3-27. 限りなくにぎやかな未来

文字数 1,518文字

「今から考えると、就活失敗しててよかったですよ」
 先輩にそう言うと、
「あー、ソータの応募は全部不採用にしといたのよ」
 と、とんでもない事を言い出した。
「えっ!? 先輩が全部落としてたんですか!? ひ、ひどい……」
 俺が愕然(がくぜん)としてると、先輩はギロっとにらんで言った。
「何? じゃ、今からでもサラリーマンやる? どこの一流企業でも突っ込めるけど?」
「い、いや、管理者(アドミニストレーター)の方がいいです!」
「そうでしょ? 嫁さんも紹介してあげたし、感謝しなさい!」
 先輩はドヤ顔で言った。
「紹介!? エステルが襲われてるところに繋がったのは、偶然じゃなかったんですか!?」
「そんな都合のいい話、あるわけないでしょ! この子敬虔なのにドジで、襲われちゃってかわいそうだったから、時間止めてあなたの登場待ってたのよ」
「な、なんと……」
 俺が言葉を失っていると、エステルは
「女神様! ありがとうございます! 毎日お祈りしててよかったですぅ……」
 そう言って先輩に手を合わせた。
「これからも祈りなさいね」
 先輩はそう言ってニヤッと笑った。
 俺は先輩に祈る意味が良く分からなかった。

「はい、じゃあ解散! あなたたちはここでゆっくりお楽しみタ~イム!」
 先輩はそう言って立派なコテージをボンッと出して言った。
 赤い夕焼雲がたなびく中、丸太で組まれたコテージは鏡のような水面の上に静かに降りてきて、大きな波紋を作った。ヒノキの爽やかな香りが匂ってくる。
「おぉ、すごい……」
 俺が驚いていると、
「このくらいすぐにできるようになるわよ。研修はここの時間で二十時間後。コテージの鏡使って来なさい。じゃ、また明日~」
 そう言ってみんなを連れ、そそくさと消えていった。

     ◇

 コテージの中にはダブルベッドがあり広く、快適だった。窓の外を見ると、水平線に残った茜色が弱まり、宵の明星が明るく輝きだしていた。
「綺麗ですぅ……」
 隣でエステルが言った。
「今、明かり点けるね。どこだろう?」
 俺が動こうとしたら、いきなりエステルに抱き着かれた。
「点けなくていいですぅ」
「えっ?」
 驚いていると、エステルがくちびるを重ねてきた。
 いきなりで驚いたが、俺も合わせる。
 エステルの柔らかいくちびる、チロチロと愛おしそうに動く舌……。
 多くの想いを重ね、今、二人はお互いを貪るように舌を絡めた。

 少し離れてお互い見つめ合う。
 窓から入る明かりがほのかにエステルの顔を照らす。その瞳には涙が浮かんでいた。
「どうしたの?」
「人間って凄いです……」
「えっ?」
「愛しい想いが次々と押し寄せて、おかしくなっちゃいそうです」
「ふふっ、俺も同じだよ」
 俺はそっとエステルの頬をなで、微笑んで言った。

「ずっと……、いつまでも一緒に居てくれるです?」
「もちろん」
「約束ですよ?」
「あぁ、約束だ」

 エステルはうれしそうに笑うと、またくちびるを重ねてきた。
 甘く香るエステルの唾液に脳の奥がツンとする。
 俺はエステルをきつく抱きしめ、エステルの想いに応えた。
 心の底から愛しい想いがどんどん湧いてきて、俺は限りない幸せに包まれる。

 そして、俺は手探りでウェディングドレスのファスナーに手をかけると丁寧に脱がし、エステルをそっとベッドに横たえた。
 トロンとした切なそうな目をして両手を俺に広げるエステル。俺もタキシードを脱いで柔らかなエステルの上に重なる……。

 そうか、俺はこの娘を愛するために生まれてきたんだな……。ほとばしる熱情に流されながら、俺は生まれて初めて人生の意味を理解した。

 こうして、俺の限りなくにぎやかな新生活が始まった。

 窓の向こうにはくっきりと天の川が流れ、愛を深める二人をほのかに照らしていた。


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