第1話
文字数 1,807文字
「方向音痴で、高所恐怖症で、つまんない」
草津正直 は東京都内の私立大学二回生。秋晴れの空、千葉県にあるねずみの王国での初デートで、草津は撃沈した。
草津はイケメン。大学の偏差値は高い。女子にもてるはずだった。が、現実は甘くなかった。
「まじめすぎんねん」
深夜、友達の北村隼次 がビール持参で、草津の下宿先のアパートに上がり込んできた。北村は大阪出身で、柔道で鍛えたごつい体格をしている。大学入学式で横にいて、話をしたら気があった。
「どうしたらいい?」
「荒療治が必要やろなー」
目が覚めたら昼だった。飲み過ぎた。ビールの空き缶が散乱していた。
北村は引っ越しのバイトに行った。
草津はアパートの窓を開け、両手を上げてあくびをした。今日も秋晴れだった。
そのとき草津の左手が何かに触れた。見ると、もう一つの手があった。
草津はその手に体ごと引っ張り上げられた。
「来世密姫月 でございましゅ」
まん丸い目の女の子が微笑んでいた。
「早速でしゅけど、試練に挑戦でしゅ」
「君、何をしゃべってるの?」
「試練は『3D迷路からの大脱出』と、『宇宙からどーんとバンジー』でしゅ」
「おい、話を聞けよ」
「問答無用でしゅ。でないと、わたしはおとなのおんなになれないのでしゅ」
「ちゃんと説明して」
ここは異次元の世界。この世界では、大人の女になるため、ある課題をクリアしなければならなかった。課題は、現実世界の草食男子を強い男に変えることだった。もしクリアできなければ姫月は大人になれない。そして草津は現実世界に戻れない。姫月の目に涙が浮かんでいた。
「わかった。やるよ」
強い男に変えるため姫月は二つの試練を考えた。
「では、一つ目の試練は『3D迷路からの大脱出』でしゅ」
草津は、でかい球体の中心に閉じ込められた。東京お台場のテレビ局のあの丸い部分の大きさぐらいだった。
「聞こえましゅかー」
草津が装着したヘッドセットから、姫月の声が聞こえてきた。
「制限時間は三時間でしゅ。よーいどん」
草津は狭い迷路を走って、ころんで、はって、またころげまわった。
球体は支えられていない。草津が動くとバランスが崩れて球体も動くのだ。
「下ですよん」
姫月が指示を出してくる。
「あと一分でしゅ」
草津は最後の力を振り絞って、出口にたどり着いた。
「成功でしゅ。では次でしゅ」
「ちょっと休ませてくれ」
「だめでしゅ」
鬼か。
「二つめの試練は、『宇宙からどーんとバンジー』でしゅ」
草津は宇宙服を着て、宇宙船の上に立たされた。足元に地球に似た惑星が見えた。
宇宙船の全長は、東京ドーム百五十個を横に並べたぐらいと言っていた。
「飛び降りるでしゅ」
ヘルメットから姫月の声が聞こえた。
「ロープの長さ大丈夫か?」
「わたしが測ったから大丈夫でしゅ」
「……」
「いいでしゅかー、三、二、一、GOー」
地面がどんどん迫ってくる。
「ずれてるー、右でしゅー」
草津は宇宙服に装着されたジェットの操作レバーを右に傾けた。
「あ、逆、左でしゅー」
草津は地面に激突直前で宇宙船に引っ張り戻された。
「成功でしゅうー」
「試練クリアー」
「現実世界に戻れるんだな」
「まだでしゅ」
姫月は草津に最終試練を突きつけた。それは、姫月と『ちぎり』を結ぶことだった。姫月は下を向いて草津に目を合わさない。
「……それが、大人になるということなのか?」
姫月が顔上げて右足を一歩前に出した。そして姫月の右手の平手打ちが草津の頬をゆがめた。
「あなたは強い男になった?」
姫月の口調が変化した。
「なっていない。でも、現実世界に戻って強い男にかならずなってやる」
姫月の口元が緩んだ。
そして、両手でガッツポーズした。
「やったーでしゅー。課題クリア」
姫月が草津の回りをくるくる走った。
「……そいうことか」
「わたしは、まじめなおとこのひとがだいすきでしゅー」
気がつくと、アパートの窓で両手を上げてあくびをしていた。
玄関ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、来世密姫月が立っていた。
すらっとした体に、白いワンピースが映えている。大きな目が魅力的だ。
「大人証明書をゲットしました」
「どうしてここに」
「あなたを大人の男にするためです」
姫月は右足を一歩前に出した。
草津は身構えた。そして目を閉じた。
「……」
草津が目を開けると、姫月は甘い唇を草津の唇に重ねてきた。
<了>
草津はイケメン。大学の偏差値は高い。女子にもてるはずだった。が、現実は甘くなかった。
「まじめすぎんねん」
深夜、友達の
「どうしたらいい?」
「荒療治が必要やろなー」
目が覚めたら昼だった。飲み過ぎた。ビールの空き缶が散乱していた。
北村は引っ越しのバイトに行った。
草津はアパートの窓を開け、両手を上げてあくびをした。今日も秋晴れだった。
そのとき草津の左手が何かに触れた。見ると、もう一つの手があった。
草津はその手に体ごと引っ張り上げられた。
「
まん丸い目の女の子が微笑んでいた。
「早速でしゅけど、試練に挑戦でしゅ」
「君、何をしゃべってるの?」
「試練は『3D迷路からの大脱出』と、『宇宙からどーんとバンジー』でしゅ」
「おい、話を聞けよ」
「問答無用でしゅ。でないと、わたしはおとなのおんなになれないのでしゅ」
「ちゃんと説明して」
ここは異次元の世界。この世界では、大人の女になるため、ある課題をクリアしなければならなかった。課題は、現実世界の草食男子を強い男に変えることだった。もしクリアできなければ姫月は大人になれない。そして草津は現実世界に戻れない。姫月の目に涙が浮かんでいた。
「わかった。やるよ」
強い男に変えるため姫月は二つの試練を考えた。
「では、一つ目の試練は『3D迷路からの大脱出』でしゅ」
草津は、でかい球体の中心に閉じ込められた。東京お台場のテレビ局のあの丸い部分の大きさぐらいだった。
「聞こえましゅかー」
草津が装着したヘッドセットから、姫月の声が聞こえてきた。
「制限時間は三時間でしゅ。よーいどん」
草津は狭い迷路を走って、ころんで、はって、またころげまわった。
球体は支えられていない。草津が動くとバランスが崩れて球体も動くのだ。
「下ですよん」
姫月が指示を出してくる。
「あと一分でしゅ」
草津は最後の力を振り絞って、出口にたどり着いた。
「成功でしゅ。では次でしゅ」
「ちょっと休ませてくれ」
「だめでしゅ」
鬼か。
「二つめの試練は、『宇宙からどーんとバンジー』でしゅ」
草津は宇宙服を着て、宇宙船の上に立たされた。足元に地球に似た惑星が見えた。
宇宙船の全長は、東京ドーム百五十個を横に並べたぐらいと言っていた。
「飛び降りるでしゅ」
ヘルメットから姫月の声が聞こえた。
「ロープの長さ大丈夫か?」
「わたしが測ったから大丈夫でしゅ」
「……」
「いいでしゅかー、三、二、一、GOー」
地面がどんどん迫ってくる。
「ずれてるー、右でしゅー」
草津は宇宙服に装着されたジェットの操作レバーを右に傾けた。
「あ、逆、左でしゅー」
草津は地面に激突直前で宇宙船に引っ張り戻された。
「成功でしゅうー」
「試練クリアー」
「現実世界に戻れるんだな」
「まだでしゅ」
姫月は草津に最終試練を突きつけた。それは、姫月と『ちぎり』を結ぶことだった。姫月は下を向いて草津に目を合わさない。
「……それが、大人になるということなのか?」
姫月が顔上げて右足を一歩前に出した。そして姫月の右手の平手打ちが草津の頬をゆがめた。
「あなたは強い男になった?」
姫月の口調が変化した。
「なっていない。でも、現実世界に戻って強い男にかならずなってやる」
姫月の口元が緩んだ。
そして、両手でガッツポーズした。
「やったーでしゅー。課題クリア」
姫月が草津の回りをくるくる走った。
「……そいうことか」
「わたしは、まじめなおとこのひとがだいすきでしゅー」
気がつくと、アパートの窓で両手を上げてあくびをしていた。
玄関ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、来世密姫月が立っていた。
すらっとした体に、白いワンピースが映えている。大きな目が魅力的だ。
「大人証明書をゲットしました」
「どうしてここに」
「あなたを大人の男にするためです」
姫月は右足を一歩前に出した。
草津は身構えた。そして目を閉じた。
「……」
草津が目を開けると、姫月は甘い唇を草津の唇に重ねてきた。
<了>