世界をわたるもの

文字数 1,600文字

 夏であり、女子高生である。女子高生の夏といえばパジャマパーティーというわけで、今夜はいつもの四人でパジャマパーティーなのだ。
 百坪はある広大なえっちゃん邸には、ちゃんとお泊りを想定した客間があって、十畳のバシッと四角い和室にみんなでお布団を並べて寝れるから、パジャーマパーリーにはうってつけだ。う~ん、ブルジョワジー。
 パジャマジャパーティーといっても何をするのかといえば、ただアレコレとお喋りをする程度のことで普段と大差ないのだけど、それも全員パジャマでお布団並べてというシチェーションだとなんか楽しい。
「だるまさんが転んだだった? 坊さんが屁をこいたって知らない?」
 どういう流れだったかは覚えてないけど、子供の頃の遊びの話になる。
「そりゃ坊さんだって屁くらいこくでしょうよ」
「なんか、あの手の遊びって意味分からないキャッチフレーズ多いよね」
「意味わかんない遊びといえば、山荘の話しらない? 四人でやるやつ」
「なにそれ?」
「雪山の山荘に閉じ込められた四人が、寝たら寒くて死んじゃうから、明かりもない真っ暗な四角い部屋で四隅に立って、次の隅まで歩いていってタッチ。タッチされたらその人が次の隅まで歩いていってタッチって繰り返して、それで夜明けまで凌ぐの」
「なにが面白いのそれ? 絶対に飽きるでしょ。朝まで持たないよ」
「アルプス一万尺のほうがよっぽど面白いよね。道具もいらないし」
 などと話していると、横からずんずんが「その話のポイントは」と言う。
「四人じゃ最後の四人目が角まで歩いた時点でそこには誰もいないから続くはずがないのに、なぜか朝までグルグル続いちゃったっていうところ」
「ああ、なるほど。いつの間にかひとり増えてるのね。怪談か」
「へー。じゃあやってみようよ。せっかく四人いるし。部屋四角いし」と、えっちゃんが言って、なにしろ暇を持て余した無目的なパジャマパーリーだから、じゃあやってみようかという話になり、消灯。わーいまっくら!
「全員、位置についたかーい?」と、ごっさんが声を掛ける。
「はーい」「おっけーよー」「んじゃごっさんからスタートね」
 真っ暗でも気配はあるもので、ごっさんがえっちゃんのいる角まで移動しているのはなんとなく分かる。示し合わせたわけでもないのに、みんな黙って息を殺している。えっちゃんがずんずんのところまで行って、ずんずんがわたしに近づいてくる。ずんずんに肩を叩かれて、これでわたしがスタート位置まで行き、誰もいなければそれで終了だ。暗闇の中、手を前に伸ばしてソロソロと歩いていると、その手が誰かの肩に触れる。ん? 
「ん?」「え?」と、息を殺してたみんなも声をあげる。スタート位置から、ごっさんが居るはずの角に向かって、誰かが歩いている気配がする。
「え? 嘘? なになに誰? 冗談やめてそういうのほんとダメだから」
「えっちゃんでしょ?」「いや、わたしはこっちに居るけど?」「じゃあ、誰? ずんずん?」「ちゃうよ?」「わーストップストップ!」
 えっちゃんが大声を出しつつ、部屋の明かりを点けた。うわ、まぶし!
「点呼!」と、ずんずんが叫ぶ。あーはいはい、点呼ね。
「えっちゃんこと雨林寺エリカ!」「はーい!」
「ずんずんこと望月淳子!」「はいはーい」
「ごっさんこと江津美香!」「うっす」
「アニーちゃんことアナスタシア・スペースウォーカー!」「はいな~」
「そしてわたし、古井愛子! 以上五名! 各員異常なし!」
 なにもおかしいところはない。あれ? なんで続いちゃったんだろう?
「山荘の遊びは四人だから続かないんであって、五人いれば続いちゃうに決まってるんよ」と、ずんずんが呆れたように溜め息をつく。
「あ、そっか」「なんでやる前に気付かないのよ」
 うーん、うちの高校わりと偏差値高いはずなんだけど、大丈夫かコレ?
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