第2話 3本足の烏

文字数 1,231文字

 力なく校門を出ると、黄色いイチョウ並木の下り坂を駅に向かって彩栄はとぼとぼと歩き出した。華奢だが普段はバネを感じるような身体の彩栄だけど、今は背中が丸まり、長いさらりとした髪はだらりと前に垂れている。後ろからはショートヘアの麻友と悠太が彩栄にけん引されているかのようについてきていた。はああ。彩栄は息を出し切るようなため息をついて肩を落とした。
「ごめんごめん。重々しい曲を流しながら告白するから僕、笑えて来ちゃって」
悠太がくるくるカールした長めの髪の前で手を合わせて拝むようなポーズで謝る。
「バックミュージックじゃなくて着信音だって。それに悠太、謝るって言うより笑ってるじゃない!」
「彩栄は色白で繊細そうに見えるけど、基本ざっくりしてるよね。何で音楽止めなかったの」
「電話、まま父からだもん。着信拒否したら機嫌損ねるからさ。ずっと着信音流したままだったら、私が着信音に気づかなかったのだけかなと思うでしょ」
「そっか。面倒なこと考えてたんだ。タイミング悪かったね、いろいろと。申し訳ないからさ、スイーツ何かおごらせて!」
「なんか私もごめんね。どうしても気になっちゃって。少し離れて悠太と話をしてるふりしてたんだけど。まさか悠太が笑うなんて」
 パーツがすべて小ぶりなほっそりした顔をくしゃくしゃっと歪めて麻友が気遣わし気に言葉をはきだした。
「悠太、スイーツで何でもごまかせると思うなよ!もういいよ。今日は疲れたから帰るわ。スイーツ、今度おごるの絶対忘れないでよね」
 二人は顔を見合わせてお気の毒に、といった表情を軽く浮かべた。

 自宅のマンションに着いたけれど、電話があったということは継父は仕事じゃなくて家にいるかもしれない。彩栄はすぐに家に入る気になれなくて屋上に上がった。鉄の扉を開けて8階の上の屋上に入ると、建物の谷間を通る風がひゅうひゅうと音を立てている。フェンス越しに下を覗く。下の方に神社のブロッコリーのような形の巨大な楠と社が見えた。黒い長い髪が顔を覆いかかるのが鬱陶しくて風上に顔を向けると、息苦しいほどの強い風で息が吸えなくて、白い顔を斜めに向ける。制服の短いスカートが捲れあがった。バッグや手でスカートを抑えてもキリがない。というか、疲れた。誰も見ていないのにスカートを抑えることになんの意味があるんだろうと、スカートを風任せにはためかせると、彩栄の形のいい長い足が見えた。
 眼下をカラスのより大きく見える黒い鳥がパッタッタッタと音をたてて飛び立っていく。悠然と鳥が飛ぶ姿は何千年前も変わらないのだろう。飛び立った黒い鳥は悠々と空を旋回すると、こちらに向かってすごい勢いでやって来た。翼をたたむ風切り音を立てて目の前のフェンスにガシンと音をたてて黒い鳥が止まると、身体の大きさに彩栄は驚いた。それに鳥の足の辺がすっきりしていなくて違和感がある。全部黒一色なので見づらいが、よく見ると足が3本あるような気がする。三本足の鴉?薄っすら鳥肌がたった。
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