第2話 朱鷺色

文字数 985文字

朱鷺色(ときいろ)とは、少し黄みがかった淡くやさしい桃色のことです。『鴇色ときいろ』とも記され、紅花や蘇芳すおうで染められました。

暫くぶりに母の所を訪ね、かんなぎの孫に再会し、長々とその孫の素性を母から、聞かされ、彩と言う孫とその守り女の沙耶とお茶をして、何時になく楽しい時間を過ごした時から数週間が経った。僕はその間に書き上げた、幾つかの作品を、馴染みの画廊を通して、スペインの師匠の元に送ってもらった。その結果なのだろうが、何故か師匠からの召喚命令来たのであった。しかも航空チケット付きで・・・
そんな訳で、僕は数か月の間、サクラダ・ファミリアの工房に缶詰になることになり、師匠の壁画制作を手伝っいていた。中世の時代からの伝統の様に、壁画の様な大作はマイスター(師匠)の指示のもと、部分的に作品を仕上げて行くと言う伝統的な技法は顕在で、僕は、師匠のモチーフにある、ある少女の部分を任されていた。天使とも妖精ともつかぬ構図の中に、僕は彩のイメージを書き上げていた。どうもこの壁画は、数年後のサクラダ・ファミリアの完成披露の時に使われるらしく、所謂、天地創造のストーリーを題材にした物で、それを師匠なりにアレンジした作品であった。地中海に面したバルセロナは、穏やかな気候で、海も僕のアトリエのある伊豆に比べ大人しく感じられた。休日は、学生時代にお世話になった下宿屋に、昔ながらの師匠の直弟子達と立食パーティーの様な事をやりつつ時を過ごすと、平日は、アトリエ(作業場)に行き、創作作業に精を出す日々で、数年来の悶々とした時間を過ごしていた僕にとっては、夢の様な時間が過ぎていた。
僕の感覚では、半年位の気持ちでいたのだが、その後、彩と会えたのは三年後らしかった。確かに僕はその間スペインの師匠の所とか絵画展の作品とかを描いて結構忙しく過ごして居たのは事実だった。前回五歳の女の子は、三年たって八歳の小学生、もっとも学校には通っていなくて、専属の家庭教師兼かんなぎ修行の師匠役で守り女と呼ばれる沙耶達と、広い敷地の神社で暮らしていた。僕が、社務所を訪れたときは、所謂巫女の装束の格好をして、長い髪を揺らしながら廊下を歩いていた。体は一回り大きくなった感じがしたが、その出で立ちから来るのか、ふわりと廊下から降りて僕の方へ近づいて来た様子は、まるで朱鷺が舞降りてきた様だった。
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