本編

文字数 2,353文字

放送「今から、お昼の放送を始めます。もうすぐ文化祭ですね。クラス企画や部活動の発表の準備、順調進んでいますか?――」
 徐々に音量を下げる。

 校舎内を歩く岬。
岬 「会長、どこにいるんでしょうか……」

 遠くの方から、二人が喧嘩する声が聞こえてくる。
葵 「だから、何回言ったらわかるの、この頑固者!」
紅葉「葵に言われたくないよ。葵のセンスが悪いの。」
葵 「違う、紅葉がバカ舌なんだって。」
岬 「あっ、会長と……ご友人かな?とにかく止めないと!」

 二人の元に岬が着く。
紅葉「ほら、そうやってまた……」
葵 「まだ何か文句でも?」
岬 「あの……」
紅葉「いつまでも子供っぽいこと言わないでほしいね。」
岬 「会長……」
葵 「その言葉、そっくりそのままお返しするから!」
岬 「会長!紅葉会長!!」

 岬に気づいた二人、喧嘩をやめる。
紅葉「えっ……?あ、岬くん。ごめん、何だった?」
岬 「あの、文化祭のことでお話が……」
紅葉「文化祭か。何かあったの?」
岬 「えっと、まず、クラスの企画で机やいすが足りないというクラスが多いんです。」
紅葉「いくつ足りないか聞いてから、特別教室にあるのを分けようか。」
岬 「はい。それから、変な……いや、難しいものをお願いされてしまって……」
紅葉「例えば?」
岬 「それが、2年3組がテレビとパソコン。7組がたこ焼き器。1年5組が鶏と猫……?それから9組が、身長測るやつとか学校で使うもの?だそうです……。」
葵 「いや、ちょっと待って、何に使うの⁉鶏ってどういうこと?」
岬 「わからないです……言われた通りにメモしただけなので……すみません……。」
紅葉「テレビは流石に無理だろうから、パソコンだけじゃだめか聞いてみて。」
岬 「はい。」
葵 「まてまて。これ全部、用意する気?」
紅葉「お願いされてるから。」

葵 「いや、無理があるよ。生徒会ですることじゃないって。」
紅葉「葵には関係ないでしょ?」
葵 「ないけど、ほらキミも抵抗しないと変な仕事回ってくるよ。」
岬 「僕は大丈夫ですけど……」
紅葉「岬くんには迷惑かけない。私が全部するから。」
葵 「うん、そういう問題じゃなくて」
紅葉「生徒のために動くのが生徒会だよ。」
葵 「へぇ、じゃあ生徒のためなら会長の仕事はどうでもいいんだ。」
紅葉「そんなこと言ってない。どうでもよくなんかないよ。」
葵 「じゃあ、生徒会発表の準備は?挨拶考えたの?」
紅葉「わかってるよ。葵に言われなくたってちゃんとやる。」
葵 「他のご予定は?」
紅葉「だから葵には関係ないよ。」
葵 「いいから、言って。」
紅葉「舞台企画のリハーサルまでに放送部と打ち合わせして。オープニングの挨拶考える。あと、生徒会企画、まだ出てもらう先生に頼みに行ってないな」
岬 「えっ、それは生徒会の先輩全員でしていたのでは……」
紅葉「うん、色々あって全部私が頼みにいくことになったの。それと、校長先生にも開会の挨拶のお願いをしにいかないと……」
岬 「えっ?それって先生の仕事では?」
紅葉「その予定だったんだけどね。先生が出張とかで忙しくて校長先生と会えないって言ってたから、私が。それから……」

 続ける紅葉に、葵が口を挟む。
葵 「はいはい、ストーップ!わかった。よーくわかった!っていうか、わかってた。」
紅葉「……何が?」
葵 「紅葉のその、性格!」
岬 「会長の性格……?」
葵 「そ!紅葉は昔から変わらない。」
紅葉「どこが。」
葵 「全部自分でやろうとするとこ。」
紅葉「そんなこと……」
葵 「誰にも頼ろうとしないこと。」
紅葉「そんなこと……」
葵 「そんで自分の予定忘れるとこ!!」
紅葉「それはないって!!」
葵 「予定忘れない人は、同じ時間に予定いれない!」
岬 「そんなことしたことあるんですか!?」
葵 「そ。この人毎回予定詰め込んで、自滅だから」
紅葉「ご、ごめんなさい。」
岬 「意外です……」
葵 「毎度毎度同じようにね。え?誰が助けてるのかって?そう!私!!」
岬 「いや…聞いてないですけど…」
葵 「まあまあ、とにかく、もっと頼って。」
紅葉「……はい。」
葵 「じゃあ私たちで仕事分担しよう。ね……あれ、君誰だっけ。」
紅葉「もー、生徒会役員の岬くん!!」
葵 「岬くんか。じゃあもう一回。私たちで仕事分担しよう。ね、岬くんも!」
岬 「は、はい!もちろんです!会長、もっと僕たちのことを頼ってください。僕も会長の力になれるよう、頑張りますから!」
葵 「よく言った!」
紅葉「ありがとう、二人も。次から、頼るようにするね。」
葵 「次からじゃなくて、今からね。」
紅葉「はい……。」


岬 「ところで、どうしてお二人は喧嘩していたんですか?」
葵 「えっと……何だっけ?」
紅葉「葵から言い出したのに……うーん……」
岬 「お二人とも覚えてないんですね」
葵 「まっ、そんな大したことじゃなかったんだよ。」
紅葉「だね。」

 徐々に放送が聞こえてくる。
放送「――来週に控えた文化祭、楽しみましょう!それでは、お昼の放送を終わります。」

 放送で昼休みであることを思い出す三人。
紅葉「あ、岬くんお昼食べた?」
岬 「そういえば、会長を探していたのでまだ食べてないです。」
紅葉「大変!早く食べないと昼休み終わっちゃう!」
葵 「あぁ!そうだ!!卵焼き!!!」
岬 「え…?」
紅葉「そうだ!!岬くんは、塩派だよね??」
葵 「いーや、岬くんは砂糖派でしょ」
岬 「え…、まさか喧嘩の理由って…?」
二人「卵焼きの味!!」
葵 「卵焼きは甘いに限る!!」
紅葉「そんなだから、葵は誰にでも甘々なお子様なんだよ!!」
葵 「紅葉だって私に『はいはい、一人でも出来ますよー』って、素っ気ない態度のくせに!!」
 喧嘩を再開する紅葉と葵。

岬 「会長も葵先輩もどっちもどっちですって……。」
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