うまし棒を買いに

文字数 1,429文字

この界隈の少年の心をつかんで離さぬクジがあった。
その名も「うましクジ」。
外れても駄菓子のうまし棒がもらえるから、お得なのであった。
それが人気の秘訣である。今日も僕は一等を夢見て駄菓子屋に走るのであった。
いらっしゃい。
うましクジ一回ね。
はい、30円ね。どれか一個ひいて、一等が出たら模型飛行機ね。
これがいいかな、こっち。いや、やっぱりこれ。う~ん。
くじは逃げない。ゆっくり考えな。
これ!あっ、
残念賞、うまし棒一本。
ほんと残念。
他は何か買う?
もうお小遣いないや。またね。
君。
サラリーマンのおじさんだ。何?
そのうまし棒、ゆずってくれないか?いや、タダとは言わない。
これ?
これから会社なんだが、何も食べずに家を出てきたんだ。
給料日前でお金がないから、コンビニにも寄れない。
大変だね、こんなものでいいなら。
ありがとう。お礼にこのマッチをあげよう。
ありがとう。マッチを手に入れた。火遊びでもして遊ぼうか。
そこな君。
何?
落ち葉をたきつけにしたいのじゃ。そのマッチを貸してくれ。
いいよ。一本といわず、何本でも。
やあやあ、ありがとう。しばらくあったまっていきなさい。
おじいさん、ありがとう。
お礼と言ってはなんだが、灰の中からこれこの通り、
焼き芋をアルミホイルごと差し上げよう。
あちちちち、どうもどうものあっちっち。
そこのボク。
なんだい、おじさん。
その焼き芋をくれないか。昨日から何にも食べてない。
それはいけない、この焼き芋で元気を出して。
こいつはうまい黄金千貫。坊やはきっといい大人になる。
それはどうもです、ありがとう。
タダ食いの趣味はねえ、何かをあげたい。とはいえ俺は空き瓶しか持ってねえ。ええい、持ってけドロボウ、酒屋に持ってきゃ坊やのおやつ代くらいにはなるだろう。
早速行ってみよう。おじさん、元気でね。
空き瓶5本で30円。また来てね。
なんと30円稼いでしまった。もう一度くじをひこう、今度は当たる気がする。
きみ、きみ。
あ、同じクラスの。
その30円貸してくれないか。
それは困る。僕はこれからクジをひく。
僕もおんなじ、クジをひきたい。どうしてもだ。
何か理由があるのかい?
それは言えない、どうしてもだ。
頼む、明日返すよ、これこのとおり、借用書もつくろう。
何か事情があるんだね。
いいだろう、そのかわりちゃんと返してくれたまえ。
やあありがたい。模型飛行機は僕のものだ。
模型飛行機?あの一等の景品の?
おばちゃあん、クジ一本。
あ、クジがいつのまにやら最後の一本。
しかも一等はまだ出ていない。さだめてあれが一等なのだ。
これはやられた、あいつの狙いはこれだったのか。
さらば、僕の飛行機よ。
どきどきピラッ!あ、はずれだ?
はずれだ?
うまし棒一本だ。でもどういうことだ?
おばちゃん、これはいったい、
え、このうまし棒20本入り一袋、全部もらっていいのかい?
ありがとう。
あれあれ、これはきっと何か大人の事情があったに違いない。
当たりは最初から入っていなかったのだ。
そしてあれは口止め料なのだ。
きみ、きみ。飛行機は無かったよ。
そうらしいね。
うまし棒ならたらふくある。
山分けしよう。
ありがとう。
そのかわり明日返すクジ代まけてくれないか。
いいよ。
あのクジはもうやめるよ。
そんなこといって明日もひくんだろ。
(ぺりぺり)うまし。
僕は本当にやめるのだ。
(ぺりぺり)うまし。
じゃあ、君がやめたら僕もやめてやろう。
うまし。
言ったな、本当の本当にやめてやる。
できるもんか。
ああ、うまし。本当にうまいうまし棒だ。
おわり
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

駄菓子屋に通い詰める少年。どこにでもいる普通の少年。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色