第1話

文字数 3,482文字

土曜の夜はうどん食べることに決めてる。
まあ、供養みたいなものね。
失恋供養。
バッカみたい、いつまでもグジグジしちゃってさ!
でもいいのよ、あんな奴こっちから願い下げよ。

いつものキツネうどんに野菜のかき揚げ、お金を払ってネギ山盛りで、
お茶を入れていつもの席に座る。
あーあ、あ〜あ、
窓からの景色を見ながら、ため息が出る。

まあいいわ!食うわよ!

ずるずるずるっ!むぐむぐむぐ

うん、まあまあね。
何となくクセで隣を見る。

ふんっ!

ずるずるずるっ!

かき揚げを半分に千切って、大きい方をうどんに入れる。
パリパリのうちに、かき揚げ食う。
イヤなのよ、グッチャグチャになった天ぷらって。
で、
あと半分、どうしよう。
いっつもこれ、半分でいいのにって思う。
仕方ないからお残しよ。紙に包んで袋に入れてね、持ち帰るの。
明日味噌汁にでも入れて食うわ。
だいたいね、大きすぎるのよ、ここのかき揚げ。
半分にしなさいよ。
ねえ、そう思うでしょ?
隣に心で話しかけても、返事があるわけじゃ無い。

2人いないと食えないっての!お一人様には、つらい……

うっ、鼻水出てきた。

箸を休めてティッシュで鼻拭きながら、窓から外を眺める。
通りを歩く人の中に、あいつがいるような気がして、つい探してしまう。

「ねえ、帰ったら何する?」

後ろの女の子が彼氏に話しかけている。

あらイヤだ、あたしの後ろに座らないでよ。
この空間は失恋組専用席よっ!

「アイス買って帰ろうか。」

やっだー、熱い気持ちを冷ますわけ?くっさ

「いいね。じゃあ帰ってアニメ見よう。」

彼氏の返事が無い。
女の子も黙ってしまった。

あらやだ、何か言いなさいよ。気になるじゃない。

耳をダンボにして後ろの気配を探る。
ズルズルズルッとすする音しかしない。

あんた、うどんなんか食ってる場合じゃないでしょっ?

何か言いなさいよっ!
え?アニメ?アニメが気に食わないっての?
じゃあ、あんたの好きなの見ればいいじゃない。
仕方ないから我慢してやるわよ。

『 そんな気遣いがさ、押しつけがましいんだよね 』

うどんが箸から落ちる。

ハァ??

ざけんじゃないわよ!
言うに事欠いて押しつけがましいだあ??

あーー、腹立つ。あんたいっつも口が悪い。
ずけずけ傷つく、言い過ぎ!思い出して腹立つ。

だいたい趣味嗜好、あんたとまるっきり違うのに、どこに着地点があるのよ!

思い出して、涙が浮かぶ。

『 怒らないでよ、怖いんだよ 』

うるさい、うるさい、うるさーーーいっ!!

『 謝るからさ、鬼かよ 』

はあ?なんであんたが謝るのよっ!そ、そんなんじゃないのよっ!

『 なら、俺はどうしたらいいんだよ
もう、わかんないよ。もう、俺、疲れたよ。もう 』

ハア……あたしの方が疲れたわよ

大きなお揚げが、少なくなったうどんの中で浮かんでいる。
あたしはこのお揚げが好き。

いつも大事に最後まで手を付けないお揚げに、あいつはよく笑ってた。
あたしはあいつの嬉しそうな顔が好きなのに、きっとあいつはあたしの怒った顔しか覚えてない。

なんで?
なんで?こんなになっちゃうの?

あたし、あんたのこと大好きなのに。
くすん。
くすん。

ねえ、あたしのがさつなとこもさ、あんた好きだって、言ってくれたじゃん。

浮かぶ涙を拭いて、お揚げを箸で取る。
口に運ぼうとした時、後ろの席の2人が立ち上がった。

「どこで買う?コンビニ?」
「ファミマ行こ!」
「うん!」

ハッとして、顔を上げた。

はあ??

なによあんたら、上手くやってるじゃない。

もう、
もう、
なんか腹立つわー

もう!

腹立ちまぎれにお揚げを食べる。

美味しーー!
もう!うらやましーーーーー!!

あたし、なんであんな可愛い女にならなかったんだろう。
きっとがさつなお父ちゃんの血を受け継いだんだわ!

ペロリと平らげて、隣を見る。
あんたのお揚げも頂戴よっ!
仕方ねえなあって、くれたじゃない!

ねえ!
ねえ!

あたしの隣に座っててよっ!
ちゃんとあたしの隣にいてよ!

ねえ、 和輝……

かき揚げ半分食べてよ、あたし太っちゃうよ。

ああ、
ああ、 あたし泣いちゃってるんだから。

ねえ、もうあたし怒らないからさ。

だって、あたしはあんたの全部覚えてる。
だって、あたしはあんたのことが大好きなんだもん。

外は日が暮れて、あたしはお揚げを食べて、おだしをちょっと飲む。
涙が流れて止まらない。

ねえ、和輝、美味しいね。
でも、なんで口から飲んでるのに、目からあふれてくるんだろ。

ねえ、和輝、今何してる?
新しい彼女は出来た?
ねえ、和輝。

そうっと、隣にトレーが置かれた。
キツネうどんに卵。天ぷらはかしわにかき揚げ、磯辺揚げ。

あら、好みが似たような人がいるのね。

くすりと笑っていると、男の手が箸でお揚げを取り、あたしのどんぶりにそうっと入れた。

は??

いつものように、あたしの残したかき揚げ半分取って、だしを吸わせるとぐっちゃぐちゃにする。
あたしは呼吸が止まりそうで、ポカンと口を開けたまま、横を向いた。

「こんばんは、お久しぶりデス。お加減いかがでしょうか?」

そうっとあたしの顔をのぞき込み、気弱そうにニッコリ笑う。

「なんで?」

「いやー、もうそろそろ、お怒りも納めていただいたかと〜」

ずるずるずるずる、もぐもぐもぐ

「はあ??あたしぃ〜、捨てられたと思ったんだけどぉ〜」

「え?とんでもない。
あのですね、実はちょっと仕事で出張してて、連絡したかったけど、黙って行っちゃったんで怖くて出来なかったと、そう言うわけでして。」

あたしはボロボロ涙をこぼして、言葉にならなかった。

「うっうっうっ、うーっ」

「えっ?!うそっ!なんで泣いちゃってるの?俺、またいらないこと言った?
俺の口が悪いの、なかなか治らないんだよ、気を付けるからさ。」

しゃくり始めると、ビックリして、背中をさすってくる。
そして、慌ててポケットから袋を取りだした。

「こ、これおみやげだよ〜、
泣かないで、ごめんごめん、ちゃんと連絡しなかった僕も悪いよね。
ね?ほら、パフェ!パフェ食べに行こう!ね?」

「ぐすん、ぐすん、パフェ?パフェ〜〜〜??」

パフェごときであたしの怒りが収まるかーーー!!

あたしは、ドスンと彼の脇腹を殴った。

「あ、いた、いたたた、謝ってるじゃない。
ほら、包み開けてよ。あー痛い。」

あたしが包みを開けてると、横目でチラチラ見ながらうどんをズルズル食べ始める。
大好きなかしわ天食べて飲み込むと、ニイッと笑った。

「気に入った??」

袋の中は、見たことあるような小さな箱。
あたしはプルプル震える手で、その箱を手にした。

「えっ?これ、えっ?」

そうっとふたを開けると、キラリとなんか見えて、慌ててふたをする。
なにこれ、高級な匂いがする。やだ、お詫びの品には高級すぎ。

「え、やだ、これ高すぎ、返す。」

「えーーーーーー!!」

思わず和輝が大きな声上げて、店内の注目浴びた。

「あ、す、すいません。
違うよ〜、ほら普通のおみやじゃなくってさ〜、ピンときてよ〜、マジ鈍感じゃん。」

「おみやじゃない??じゃあなにこれ?」

和輝はキョロキョロしてそうっと耳打ちする。

「こ、ん、や、く、ゆ、び、わ」

「こんにゃく??」

「あーーーもう!」

和輝がガタンと立ち上がる。

「僕の!お嫁さんになってください!」

突然、大きな声で真っ赤な顔して叫んだ。

「え?」

みんなの視線があたしに集中する。

「え?」

「お嫁さんになってよ。会えなかった間、寂しかった。」

あたしはまた目からお出しをあふれさせて、和輝を見つめた。

なんでこんなとこで、さあ。
クスッと笑ってもう一度箱を開けてみる。

ああ、キラキラきれいな指輪が入ってる。
ああ、なんだろあたし、なんて夜だろう。

あたしは立ち上がると、彼に向けてぺこりとお辞儀した。

「あたしの一生、よろしくお願いします。」

パチパチパチ

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ

「おめでとう!」
「おめでとう!」

うどん屋の中が拍手で沸いて、彼が指輪をあたしの指に付ける。
が、途中で止まった。

「なんだちっちゃい!」

「あれ??ご、ごめん、思ったより指太い!もっと細いと思った。」

「はあ〜〜??それ嫌みですか?!どうせあたしは太ってるよ!」

「いや、だから僕の見当違いだから、ね?明日指輪やさん行こっ!
あっ、うどん食べなきゃ、伸びちゃう。」

彼はいそいそ誤魔化すようにうどん食べ始める。

もう、ほんとに、あたし怒らせるの得意〜!
こいつの口を再教育しなきゃ! きっといつか、やらかすわ!

だって、あんたはあたしの、 あたしの、 キャーーーー!

お嫁さんになってくださいだってーーー!!
夢じゃない。
夢じゃないんだ。

指輪がキラリと輝いて、夢じゃないよと教えてくれる。
あたしは彼の肩にもたれて、コクンとうなずいた。
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