第1話

文字数 1,621文字

 ふわふわふわふわ、ふわふわふわふわ

「ああ、海だ。海は青い。海は青い。」

 孤独。ついこの前まで、母と兄弟と一緒だったのに。まさかこんなことになるなんて。風に任せて飛ばされるなんて思ってもいませんでしたわ。あの優しかったお母さん。己の身から養分を分け与え成長させてくれたお母さんに、こんな無責任にほっぽり出されてしまうだなんて。あの暖かく優しかった母。一体何を考えていたのでしょうか。

 ふわふわふわふわ、ふわふわふわふわ

 孤独に海の上を漂います。みんな孤独なのでしょうか。一人で漂っているのでしょうか。これから私はどうなるのか。わかりません。どうすることもできません。ただ風に乗ってふわふわふわふわ空中を漂い続けるだけです。ああ、海の上に落ちたらどうなるのでしょう。夢を見ているみたいです。突然旅客機から突き落とされたみたいな、そんな感じ。既に海に落ちた兄弟もたくさんいるのではないでしょうか。うう、みんな元気だといいけれど。

 ふわふわふわふわ、ふわふわふわふわふわ

 風が弱まってきました。ああ、海の上に落ちてしまいそうです。

 ふわふわふわふわ、ふわふわふわふわ

 ちゃぽんっ

 冷たい。冷たい波に揺られます。

 ザブザブン、ザブザブン、冷たい波に揺られます。もちろん水の上なんて初めての体験です。母と暮らしていた頃から海は視界に入っていましたが。まさか入ることになるなんて。でもなんとなく想像していた通り、浮かんでいます。なんとなく、浮かぶものだと思っていましたが思った通り浮かんでいます。さあ、これからどうなるのでしょう。冷たい塩水に揺られています。母のもとに帰りたい。母のもとに帰りたい。母のもとに帰りたい。母のもとに帰りたい。帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい...........。


 気づくと私は砂の上におりました。どうやらどこかの島に流れ着いたようです。ああ、なんだか落ち着く。地上。海の上で一人漂っていた時の恐怖は薄れてきました。同じようにこの島へ流れ着いた仲間達入るだろうか。辺りを見回しても見当たりません。一面の砂です。みんな無事どこかに着陸していればいいけれど。でもまあ、そんなはずはありません。海に落ちて、漂い続けている兄弟もたくさんいることでしょう。可哀想に。母はなんて残酷なのでしょうか。

 しばらくすると、私は土の中におりました。風でくるくる転がされ、土の中に埋まったのです。とてもとても心地いい。心地いいです。

 何日だったかわかりません。体からなにかにょきっと生えてきました。なんなんだろう。でも嫌な感じはしません。可愛らしい。自分の体の一部だけれど可愛らしいです。

 どんどん大きくなる、私の体。上に真っ直ぐ伸びていきます。太陽の光が気持ちいい。ああ、気持ちいいなあ。なんだかとってもうまくいっている気がする。黄色くて大きな花ができた。風に揺られ太陽の光をめいいっぱい浴びている。ああ、いい気分だ。とっても、とってもいい気分だ。ずっとこのままがいいなあ。

 またまた時が経ちました。黄色いお花はなくなって、替わりに白い綿毛のようなものが頭を覆いました。これは、私たちだ。あの頃の。ああ、そういうことだったのか。この子たちも飛ばされていくのか。無責任に風に乗せられて。この子たちの中にも、海に落ちて消えていくものたちがいるのでしょう。やっと、お母さんの気持ちがわかりました。しかし、何もできません。私はただ、ここにいることしかできません。ああ、ああ、どうしよう、どうしよう。

 ぶおおぉーーっ!!

 突然鋭い風が吹きました。頭を持っていかれます。気づくと前方空には子供たち。ああ、こんなことになるなら陸になんか辿り着かず、一生海を漂っていればよかったな。海に向かって飛んでいく綿毛たちを眺めながら考え込んでしまうのでした。

 たんぽぽ、花言葉は「別離」。
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