花瓶を割ったのは?
文字数 3,475文字
時刻は放課後。文芸部の活動内容なんてのは、文化祭に出展する本の内容を考えて、ひたすらそれを綴る。これだけなら特段一つの部屋で集まることもないのだが、部活という形式を保つために、今日も部室に足を運ぶ。
加えて文句を増やすなら、文化祭での出展という花形でさえ地味であることだ。
ならなんで文芸部に入部したのかって?
「ライトノベルの読みすぎ」
とだけ答えておこう。
掃除当番は何故存在するのか。掃除部を誰かが発足してれば楽なのだが、こればっかりは仕方がない。つーかそんな部活誰が入るんだよ。
「すみません、掃除で遅くなりました」
「やっほーアサヒ、待ちわびたよ」
「ほんとに待ちわびてますね。」
六つの机がくっついている簡易大テーブルに視線を落として呆れを表す。お菓子の小袋の残骸がいっぱいだ。
だが何故かテーブルが広く感じる。あれ、何でだろう?
「夜さん、太りますよ?」
「大丈夫、私は食べてもあんまり太らない体質なんだよ。」
「油断大敵ですよ。
それで、文化祭に出す内容は決まったんですか?」
「もちろんだよ。君に意見を求めるためだけにここに来ていると言っても過言じゃないね。」
「もっと崇高な志で部活に臨んでくださいよ。それを見て後輩が曲がった成長しそうで不安だ。」
「それも問題ない。君と私以外にいないからね。少数精鋭だ!ハハハ!」
そう言って夜さんは椅子に身を委ねる。いくら二人だけだからって、椅子であぐらはよろしくない。
「で、文化祭何出すんですか?」
「『なぞなぞ』だよ。」
企画書を自慢げに掲げ、ニカっと何やら得意気な表情を浮かべている。
なぞなぞ...
良くも今までやってこれたものだ。
「夜さん、なぞなぞ大の苦手でしたよね?去年通り純文学でいいんじゃないですか?」
深田夜は、去年趣味で出した小説のコンテストで最優秀な結果を残したことで、我が校ではそこそこ名を轟かせている。そのお陰か、卒業していった先輩に文芸部にスカウトされたらしい。
しかし、なぞなぞは駄目だ。彼女が描くなぞなぞは、長い。それになぞなぞをわかっていない。
文芸部であること、文書の能力に長けていることを活かして、一度なぞなぞを書いたと息巻いていたのを覚えている。
アレは小説だ。
読み始めた瞬間、掴みはOKと言わんばかりの出だし。そこから読むスピードが止まらず、一気に長めの小説の読後感がくる。満たされた気持ちで次のページをめくると
「さて、根本くんの職業はなーんだ?」
なげーよ!である。これなら小説を書いてる方がまだましなのだが。
「やっぱり、なぞなぞ書きたいんですね。」
「そりゃそうだよ。負けっぱなしみたいでしょ?」
これである。
「まぁ見てよ。今度はちゃんと短く書いたからさ。添削苦労したんだよ?」
「はぁ、」
渡された書類は数枚の原稿用紙。これでも長すぎるくらいなのだが。前回よりましだろう。
原稿に目を通す。
要約するとこんな感じだ。
根本君は学校の人気者(また根本くんかよ)。そんな根本君を中心とするクラスで、事件が発生する。
朝、教室の床すべてが濡れていたのだ。まるでこの教室だけ吹き抜けて、集中的豪雨に見回れたみたいに。それと、花瓶が割れていたのだ。元々すべての教室の窓際後ろの机に位置している花瓶は、机の下にその場で倒れ込むように割れている(これはここの教室の花瓶を見て着想を得たのかな?)。
「とりあえずモップと箒で掃除しよう。花瓶の破片は手を切らないように気を付けて。」
一人はいつも本を読むために図書室に来ている兵藤君。
本を昨日置いていってしまったので、教室に寄ろうとしていたらしい。
もう一人はいつも早く教室に来て、花瓶の水を変えるのが習慣になっている金子さん。
最後は吹奏楽部の御門君。朝練に来ていた。
根本君指揮のもと、根本君と朝早く学校に来ていた3人で掃除をした。金子が、隣の教室の友達から掃除用具を借りた。根本君のクラスの掃除用具は教室の奥にあったからだ。
根本君と3人でやっと掃除を終えた後、根本君は1人の人間を目の前にして、優しい口調で告げた。
「君が事の犯人だね?」
さて、誰が犯人なのだろう?
要約しても長いものは長い。これで添削したのか?
初めの根本君の「爽やかな朝だ。」から始まる下り絶対なぞなぞにいらないだろ。何で引き込まれるんだよ腹立つな。
だが、以前より謎らしいものになっている。だけど甘い。
「根本君じゃないですか?
親切心か、花瓶の水を変えようとしたら落としたとか。」
「謎解くの早っ!!
もうちょっと悩んだっていいでしょ、結構研究したんだよこの内容ぅ。」
ブーブーと顔が膨れている。そんなこと言っても、研究のせいで尚分かりやすい。
初めから読み返し、謎を一応確認する。答え合わせだ。
「この問題は、行動と動機が一致している人を考えれば簡単でしょう?人気者の根本君が花瓶を割ってみてくださいよ。人気者が廃ります。」
ふふふ、夜さんは不適に小さく笑みを浮かべる。
「そうか、アサヒはそういうベクトルで攻めたわけだ。」
「え、どういう事ですか?違うんですか?」
困惑する。僕は間違っていた?普通にいけそう考えだと思ったんだが。
「これはね、結構凝ったよ。
名付けて、『犯人はあなたが決めよ!』です!」
数分で題名変えやがった!
じゃなくて、これが凝っている?そんなバカな。
「私さっき、結構研究したって言ったよね?」
「はい、言いましたね」
「どこまでだと思う?」
どこまで?僕は顎に手を当てた。なぞなぞを研究するとすれば、スタンダードに小学生向けの本だろう。それでも頭が固い大人では解けない。そこから大人向けのなぞなぞがあったりと、多岐に渡るものの、「なぞなぞ」というジャンルにそれ以下の細分化は不要に思う。
「どこまで、ですか?」数秒悩み、聞いてみた。
「色々かな、てかどこまでって答えられないでしょ」
そりゃそうだ。なら、それが何になる?
「研究してて思ったんだよ。なぞなぞって、答えが基本「一つ」でしょ?それがつまんなくって。」
人差し指を立てて、こちらにウインクする。確かに、これ以上は言うまでもない。
「つまり、二つ以上の...」
いや違う、違わないが違う。題名を変えたんだ。
『犯人はあなたが決めよ!』
まさか
「この原稿に出てくる人全員が犯人になりうる、と?」
「その通り!」
夜さんはビシッ!と親指を立てて白いはを見せた。
パラパラっとめくり、最初から本を解説する。
「性格に言うとね
『全員が犯人になりうる要因を見つけること』
が、最大の醍醐味なんだ。
まず、根本君の動機はアサヒが言った通り。
次は御門君。彼は結構キーになる人物でね、吹奏楽部の練習で音を出すじゃん?あの振動がキツイんだ。あれによって花瓶が勝手に落ちた。
そして次に兵藤。本を読んでいる時に急に倒れた。こらは御門君の演奏でね。それを見た金子は青ざめた。これを誰かが見たらどう思うだろう?自分が割ったと思うんじゃないか?
そこで水を撒いた。これで、金子がカモフラージュに水を巻いたと見せかけることが出来る。本の読みすぎってことでね。
金子はね、隣クラスの花瓶を割ってしまったんだ。と思っていた。だから自分の教室のと入れ換えた。何故水浸しにしたのか。それは自分であると言うことを強調したかったんだ。それによって、隣のクラスの花瓶を割ったと知られたら、友達に嫌われると思ったからね。」
無理矢理だ。話が無理に飛びすぎている。
しかし、これが彼女のスタイル。いや、文体と言うべきだろう。
この自由すぎる文体によって、引き込まれていたんだ。
「やっぱり純文学しましょ。これは解けない。」
「え、何で?」
これには、解くことの楽しみがない。なぞなぞになり得ていない。
それに、これは僕にしか読めない。
「夜さん、今日は遅いです。良ければ一緒に帰りませんか?」
「え、それはいいけど、どっか寄り道しようよ!」
「そうですね、花屋さんで生ける花を選ぶなんて如何です?」
僕はギロっと睨み付けて優しく提案する。
「えっ、そ、そうだねぇ、どんな花を飾ろうか...」
通りで机が広いと思った。
『著者:深田 夜』
あんたが真犯人だよ。
加えて文句を増やすなら、文化祭での出展という花形でさえ地味であることだ。
ならなんで文芸部に入部したのかって?
「ライトノベルの読みすぎ」
とだけ答えておこう。
掃除当番は何故存在するのか。掃除部を誰かが発足してれば楽なのだが、こればっかりは仕方がない。つーかそんな部活誰が入るんだよ。
「すみません、掃除で遅くなりました」
「やっほーアサヒ、待ちわびたよ」
「ほんとに待ちわびてますね。」
六つの机がくっついている簡易大テーブルに視線を落として呆れを表す。お菓子の小袋の残骸がいっぱいだ。
だが何故かテーブルが広く感じる。あれ、何でだろう?
「夜さん、太りますよ?」
「大丈夫、私は食べてもあんまり太らない体質なんだよ。」
「油断大敵ですよ。
それで、文化祭に出す内容は決まったんですか?」
「もちろんだよ。君に意見を求めるためだけにここに来ていると言っても過言じゃないね。」
「もっと崇高な志で部活に臨んでくださいよ。それを見て後輩が曲がった成長しそうで不安だ。」
「それも問題ない。君と私以外にいないからね。少数精鋭だ!ハハハ!」
そう言って夜さんは椅子に身を委ねる。いくら二人だけだからって、椅子であぐらはよろしくない。
「で、文化祭何出すんですか?」
「『なぞなぞ』だよ。」
企画書を自慢げに掲げ、ニカっと何やら得意気な表情を浮かべている。
なぞなぞ...
良くも今までやってこれたものだ。
「夜さん、なぞなぞ大の苦手でしたよね?去年通り純文学でいいんじゃないですか?」
深田夜は、去年趣味で出した小説のコンテストで最優秀な結果を残したことで、我が校ではそこそこ名を轟かせている。そのお陰か、卒業していった先輩に文芸部にスカウトされたらしい。
しかし、なぞなぞは駄目だ。彼女が描くなぞなぞは、長い。それになぞなぞをわかっていない。
文芸部であること、文書の能力に長けていることを活かして、一度なぞなぞを書いたと息巻いていたのを覚えている。
アレは小説だ。
読み始めた瞬間、掴みはOKと言わんばかりの出だし。そこから読むスピードが止まらず、一気に長めの小説の読後感がくる。満たされた気持ちで次のページをめくると
「さて、根本くんの職業はなーんだ?」
なげーよ!である。これなら小説を書いてる方がまだましなのだが。
「やっぱり、なぞなぞ書きたいんですね。」
「そりゃそうだよ。負けっぱなしみたいでしょ?」
これである。
「まぁ見てよ。今度はちゃんと短く書いたからさ。添削苦労したんだよ?」
「はぁ、」
渡された書類は数枚の原稿用紙。これでも長すぎるくらいなのだが。前回よりましだろう。
原稿に目を通す。
要約するとこんな感じだ。
根本君は学校の人気者(また根本くんかよ)。そんな根本君を中心とするクラスで、事件が発生する。
朝、教室の床すべてが濡れていたのだ。まるでこの教室だけ吹き抜けて、集中的豪雨に見回れたみたいに。それと、花瓶が割れていたのだ。元々すべての教室の窓際後ろの机に位置している花瓶は、机の下にその場で倒れ込むように割れている(これはここの教室の花瓶を見て着想を得たのかな?)。
「とりあえずモップと箒で掃除しよう。花瓶の破片は手を切らないように気を付けて。」
一人はいつも本を読むために図書室に来ている兵藤君。
本を昨日置いていってしまったので、教室に寄ろうとしていたらしい。
もう一人はいつも早く教室に来て、花瓶の水を変えるのが習慣になっている金子さん。
最後は吹奏楽部の御門君。朝練に来ていた。
根本君指揮のもと、根本君と朝早く学校に来ていた3人で掃除をした。金子が、隣の教室の友達から掃除用具を借りた。根本君のクラスの掃除用具は教室の奥にあったからだ。
根本君と3人でやっと掃除を終えた後、根本君は1人の人間を目の前にして、優しい口調で告げた。
「君が事の犯人だね?」
さて、誰が犯人なのだろう?
要約しても長いものは長い。これで添削したのか?
初めの根本君の「爽やかな朝だ。」から始まる下り絶対なぞなぞにいらないだろ。何で引き込まれるんだよ腹立つな。
だが、以前より謎らしいものになっている。だけど甘い。
「根本君じゃないですか?
親切心か、花瓶の水を変えようとしたら落としたとか。」
「謎解くの早っ!!
もうちょっと悩んだっていいでしょ、結構研究したんだよこの内容ぅ。」
ブーブーと顔が膨れている。そんなこと言っても、研究のせいで尚分かりやすい。
初めから読み返し、謎を一応確認する。答え合わせだ。
「この問題は、行動と動機が一致している人を考えれば簡単でしょう?人気者の根本君が花瓶を割ってみてくださいよ。人気者が廃ります。」
ふふふ、夜さんは不適に小さく笑みを浮かべる。
「そうか、アサヒはそういうベクトルで攻めたわけだ。」
「え、どういう事ですか?違うんですか?」
困惑する。僕は間違っていた?普通にいけそう考えだと思ったんだが。
「これはね、結構凝ったよ。
名付けて、『犯人はあなたが決めよ!』です!」
数分で題名変えやがった!
じゃなくて、これが凝っている?そんなバカな。
「私さっき、結構研究したって言ったよね?」
「はい、言いましたね」
「どこまでだと思う?」
どこまで?僕は顎に手を当てた。なぞなぞを研究するとすれば、スタンダードに小学生向けの本だろう。それでも頭が固い大人では解けない。そこから大人向けのなぞなぞがあったりと、多岐に渡るものの、「なぞなぞ」というジャンルにそれ以下の細分化は不要に思う。
「どこまで、ですか?」数秒悩み、聞いてみた。
「色々かな、てかどこまでって答えられないでしょ」
そりゃそうだ。なら、それが何になる?
「研究してて思ったんだよ。なぞなぞって、答えが基本「一つ」でしょ?それがつまんなくって。」
人差し指を立てて、こちらにウインクする。確かに、これ以上は言うまでもない。
「つまり、二つ以上の...」
いや違う、違わないが違う。題名を変えたんだ。
『犯人はあなたが決めよ!』
まさか
「この原稿に出てくる人全員が犯人になりうる、と?」
「その通り!」
夜さんはビシッ!と親指を立てて白いはを見せた。
パラパラっとめくり、最初から本を解説する。
「性格に言うとね
『全員が犯人になりうる要因を見つけること』
が、最大の醍醐味なんだ。
まず、根本君の動機はアサヒが言った通り。
次は御門君。彼は結構キーになる人物でね、吹奏楽部の練習で音を出すじゃん?あの振動がキツイんだ。あれによって花瓶が勝手に落ちた。
そして次に兵藤。本を読んでいる時に急に倒れた。こらは御門君の演奏でね。それを見た金子は青ざめた。これを誰かが見たらどう思うだろう?自分が割ったと思うんじゃないか?
そこで水を撒いた。これで、金子がカモフラージュに水を巻いたと見せかけることが出来る。本の読みすぎってことでね。
金子はね、隣クラスの花瓶を割ってしまったんだ。と思っていた。だから自分の教室のと入れ換えた。何故水浸しにしたのか。それは自分であると言うことを強調したかったんだ。それによって、隣のクラスの花瓶を割ったと知られたら、友達に嫌われると思ったからね。」
無理矢理だ。話が無理に飛びすぎている。
しかし、これが彼女のスタイル。いや、文体と言うべきだろう。
この自由すぎる文体によって、引き込まれていたんだ。
「やっぱり純文学しましょ。これは解けない。」
「え、何で?」
これには、解くことの楽しみがない。なぞなぞになり得ていない。
それに、これは僕にしか読めない。
「夜さん、今日は遅いです。良ければ一緒に帰りませんか?」
「え、それはいいけど、どっか寄り道しようよ!」
「そうですね、花屋さんで生ける花を選ぶなんて如何です?」
僕はギロっと睨み付けて優しく提案する。
「えっ、そ、そうだねぇ、どんな花を飾ろうか...」
通りで机が広いと思った。
『著者:深田 夜』
あんたが真犯人だよ。