十五 解放

文字数 9,025文字

「啓介。啓介。聞こえているのだ? 聞こえていたら返事をして欲しいのだ」 

 どこかから、ハルツーの声がする。

「ハルツー?」

 啓介は言いながら、どうなってるんだ? どうしてハルツーの声が聞こえるんだ? ハルツーは、死にそうになってて変形して、あれ? 俺は何をしてたんだっけ? と思い、周囲を見る。

「なんだ、これ?」

 啓介は、言葉を漏らした。啓介の足元には、どこまでも続いているように見える無数のウデで作られた海のような物が広がっていた。

「啓介。また会えて嬉しいのだ。啓介の顔が見たいのだ。けれど、啓介の姿は、もう、どこにも存在はしてはいないのだ。今、ハルツーと啓介は、意識だけの存在となっているのだ。あの、変な奴の爆発の所為で、啓介もハルツーも体を失ってしまったのだ。今はなぜかは分からないけれど、啓介とハルツーの意識だけがまだ生きていて、繋がっている状態なのだ」

 ハルツーが言う。

「絵美は? 絵美はどうなったんだ?」

 啓介は、ハルツーの話を聞いていて、士魂との戦いの事を思い出し、声を上げた。

「分からないのだ」

「そんな。どうなってるか、探さないと」

 ハルツーの言葉を聞き、啓介は言う。

「しょうがないのだ。啓介の為なのだ。啓介、いや、なんでもないのだ。啓介は、何もしないで待っているのだ。ウデの海の下に意識を向ければ分かるかも知れないのだ」

 ハルツーが言って沈黙する。絵美。頼むから無事でいてくれ。啓介はそう祈るように思いつつ、ハルツーが何かを言うのをじっと待つ。何かが何かに当たっているような、小さな音が連続して聞こえ始める。

「ハルツー? ハルツーなのか?」

 啓介は言い、音のする方、上の方を見た。

「空と宇宙船」

 啓介は空と空に浮かぶ宇宙船を見て言葉を漏らし、少ししてから、雨が降っている事に気が付いた。

「聞こえてるのは、雨の音なんだ」

 啓介は呟いてから、ハルツーはまだ戻って来ない。そういえば、ハルツーはさっき何かを言いかけてやめたけど何を言おうとしてたんだ? 絵美の事が心配で、絵美の事を探してくれって言ったけど、ハルツーにまた会えて良かったって言うのを忘れてた。ハルツーは、ウデの海の下に意識を向けるって言ってた。それって、ウデの海の下に行ったって事なのか? ちゃんと戻って来るんだよな? 俺達、今、こんな良く分からない、おかしな状態だ。まさか、このまま戻って来ないで、消えてしまうなんて事はないよな? そう思うと、下を見る。

「啓介。分かったのだ。無事なのだ。体の怪我が酷くて、意識も失っていて、まだ動く事はできないようなのだ。けれど、体はしっかりと再生を始めているのだ」

 ハルツーの声が聞こえて来た。

「ハルツー。良かった。絵美は、生きてるのか。そうか。良かった。本当に良かった」

 啓介は、ウデの海を見つめながら言う。

「啓介。良い話の後で、凄く言い難いのだけれど、悪い話があるのだ」

 ハルツーが言った。

「ハルツー。待ってくれ。先に俺の話を聞いてくれ。ハルツーと、姿は見えないけど、こんなふうにまた話ができて俺は凄く嬉しい。さっきは、ごめん。絵美の事で頭がいっぱいになって、咄嗟に絵美の事を言ったけど、俺は、本当にハルツーと再会できて嬉しいって思ってる」

「啓介。ハルツーは、凄く、嬉し、いや、そんな事はないのだ。もう、今更、会えて嬉しいとか言われても全然嬉しくないのだ。ハルツーは、実は、凄く、凄ーく、傷付いているのだ。もう、これは、もしも、体が復活する事になったら、キスと愛してるどころの話じゃないのだ。交尾まで行かないと駄目なのだ」

 啓介の言葉を聞いたハルツーが大きな声を出す。

「ハルツー。ハルツーはこんな時でも、相変わらずだな。なんか、ちょっとほっとする」

 啓介は、今の俺に顔があったら、きっと笑ってるんだろうな。あ、でも、体がなくて良かったかも。ハルツーがまた変な事言い出してるし。とりあえず、無視しておこう。と思いつつ言った。

「ほっとしている場合ではないのだ。ハルツーは怒っているのだ。交尾の事も無視しているのだ。おかしいのだ。納得できないのだ」

 ハルツーが言う。

「ハルツー。それは、ほら。良い意味なんだから、そんなに怒らないでくれ。もう一つの方は、なんていうか、あれ、あれだ。体がないから、何もできないし。そんな事より、そうだ。さっき、何かを言いかけてやめてたけど何を言うとしてたんだ?」

「むむう。なのだ。そんな事とか言われると、また、傷付くのだ。けれど、しょうがないのだ。今は、話をする事しかできないから、我慢するのだ。さっき何かを言いかけてやめてたとは、そうだったのだ。悪い話をするのを忘れていたのだ」

 啓介が言うと、ハルツーがそう言う。

「そっちじゃなくって、俺が絵美を探さないとって言った後、ハルツーが、啓介、いや、なんでもないのだって言ってたじゃないか。あれが気になってて」

 啓介は言ってハルツーの言葉を待ったが、すぐにはハルツーが言葉を出さず、雨の音だけが、静かに鳴り響く。

「いずれ分かる事だから、もう言ってしまうのだ。啓介とハルツーは、いつ死んで消えてもおかしくない状態なのだ。何かしらの切欠があれば、すぐにでも、死んで消えてしまうかも知れないのだ。こうなる前から死にかけていたハルツーには分かるのだ。啓介の事なのだ。先にこの事を言ったら、行動しようとするハルツーの事を止めるかも知れないと思ったのだ。だから、さっきは言わなかったのだ」

 少しの間を置いて、ハルツーの声が雨の音を消す。

「ハルツー。また、そんな事。頼むから自分の事を大切にしてくれ。今、こうやって話ができてるから良いけど、もしも、ハルツーがあのまま消えてしまってたら。もう二度と、自分を犠牲にするような事はしないでくれ」

「啓介」

 啓介の言葉を聞いたハルツーが呟くように言う。お互いに何も言わなくなり、また、雨の音だけが静かに鳴り響き、周囲に広がる。

「ハルツー。なんだよ。らしくないじゃないか。ハルツーが黙ってると消えたんじゃないかって不安になる」

 啓介は雨の音に負けないように、声を少し大きくして言った。

「では、何かを話すのだ。そうなのだ。悪い話の事をまた忘れていたのだ。今の話の後で、またこんな話で悪いとは思うのだ。けれど、言っておかなければならないのだ。宇宙船の事なのだ。全部、破壊できなかったのだ。墜落するまでには、まだ、数日の猶予はあるとは思うのだ。けれど、いずれ確実に墜落するのだ。地上への脅威は去ってはいないのだ。皆は地下にいるから、助かるかも知れないのだ。絵美も、地下に行く時間はあるから大丈夫だと思うのだ。ただ、地下にいても死んでしまう可能性はあるのだ。確実に生き残れるという保証はないのだ」

 ハルツーの言葉を聞いた啓介は、宇宙船か。そういえば、宇宙船が墜落して来るから破壊しないといけないってハルツーは言ってたっけ。でも、もう、どうしようもない。今の俺には何もできない。このまま、諦めるしかない。皆は、地下にいるんだ。生き残る事はきっとできる。絵美だって、ハルツーの言う通り、数日あるんだ。地下に行ける。と思ってから上を見た。

「虹。ハルツー。虹だ。虹が出てる」

 いつの間にか空に出ていた虹を見て、声を上げた啓介は、母親が生きていた時に、母親と美羽と三人でした会話の事を思い出した。

「虹? なのだ?」

 ハルツーが言う。

「うん。上を見て。空に出てる、あの七色のは虹っていうんだ。本物は初めて見た。美羽が、前に虹が見たいって言ってたんだ」

 啓介は虹を見つめたまま言う。

「分かった。俺は石にかじりついても、生きる事を諦めない。お前が戻って来るまでは絶対に死なない」

 美羽の事を思い出した啓介の中に、あの日の父親の言葉が浮かぶ。美羽が生きてるのなら、俺は、石にかじりついても、生きていたい。俺は、そう思ったのに。俺は何をやってるんだ。結局、今、こんなふうになってる。美羽を残して、死んで行こうとしてる。

「こんな物、ハルツーは知らなかったのだ。凄いのだ。綺麗なのだ」

 思考の中に埋没していた啓介の意識の中にハルツーの声が入って来る。

「ハルツー。宇宙船、今から破壊する事ってできないか?」

 そうだった。あの時、父さんは、俺の事を待っててくれた。俺の為に生きててくれた。何が、このまま諦めるしかない、だ。何が、皆は、地下にいるんだ。生き残る事はきっとできる。絵美も、数日あるんだ。地下に行ける、だ。駄目だ。このまま、消えるなんて絶対に駄目だ。美羽の為に、それだけじゃない。皆の為に、今の、俺にできる事。そう思った啓介は宇宙船の方を見て言った。

「啓介。それは、体がないから、無理なのだ。下にあるウデも、繋がりが断たれているようで動かす事ができないのだ」

 ハルツーが言う。

「美羽に、いつか、本物の虹を見せてやりたい。皆を助けたい」

 啓介は言って、下を見る。無数にあるウデを見ながら、反物質粒子砲に変われと強く思ってみる。だが、ウデはなんの反応も示さない。啓介は、何度も何度も強く思ってみる。だが、やはり、ウデはなんの反応も示さず、沈黙したままだった。

「啓介? 何か言うのだ? 急に黙ると心配になるのだ」

 ハルツーが言った。

「反物質粒子砲に変われって、ウデを見ながら何度も強く思ってたんだ」

「ハルツーも何度も試したのだ。けれど、無理だったのだ」

 啓介の言葉を聞いたハルツーが言う。

「どうしてだ? ウデは、まだあんなに残ってるのに」

 啓介は、ウデを見つめて呟く。

「啓介。しょうがないのだ。あまり思い詰めない方が良いのだ。何が切欠で死んで消えてしまうか分からないのだ」

「ハルツー。ごめん。こうやってハルツーと過ごす時間は凄く大切だって思ってる。でも、俺は、美羽に虹を見せてやりたい。皆を助けたい。だから、どうして諦めたくない」

 ハルツーの言葉に啓介はそう言葉を返す。

「啓介」

 ハルツーが言う。

「啓介は、やっぱり酷いのだ。結局ハルツーの事なんて、なんとも思っていないのだ」

 ハルツーがすぐにまた言葉を出す。

「そんな事ない。でも、今は、もう、最後だから。美羽や皆の為にどうしても」

「そこが酷い所なのだ。自覚なしなのだ。やってられないのだ」

 啓介の言葉を途中で遮るようにしてハルツーが言った。

「ハルツー」

 啓介はそう言ってから、ごめん。と言葉を付け足す。

「けれど、なのだ。きっと、そういう所も含めて啓介なのだ。だから、しょうがないのだ。そんな啓介に惚れてしまったハルツーが悪いのだ。啓介。ハルツーと一緒に、変われと思ってみるのだ。一人で駄目なら二人なのだ。残された力を振り絞って二人で思ってみるのだ」

「ハルツー。でも、何が切欠で死んで消えるか分からないんだ。ハルツーだけでも、やらない方が良い」

 ハルツーの言葉を聞いた啓介は言った。

「啓介。啓介はやっぱり酷いのだ。全然分かっていないのだ。啓介が消えてしまったら、ハルツーは一人で残っていても意味がないのだ。だから、これで良いのだ。さあ、変われと思うのだ。いっせいのせーなのだ」

「ハルツー。ごめん。それと、ありがとう」

 ハルツーが言い、啓介は言ってから、ウデよ反物質粒子砲に変われ。と強く思う。

「啓介。ウデが動き出したのだ」

「ハルツー」

 ハルツーと啓介はほとんど同時に声を上げた。

「啓介。これなら宇宙船を破壊できるのだ」

 ハルツーが言う。

「ハルツー。姿が」

 忽然と目の前に現れたハルツーの姿を見た啓介は言葉を漏らした。

「啓介。啓介の姿が見えるのだ」

 ハルツーも言葉を漏らす。

「啓介、なのだ」

 ハルツーが言って啓介に抱き付いた。

「ハルツー」

 啓介は言いながら、抱き返そうとしたが、途中で手を止める。

「む? むむ? むむむ? なのだ? どうして、手を止めているのだ?」

 ハルツーが、啓介の動きに気付いて言った。

「え? いや、だって。俺とハルツーって、こんなふうに抱き合う関係だったかなって思って。ハルツーも一応女の子だろ? なんか悪いかなって」

 啓介は、本当は、なんか恥ずかしいから、抱き締め返さなかったんだけど、それを言うのも恥ずかしいからごまかそう。と思い、そう言った。

「啓介。この体は、どうしてこうなっているのかは分からないけれど、本物ではないのだ。いつ消えるか分からないのだ。だから、今のうちなのだ。がばっと来るのだ。ばっちこーいばっちこーい、なのだ」

「ばっちこーいばっちこーい?」

 ハルツーの言葉を聞いた啓介は言う。

「こういう時に言う言葉なのだ」

 ハルツーが言った。

「絶対に間違ってる。それ、野球とかの時に言う言葉だ」

 啓介はハルツーのフェイスガードを見つめて言う。

「細かい事は良いのだ。啓介は本当に酷いのだ。それよりも、なのだ。体がこうしてある今、ハルツーは、今までの借金の返済を要求するのだ。キスと愛してると交尾なのだ」

 ハルツーが言い、啓介を抱く手にぎゅっと力を込める。

「キスと愛してると、交尾?」

 啓介は言って沈黙する。今まで色々してくれてるハルツーの為に、できる事はしてあげたい。キスと愛してるは、まあ、とりあえず、こんな状況だから、俺の気持ちの事とかはもう考えない事にして、なんとか頑張ってやってみるとして。交尾って。さっき言われた時は体がないからごまかせたけど、今はそれはもう使えないし。大体、今のこの状況でどうやれば良いんだ? もちろん、俺も思春期の男子だから、エロ本とかは、ベッドのマットレスの下に隠して持ってて、そういうのから得た知識ならあるけど、いやいやいや。待て待て待て。そもそも、ハルツーは機械だ。そんな事、本当にできるのか? そういう機能というか、そういう装備というか、そういう、何かがちゃんとあるのか? 啓介はそう思うと、ハルツーの体を探るように見る。

「は?! なのだ。今、啓介の視線に何かおかしな雰囲気を感じたのだ」

 ハルツーが突然声を上げる。

「え? そうなの? そういうのって分かるの?」

 啓介は慌てて横を見つつ言う。

「啓介。何を考えているのだ?」

 ハルツーがそう言うが、そんな事絶対に言えるはずがない。と啓介は思う。

「ハルツー。反物質粒子砲ができあがった」

 これ以上問い詰められても困る。何か話を変える切欠はないのか? と思い、周囲を見た啓介は、反物質粒子砲ができあがったのを見て言った。

「啓介。また、なのだ。酷いのだ。ハルツーの事は、いっつも後回しなのだ。ハルツーは、このままでは行かず後家になってしまうのだ」

「行かず後家?」 

 行かず後家ってどういう意味なんだ? 全然分からない。でも、なんか凄い悪い事をしてる気がして来た。ハルツーの言葉を聞いた啓介はそう思いながら言う。

「そこはどうでも良いのだ。とにかく、ハルツーはキスと愛してると交尾を要求するのだ。啓介。ハルツーは啓介を愛しているのだ。啓介は、どうなのだ? 啓介はハルツーの事を、どう思っているのだ? とりあえずそこからなのだ」

 ハルツーが言う。

「それは、なんというか。ハルツーには感謝はしてる。けど、そういうのは、なんていうか」

 なんかいきなり凄くハードルが上がった気がする。あんなふうに言われたら、ハルツーの為に何かしてあげたくて、愛してるとかって言うのはやっぱり駄目なんじゃないかって思えて来た。ハルツーの事をどう思ってるか、好きとか嫌いとか、そういうふうな気持ちの事、今までちゃんと本気で考えた事なんてなかった。それに、今だって、お互いに死にかけてて、宇宙船を破壊しなくちゃいけなくて、大変な時で、考えようと思っても、頭の中が整理できない。啓介はそう思いながら言った。

「啓介。もう時間がないのだ。反物質粒子砲を撃てば、啓介とハルツーは確実に死んで消えるのだ。だから、二人で話ができるのはこれが最後なのだ。前に、ハルツーが死にかけた時は、こういう事は無理にやってもらっても意味がないのだって思ったのだ。でも、こんなふうになって、聞けるチャンスが、それだけではなくって、キスとか交尾とかもできるチャンスができて、やっぱり、諦めたくない、聞きたい、色々な事がしたいって思ってしまっているのだ。啓介。お願いなのだ。どんな答えでも良いのだ。まずは、ハルツーは啓介の気持ちが知りたいのだ」

 啓介の体に回している腕を解き、啓介から体を離して、ハルツーが言い、ゆっくりと下を向く。

「ハルツー」

 啓介は言って、下を向いているハルツーを見つめる。ハルツーの姿をじっと見つめていると、ハルツーと一緒にいた時に起きた出来事や、交わした会話などの事が啓介の頭の中に浮かんで来る。

「分かったのだ。啓介。その沈黙がきっと答えなのだ。ハルツーは諦めるのだ。諦めるけれど、来世で、また会えたら嬉しいのだ」

 ハルツーが言って、啓介に背を向ける。啓介は何も言わずに背後からハルツーを抱き締める。

「け、け、けけけけけけ、啓介、なのだ?」

 ハルツーが大きな声を出す。

「そ、そんな声出さなくっても。俺だって、自分のやってる事にかなり驚いてるんだ。ハルツーはずるい。こんな時に、そんなふうに。しかも、交尾とか言い出すし」

「啓介。そっちを向きたいのだ」

 啓介が言い終えると、ハルツーが言う。

「駄目だ。まだ、駄目だ。顔を見たら、きっと、話せなくなる。もっと、言わせてくれ。俺、こんなの初めてなんだ。こんなふうな気持ちに、今までなった事なんてなくって」

「啓介」

 啓介の言葉の途中で、ハルツーが言い、くるりと啓介の腕の中で体を回し、啓介の方を向いて、啓介の体をぎゅっと抱き締める。

「もう。駄目だって言ったのに」

 啓介は言い、ハルツーのフェイスガードを見る。

「我慢できなかったのだ。啓介。離れるのなら今のうちなのだ。これ以上こんなふうにしていたらハルツーは今以上に啓介の事を好きになるのだ。啓介がハルツーの事を好きだって勘違いしてしまうかも知れないのだ」

 ハルツーが言い、啓介の顔を見つめるような仕草をする。

「ハルツー。俺、ハルツーの事が好きみたいだ」

 啓介の言葉を聞いたハルツーの体が、一瞬、大きく震えた。

「ハルツー。愛してる」

 啓介の言葉に応じるように、ハルツーがフェイスガードを啓介の顔にゆっくりと近付ける。啓介はその動きに応えるように、自分の顔を動かし、ハルツーとキスをした。

「啓介」

 ゆっくりとフェイスガードを引くと、ハルツーが言う。

「ハルツー。ごめん。交尾は、今は、ちょっと」

 啓介は言って、またハルツーの体をそういう目で見てしまう。

「は?! また、啓介の視線からおかしな雰囲気が出ているのだ」

 ハルツーが言う。分かるのか? そういうのって本当に分かるのか? 啓介はそう思いつつ、慌てて横を向く。

「啓介。ハルツーは今は、とても満足しているのだ。交尾はまた今度で良いのだ。残念な事に、この体にはそういう機能はないのだ」

 ハルツーの言葉を聞いた啓介は、横目でハルツーの姿を見つつ、そういう機能ないんだ。とがっかりしながら思った。

「は?! 今、なぜか、啓介が凄くがっかりしている気がして来たのだ」

 ハルツーが言った。啓介は、は?! そういえば、俺とハルツーの意識って繋がってるんだっけ? 思考が漏れてるとかなのか? そうのか? と思う。

「ハルツー。俺は、がっかりなんてしてないよ。ああ。でも、あれかも、折角ハルツーと両想いになれたのに、またすぐにお別れだから、そういう意味ではがっかりはしてるかも」

 啓介は、言って、ハルツーの反応を探るようにハルツーのフェイスガードを見つめる。

「啓介。ハルツーは体を求められたいのだ。そこは、両方ともがっかりしたと言う所なのだ。けれど、まあ、それは今は良いのだ。ハルツーだって、啓介とは、離れたくはないのだ。でも、どうしようもないのだ」

 ハルツーが言い、啓介を抱く手にぎゅっと力を込める。

「ハルツーってさ、凄い、良い奴だよな。なんで、こんな事になったんだろう。ハルツー達ともっと違う出会い方をしてれば、今だってこんな事にはなってなかったはずなのに」

 思考が漏れてるとか、そんなくだらない事はもうどうでも良い。ハルツーの事がたまらなく愛おしい。啓介はそう思いながら言う。

「違う出会い方をしていたら、啓介とハルツーはこんなふうには、なっていなかったかも知れないのだ」

 啓介の言葉を聞いたハルツーが言う。

「本当にそう思ってる? 俺は、そうは思わない。きっと、俺とハルツーはどんな出会い方をしても、こんなふうになってる」

 啓介は言ってから急に恥ずかしくなり、顔を俯ける。

「啓介。やっぱり交尾なのだ。良く考えたら、ハルツーは体を変形させる事ができるのだ。今から形を変えるのだー。変わるのだー。ぐむむむむむー、なのだ」

 ハルツーが大きな声で言う。

「ハルツー。ちょっと待って。ハルツーの体が、消えて行ってる」

 ハルツーの足の先が透明になっているのを見て、啓介は言った。

「啓介も、なのだ。啓介。お別れの時が迫っているみたいなのだ。急いで反物質粒子砲を撃つのだ。全部撃ち落としてから消えるのだ」

「ハルツー。最後まで、俺達の為に。ハルツー。本当にありがとう。」

 ハルツーの言葉を聞いた啓介は、そう言って、笑顔を作った。

「啓介」

「ハルツー」

 ハルツーと啓介はお互いをじっと見つめながら言い、砲を撃つ事に意識を集中した。

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