賽銭箱

文字数 941文字

  場所・時間:寂しげな裏通り・深夜


  下手(しもて)から、木箱を抱えた男が歩いてくる。上手(かみて)から、警察官が自転車に乗って登場。

 

  男を発見した警官は、自転車を降りる。

そこの人。止まりなさい。


  男、そのまま歩いて行こうとする。


止まれと言ってるでしょ!
私かね?
他に誰もいないじゃないですか。
(ひとりごと)人じゃないんだが……。
あなた、何しているんですか?
散歩にきまってるだろ。
こんな深夜に?
暗くて寂しい道が好きなんだよ。
手に持っている物は?
これ? 見てのとおりさ。
賽銭(さいせん)箱に見えますが。
ピンポーン。
どこにあった賽銭箱?
どこでもないよ。

私のだからね。

あなたの? 

ちょっと見せて下さい。

とか言って、持ち逃げする気だな?
私は警官ですよ。
  警官、身分証を提示する。
ヤベー・オークションだね?

いくらで落札した?

(憤りを露わにして)公務執行妨害になるぞ。

賽銭箱を渡しなさい!

くそっ!
  男から賽銭箱を受け取った警官、賽銭箱を揺する。


  ジャラジャラと小銭の音。

入ってるな。
小銭ばっかりだ。

個人所得が目減りしているからね。

バブル期が懐かしいよ。

散歩なんでしょ?

なんで賽銭箱なんか持ち歩いてるの?

お参りする人が、賽銭を投げるものでね。
どこかの神社か(ほこら)にあったんだろ?
くどい人だな。

私のだと言ってるだろ。

ならば、署でじっくり話を聴こうか。
私は神様だよ。

キリストも、「神仏あれば賽銭箱あり」と言っている。

さ、大人しく賽銭箱を返しなさい。

いや。これは押収する。
  警官、自転車の荷台に、ゴム紐で賽銭箱を括り付ける。

(突然、何かに憑りつかれたように)

神をも恐れぬ所業であーる。

お前はー、天罰が下って死ぬー。

訳の分からないことを言ってないで、一緒に来るんだ。
(重々しく)最後にもう一度言う。

私は神様だ。

名を「アシナガノ ヒメタラシノ ジンジロゲノ ミコト」という。

何だそりゃ。

貧乏神か? 死神か?

 そのとたん、閃光が何回か発光し、雷鳴が鳴り響く。


 警官、その場に倒れる。


 男、いかにも神様然とした姿となる。

これが、神を冒涜する者の末路なのじゃ!
  男、自転車から賽銭箱を取り戻す。
おや?
  男、警官の腰から拳銃を抜き取る。
いいもの見っけ!

この奉納品は、使えそうだのう。

  暗転
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