第1話 ご結構なことで

文字数 1,419文字

 公園の横を通り過ぎるとき、俺はいつも公園の中を見ないようにしている。公園をのぞき込む不審人物に思われたくないという理由ではない。公園に置いている、とある遊具を見たくないからだ。

 その遊具というのはブランコ。
 俺はブランコを見た日の夜は、決まって同じ夢を見てしまうのだ。

「あぶない!」
!?

 公園のほうから男の子の声が聞こえた。
 ボールが飛んできたと思った俺は、反射的に公園の方向を見てしまった。

 ……油断した。やってしまった。
 俺の視界に、ブランコがはっきりと見えた。
 これで今日の夜は、あの夢を見ることになるだろう。大した内容でもないから、いい加減に忘れたいあの夢を。


 その日の夜。
 夢を見たくないので、深夜アニメなどを観ながら時間をつぶす。朝まで起きていれば夢は見ない! と徹夜を決意していたが、途中で急激に眠くなってしまい、いつの間にか俺は寝てしまっていた。


 夢の内容は俺が子供の頃。ブランコを見ると必ず見てしまう夢。

 気がつくと、小学校のグラウンドにいた。小学校時代の俺だ。
 ブランコには、同級生でリュウという名前の友だち。リュウの周りには、二人の男子中学生がいる。

 リュウはブランコに座って、ぼーっと前を見ていた。
 しばらくそのままだったが、ついにリュウのショータイムが始まった。

 二人の男子中学生がリュウに何かを話しかけると、リュウは上半身を後ろに反らして、顔を上に向けて大声で叫んだ。

「ご結構なことでー!!

 男子中学生は爆笑していた。
 それから三十秒後くらいに、また男子中学生がリュウに話しかける。
 するとリュウはさっきと同じ格好になり、

「ご結構なことでー!!

 と、大声で叫ぶ。
 また男子中学生が爆笑した。
 何をしているのかはわからないが、遠くから見ると、すごく滑稽な光景だった。こっけいなこうけい……。

 男子中学生はまたリュウに話しかける。
 リュウはお決まりのポーズで、

「ご結構なことでー!!

 また爆笑。

 何度かそのやりとりが続いていた。
 何かを言う。ご結構なことでー!! 爆笑。

 しばらくその黄金パターンが続いたが、ついにリュウがその均衡をやぶる。
 男子中学生が何か話しかけたあと、リュウはこう言った。

「ご結構なことにー!!

 ご結構なことに、リュウの台詞のバリエーションが増えた。
 これまた男子中学生は爆笑。

 このやりとりがしばらく続いた後、男子中学生は飽きてどこかへ行ってしまった。
 リュウはずっとブランコにいたが、もうご結構な台詞は言わなくなった。

 そして俺も家に帰るのだが、そこでこの夢は終わってしまう。


 目が覚めた。
 また同じ夢を見てしまった。
 意味がわからない上に、何の感想も出てこない夢。

 今では俺とリュウは疎遠になっているが、ご結構な夢を見るせいで、いつまでもあいつのことを忘れられない。

 どうしてブランコを見ると、いつもあの夢を見てしまうんだ?
 本当に謎すぎる……。

 このままではいつまでたっても変わらない。
 あの無意味な夢を断ち切るためにも、リュウに一言、言わねばなるまい。
 言ったところでどうにもならないかもしれないが、何も言わずにはいられなかった。

 俺は久しぶりに、リュウに電話してみた。
 出ないかと思ったが、意外にもリュウは電話に出てくれた。
 そこで俺は言った。

「おい、いつもいつも俺の夢に出てくるなよ。はっきり言って迷惑だ」

 するとリュウはこう返してきた。

「ご結構なことでー!!」 
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