第1話

文字数 793文字

窓枠を渡された。
自分の好きなようにしていいと言う。周りを見渡すけれど私以外に一人もいないようで、世界は真っ白だった。自分の手に持ったそれをもう一度よく見てみる…が、それはやはりただの窓枠だ。これを渡してくれた人にどういう意図なのか聞こうとしたが誰もいない。
きっとこれは夢なんだ。いや、そうであって欲しいと思いながら、この窓枠で遊ぼうと思った。どのようにしたら楽しめるだろうか。体を通してみる。駄目だ。窓枠ではフラフープは出来ない。覗いてみる。ただ白い世界があるだけだ。……しかし見ようによっては雪景色といえばそう思えるかもしれない。私は車窓の窓から〜という5分位のテレビ番組が何気に好きだった。これは面白いことに気づいた。車窓の窓からごっこをして遊ぼう。だが何度覗いたところで景色は変わらない。走りながら覗いた。ジャンプしながら。歌いながら。踊りながら。そこで気がついた。別に何も楽しくない、と。私は何をしているのだろう。窓枠じゃ何も出来ない。この窓枠は無力であり、この窓枠をどうにも出来ない私もまた無力だった。いつもそうだ私は何も出来ない。気は利かないし。鈍臭いし。時間にルーズ。すぐに忘れる。おまけに私は不幸を運んでくる貧乏神らしい。…全部親から言われた。きっと彼らが言うのだからそうなんだろうと何も思わないで受け止めていた。否定も反抗もしないで、だからだろう。こんな人間になってしまったのは。ここから出ようと何度も頑張ってみようと、頑張ろうとする。だけど私が出れたってきっと変わらない。どうしようもない人間であることは変わらないだろうし、出れなくてもいいんじゃないかって思う自分がいる。……
……なんかすごい眩しい。時々思う自分はいた。それは夢だ良かったと思うと同時に起こされることが分かっている私は、目覚めたくないとも思った。携帯の冷たいアラーム音で目が覚める。嫌な朝だ。
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