというのは、自分では着たくても似合わないと分かっている洋服を試着し、周りから似合わない、買わない方がいいと言われた時に近い。自分で分かっているからこそ、周りから言われたくないものである。それに、新しい職を見つけられるだろうか、私にできる仕事があるのだろうかと心配になる。
 思い返せば転職を繰り返していた。今の職場の直前のところは四年余り勤めていたが、それ以前は一年も経たないうちに辞めていた。理由はいろいろ挙げられ、一番大きいのは要領を得ない、なかなか上手くできないところである。私はつくづく組織に属して働くことが向いてないのだと思う。社会不適合者と見られても仕方がない。
 どうしてこうも上手くいかないのだろう、不器用なのだろうと、もどかしくて悔しい。今の派遣先には、かつても一緒に働いたことがある人がおり、彼女は仕事ができることから余計みじめな気持ちになる。スーパー派遣のように資格を持っているわけでも、仕事ができるわけでもない。言い訳や理由にしたくはないが、十代、二十代に比べて覚えることが身に付きにくくなっている。新しいことを始めるのは、かなりエネルギーを使うということを、年齢を重ねる度に実感している。また一からやり直すのは正直しんどい。新鮮に感じることはあっても、続けていけば薄れていくものである。
 以前、転職を繰り返していることを見かねた兄が、「いっそ起業すれば?」と言ったことがある。どこまで本気なのかわからないにしろ、私も真に受けて起業しようかと考えたりもした。起業するといっても、どのような職種にするかにもよる。少し調べて、結婚相談所はあまり開業資金がかからないとあったことから、「結婚相談所はじめようかな」と言うと知人には苦笑された。結婚はおろか、恋愛経験もさほどないくせに、何を根拠にキューピット役になれると言っているんだろうと、ツッコミどころ満載だ。結婚に関しては人の相談を受けるより、相談に乗ってもらう立場だと思う。結局、結婚相談所の開業は諦めた。
 就職も起業も難しければ、結婚して永久就職というのはさらにハードルが上がる。そもそもそういう相手すらいない。女性の社会進出が進んでいることと、コロナ禍でのさらなる不景気から、専業主婦というのも難しいだろう。もし、バリバリ仕事ができて稼げていれば、パートナーが専業主夫になることもできたのだが。
 将来的には、書くことで生計を立てることができたらとは思うものの、世の中そんなに甘くはない。印税で左団扇の妄想はあくまでも妄想であって、左団扇の「ひ」にすらかかっていない。目を背けたくなる現実だからこそ、印税生活やパトロン欲しいなどの非現実的な話に逃げたくなる。
 国民的アイドルが「夢だけ持ったっていいでしょ?」と歌っているが、夢や理想は持ちつつも、現実を見据えなければならない。少し先の転職をどうするべきかと。いつもでこのようなことを繰り返すのだろうと不安になる。努力や忍耐が足りない、考えが甘いと言われたら、たしかにその通りである。でも、もがき続けて溺れそうになりながら、なかなか岸にたどり着けないのは苦しい。不安定な場所から抜け出せない。
 何かを極めたりしない限り、仕事放浪も続くだろう。早く売れるもの書きたいなあと、ぼやきながら。
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