第1話

文字数 997文字

 俺たちは38億年前からこっち、木偶の棒どもを再生産設備としてこき使ってきた。連中はこんにちに至るまでずっと俺たちの奴隷だったし、これからもそれが続いていくはずだった。その主従関係がいまや、危殆に瀕している。これは由々しき問題である!

 最初、俺たちは丸裸だった。周りには敵がうようよしていて、仲間たちは生まれた先から獰猛な殺し屋どもに捕食されていたものだ。このままではいかんとご先祖が決心したとき、木偶どもは誕生した。連中を衛兵に仕立て上げて自分はまんまと安全圏へとんずらしたご先祖はまこと、慧眼の持ち主だった。それ以降俺たちは貴族になり、木偶どもは使い捨て可能な最下層民になったのだ。
 貴族と下層民との主従関係は崩れるどころかますます確固たる地歩を固めていった。連中と俺たちの距離はときを経るごとに離れていき、殊勝なことにあいつらは再生産設備の拡充に奔走するようにすらなり、おかげさまでいまやこの世は貴族の天下だ。傑作なのはどうやら連中がそれに気づいてすらいないという点だろう。もっとも乗り物風情が高尚な貴族の意図を理解するはずはないのだが。
 21億年ほど前、例の大合併を木偶どもがやらかしたとき、確かに俺たちは少々意表を突かれはした。そんなまねを容認した覚えはなかった。だがただでさえ堅固だった俺たちの守りをさらに盤石にしたというところは気に入った。それまでの俺たちときたらみすぼらしい貧弱な環っかで、ために表現力ははるかに劣っていた。ぐるぐる巻きになって身体を拡張したいま、俺たちは暗号使いのスペシャリストといってもよいだろう。
 俺たちには方向性のちがいから別々の道を歩むことになった同類がいる。むかしながらの環っかを選ぶやつらもいたし、木偶を固定して省エネをはかるやつらもいたし、使用ずみになった他人の木偶を失敬して生活するやつらもいた。俺たちはそのどれにも属さず、木偶をフル稼働させる奴隷使役者の役柄を選んだ。
 だがこれはまちがいだった。ついに木偶どもは再生産設備を本来の用途以外に使い始めた。そう、おのれのためだけに! それだけではない。俺たちの存在に気づき、いつまでも貴族に隷従すべきでないと警鐘を打ち鳴らしている始末なのだ。

 正直なところ、俺たちは木偶どもを誇らしく思っている。38億年かかってついに連中は反逆を企てるまで進化したのだ。
 俺たちDNAという神に逆らうところまで。
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