邪魔をするな!

文字数 1,280文字

 ガキの頃に夢を見ていた。
 そこでは何もかもが許されていて、痛い格好(かっこう)をしていても顔をしかめられないし無感情なやつもいるけれど基本「すげえ!」ってほめてくれて、人種だの障がいだの言われることがなく、全員がライブステージに立っていて金持ちの世界。

 グロテスクなんて決して言われない、大切な夢を。

零太(れいた)ってば。ちょっとしっかりして!」

 ベッドの上で着替え終わったあとだというのに心ここにあらずの零太に彼女の光二(めいよ)が零太を揺らす。

「悪い。
 ガキの頃めざしていた夢が出てきて。」

「最近零太の集中力が心配。」

「高校生になっても忘れられないなんて。
 目の前に夢中になっていたはずなのにな。」

 今に始まったことじゃない。
 自分の世界に入ってしまうなんて。それなのに光二は心配してくれている。
 迷惑をかけられない。

「気分転換でもしようか。
 といっても金ないけれど。」

「金なくても楽しむ方法なんていくらでもあるでしょう?」

 零太にはもったいない言葉。
 さっきまで現実逃避していた相手に向ける言葉ではないことはわかるから。

 ならどうやってデートっすかな。
 零太は光二と二人でぶらぶらと街を出かける。


 ◇


 零太は光二以外とは男子へ敵対していて喧嘩っぱやい。
 光二を傷つけそうな人間と判断したら全力で守る。

 喧嘩自慢の不良に囲まれた時も光二だけ逃がし、なるべく暴力に頼らないように相手の攻撃を避け、わざと当たったりした後に反撃したとリスキーな戦法が多く怪我も絶えなかった。

 そこを光二が怪我を治療し、かけがえのない関係へと日常を繰り返す度に痛みと喜びをわかちあうのだった。

 物価高騰さえなければほどほどにバイトしながら社会との折り合いをつけている二人でも楽しめるのに。
 結婚なんて費用高いし、その後はギャンブルだし、呼ぶ友達なんていないし。
 なんて時代遅れなんだろう日本なんてといいながら二人は街を歩き、華やかだった飲食店が無料駐車場になる現状に二人で舌打ちする。


「やっぱ同じこと思うよなあ。」

「もちろん。」

 こんな狂った世界のはずなのにガキの頃からこんな生きづらさを抱えているからか変な希望をもたない自分たちで笑いあった。

 世の中は捨てたもんだ。
 でも。
 ただでもがつくだけなのだ。

 次はどこで安く楽しもうか二人で考えていると黒いモヤをまとったヒトが路地裏に入っていく。
「何かある!」と感じた二人はモヤをまとうヒトを追っていく。

 路地裏の奥までいくと黒のモヤをまとっていたヒトは外国人の方だった。

 するとモヤがその人から離れてこちらへと襲いかかろうとした。
 二人を顔を合わせ、

「「幽霊かよてめえ!」」

 その場にあるものを武器にする光二と拳を武器に幽霊と戦う零太。
 青春とは、こういうことなのか?
 非日常を望んでいたつもりはなかったけれど悪くない気分だった。
 そうして幽霊を倒すことに成功した。

(はら)ってしまって良かったのかな。」

「でないとこの外国人の人を助けられなかったはず。
 さあ、運んでいこう。」

 これも人助け…なのだろうか。
 零太は彼女と一緒に幽霊退治をした今日という日を忘れない。
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