第1話

文字数 1,356文字

「マッドマックスTV」(テレビ朝日、ABEMA)というテレビ番組が面白くて、月1回ペースの放送を毎回録画して見ている。人気が(イタチでなく)鰻のぼりで、今や飛ぶ(イタチでなく)鳥を落とす勢いのかまいたちがMCを務める生放送の番組。

番組の人気コーナーの一つに、ひろゆき論破企画がある。2ちゃんねる開設者の西村博之さんと討論対決をして論破する!というコーナー。過去に様々な人がひろゆきさんに挑戦したが全て敗北、放送のたびにひろゆきさんの討論の強さが証明されている。

先日の放送では、ひろゆき論破企画を持ちこんだ本人で一番最初に討論相手(=敗者)となった、お笑い芸人とろサーモン久保田さんが再びひろゆきさんに討論を挑んだ。

討論のテーマは「ネットニュースのコメント欄は廃止すべき? すべきじゃない?」

とろサーモン久保田さんは「廃止すべき」、ひろゆきさんは「すべきじゃない」で互いの論をぶつけ合う。久保田さんは「誹謗中傷のコメントが多いから廃止すべき」、ひろゆきさんは「フェイクニュースなども増えており、正しいコメントによってそうした偽ニュースが減る、精度が上がる」という論調だった。(ひろゆきさんは相手に二択の回答を迫ることがよくあり、何度言ってもそれに対して理解や回答を示さない久保田さんに業を煮やしたシーンは恐ろしくもあった……)

討論の結果はABEMAで見られると思うので書かないけれど、予想通りだった。
とろサーモン久保田さんはネット上で叩かれることも多いらしい。テレビなどで披露される彼の芸風やキャラクターに対して、叩いていい対象を見つけたぞぉとここぞとばかりに叩く人による攻撃。それを本人が目にするのは相当なストレスだろうなぁ、とも思った。


20代のはじめ、ハンバーガー店の夜勤を終えた俺は帰路を辿っていた。今から10数年前の話。

朝6時すぎ、自宅の最寄り駅から歩いてきて、もうすぐウチに着くところ。ウチは袋小路のつきあたりに家があって、その袋小路に入る15メートルくらい手前で俺はタバコに火をつけた。あの頃は喫煙者だった。
※路上喫煙はいけません!

小鳥のさえずり、朝の光、タバコの煙。
仕事から解放されて一服しながら歩いていると、向かいからペットを散歩するマダムが来た。知らない人。俺との距離が5メートルくらいになると、マダムは急に咳きこみだした。

「ケホッ、ケホッケホッ」

タバコを放り捨てるわけにもいかない俺は申し訳なさと居心地の悪さを感じてしまう。

ちょうど袋小路の前で俺とマダムがすれ違う。その瞬間、マダムがペットに言う。
「〇〇ちゃん、息しちゃダメよ!ダメ息しちゃ!!もうホント、何考えてるんでしょうね一体!ねぇ~〇〇ちゃん♡困るわよ、ねー♡」

禁止されている路上喫煙をした俺がいけない。わかってはいる。だけど、そんなの……そんなやり方ってないでしょうよ。
そのケホッは何よ。咳というより、ケホッって文字を読んでるようなケホッは。
しかも、直接俺に何か言うならまだしも!連れのペットに語りかける感じを装って嫌悪を示すって!叩きの手練れだわ手練れ!叩きライセンス何級所持者で・す・か!?

そう思い振り返った俺。マダムの連れたペットと目があった。
(イタチでなく)派手なお洋服を着せられたチワワが、憐みの眼差しで俺を見つめていた。
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