レッツ・ダンス
文字数 1,330文字
戦いは終わった。
誰もが望む大団円が訪れた。
地球連合軍とグランゼーラ革命軍、人類は手を取り合って――未来を掴んだ。
男たちの笑い声が聞こえる。勝利を祝して祝杯をあげているのだ。しかし、そんな彼らからはるか離れ、閃光煌めく宇宙空間の見える部屋にいる人物が二人。
「何もかも終わったな。みんなみんな浮かれてる」
「そうだね。でも、それだけ幸せってことじゃない?」
カトーが微笑む。隻眼が細められて、キースンに笑いかけている。傷だらけの体はどうしたって酷いものだが、残された右目は美しかった。
「お前、酒好きだろ。あっちに行かなくていいのか」
「うん。貴方といられる方がいいもの」
「……ふぅん」
カトーは蟒蛇だが、キースンは下戸なのだ。どうやらカトーは、仲間と騒ぐよりも彼と共にあることを優先したらしい。それがどうにもむず痒い。キースンは流石に恥ずかしくなって、頭を掻きながら、呟く。
「つっても、二人だけでぼーっとしてんのもつまんねぇな……何か軽食でも取ってくるかな」
「貴方が戻った瞬間副官の子たちに捕まりそう」
「……否定できない。そのまま二度と抜けられそうも無いし、やめとくか……」
さてどうするか、腰に手を当てて首を捻る。窓の外は星が瞬いていて、目の前には最愛の人物がいる。
その時だ。歓声に混じって、音楽が聞こえてきた。メロディーではっきりとわかる。往年のヒットソング。まともな生まれではないキースンとカトーもしっている、その曲を耳にして、彼は閃いた。
「じゃあ。そう、そうだな……」
部屋の中央、開けた所まで移動する。コツ、コツ、コツ、と足音が響く。そして、呟く。
「一曲、踊ってみるか」
くるり、と。その場でキースンが一回転して見せる。美しくバランスの取れた細身の体はただ立っているだけでも絵になるが、こうして動くと尚美しい。ひらりとひらめく軍服の裾の動きすら優美に見える。
カトーが思わず見惚れていると、目の前には手が差し出された。決して逞しくはないが、骨張った男の手だ。
「俺と踊ってくれるか、お姫様」
「お、お姫様、って……」
キースンの言葉に、カトーの頬が朱に染まる。物語のような褒め言葉。それをさらりと口にするのだ、このキースンという男は。
「俺にとっての君はお姫様、さ。ご不満かい?」
「ふ、不満じゃ……ないけど……私が相応しく、無いって、いうか」
目を逸らしながら、カトー。カトーはいつも、自信が無いのだ。体が醜く爛れているせいで、こと容姿に関しては。しかしこのキースンという男にとって、彼女はどうやら醜くは見えないらしい。彼は今一度手をカトーへ差し出すと、その整った顔で微笑んで見せる。
「君は誰よりも綺麗だとも。自信を持って、俺の手を取ってくれ」
自信を持つことはできないが、その言葉は嬉しかった。おずおずと傷だらけの手を重ねる。手の大きさを意識すると、何とも言えない気分になる。
重ねた手を握られて、顔を上げた。端正な顔立ちの男と、目線が合う。切れ長の鳶色の瞳が彼女だけを見ていた。
「さぁ、一緒に踊りましょう、お姫様」
手を引かれてステップを踏む。拙いものではあるが、美しい星々以外誰も見ていやしないのだから構うまい。彼らが幸せであれば、それでいいのだ。