第1話 夏が狂う きっと夏は狂う

文字数 937文字

(すこ)やかであったか?」

「健康だけが取り柄ですよ。俺も身軽な格好で仕事をしたいですね」
 探偵・白馬(はくば)安曇(あづみ)が、あまりの暑さに愚痴をこぼしている。

「こう炎天下ではな」
 ホログラムで映し出されたシルエットが、機械音声を発する。白馬の頭の上がらない存在。上司という立場が相応しいかはおいとくとして、彼のことはボスと呼んでいる。

 白馬は隠密にことを運ばなければならないため、薄着は御法度だ。また、半袖になろうものなら、闘うバディを隠しきれなくなる。軽装はボスから厳重に戒められている。

「さてと。今回の指令だが」
 白馬が聞く体勢に入る。

「スマホがここまで普及したのは、ザイオンの計画通りといったところだ。目的は九分九厘達成したと言える」
 いまやスマホが無くては、生活苦に陥る者がほとんどだろう。

「それに対抗する勢力もいるんですよね」
 歩きスマホは一向に無くならない。

「そうだな。かといってハイテク産業がそんな話に耳を貸すわけも無い」
 バッテリーを自前で交換しづらくして、新機種に買い換えさせる魂胆も見え見えだ。

「あまり大きな声じゃ言えないですが、爆破プログラムが仕掛けてあるんですよね。殺傷するほどの火力じゃありませんが、買い換えさせるためには十分なほどの」
 あまり調子に乗って裏情報のやり取りを交信していると、端末がフリーズする。

「なにも、デジタル化を阻止しようとしているのではない。国民を監視する目的を除外して、幸福度を上げるためだけにデジタルが使われたら、どれほど素晴らしいことだろうな」
 ネットサービスを利用するにあたり、商品を手に入れることと引き替えに、高度なプライバシー制約を受ける、個人情報を提供しなければならない。

「メシヤが構想した、国産スマホってやつですか。確かにあの構造なら、そうした理想世界の実現も可能ですね」
 人類史上最高の頭脳と称される、オブライエン博士もからんでいる。

「あまり知られていない事実だが、歩きスマホをするたびに端末の寿命が早まる。細工をしたのはお前もよく知ってる人物だよ」
 自分の寿命が縮まることに比べれば、まだ優しいペナルティだ。

「罰金というか課金されてるみたいですね。それが限界を超えると・・・」
「ドカン、だ」
 ボスは握った両手を、ポンと開いた。




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