第1話

文字数 729文字

わたしの仕事はとても大変だ。毎日精神をすり減らし、人生の時間を無駄にしているように感じる。
なんで、こうもわりにあわないことを、つづけているのだろう。自分でも、ふしぎだ。

今日の仕事場は、ここだ。呼び鈴をならすと、すぐに家主はとびでてきた。

「ようこそおいでいただきました。待っていましたよ。さあ、どうぞ中へお入りください」

大きなスクリーンのある部屋へ通された。そして、そのスクリーンに映像がうつしだされた。

ブルーやグリーンの線がひょろひょろと、稚拙にうごいている。それだけの映像が、ただただ三時間つづく。



私は三時間で終わってくれて、むしろほっとしていた。なにせひどいときは、このようなものが半日以上続いたりするときもある。

「どうでした、わたしの作品は」

「とてもすばらしかったですよ。植物のもつ生命の力強さを、抽象的なタッチで、みごとに表現されていると感じました」

正直なところ、この三時間の映像がなにを意味しているのか、まったくわからなかった。どうにか『いのちの森』というタイトルが出ていたのを思いだし、そこから適当に、もっともらしい感想をひねりだす。

「まさにそれです!私が表現したかったのは、そういうことです。あなたのような理解のある方に鑑賞していただけて、本当によかった」

「もちろんです。ではまた新しい作品ができあがりましたら、おしらせください」

批評やアドバイスは、禁物だ。彼らは、よりよいものを作りたいわけではない。自己を適当に表現し、だれかにそれを承認してもらいたいだけなのだ。

他人を感動させる作品なら、古い時代にくさるほどある。

今は芸術家自身が好きなことをし、自分だけがたのしい作品をつくる時代なのだ。好きなことだけをする。それができる時代になったのだ。
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