第1話【1円の価値】

文字数 477文字

コンビニエンスストアの駐車場に、誰にも拾われない1円玉が落ちていた。
酷く汚れている上に、誰かに踏みつけられて半分泥に埋まっていたからだ。指を泥で汚してまで、人は1円玉を拾おうとはしなかった。
ある時、一人の少女が1円玉に気がついた。少女は何のためらいもなく1円玉を泥の中から指で引っ張り出すと、店に入り、店員の女性に声をかけた。
「すみません、駐車場に落ちてました」
「ああ、どうもありがとう」
差し出された1円玉と、少女の汚れた
指を見た店員の女性は、レジの下からオシボリを取り出し、少女に差し出した。
「どうぞ、これ使ってね」
「ありがとうございます」
少女は自分の指と、1円玉をオシボリで丁寧に拭いた。
「…あの、このお金、募金箱に入れてもいいですか?」
少し何かを考えてから、少女はレジに置かれていた透明な募金箱を指した。
「いいですよ」
店員の女性は笑顔で頷いた。
「1円でもいいんですか?」
「ええ、もちろん。どうもありがとう」
少女も笑顔で頷いた。
2つの"笑顔"と3つの"ありがとう"を生み出した1円玉は、募金箱の中で他の硬貨や紙幣にも負けない輝きを放っていた。


おしまい
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