第1話

文字数 1,736文字

 ーーー 
 きっと誰に言っても信じてもらえないでしょう。それに誰かに言っても信じてもらえないような秘密を、果たして秘密と言っていいのでしょうか。
 少し無駄な疑問を抱いてしまいましたが、私には、私しか知らない私だけの秘密があるということを伝えたかっただけです。
 
 早速ですが、その秘密というものが何かということですよね。その秘密というのは、私が子供の頃妖精を飼っていた、ということです。まぁ飼っていたという書き方は少し変ですが、見えていたというだけでは、妖精との関係性が表せられない気がするので。それに、妖精が言った、
「ねぇ、私の飼い主はあなたなんだから、私がしたことの後始末はあなたがしなきゃ」
 という言葉を借りるのであれば、飼っていたという表現の方が良いかと思いまして。
 どちらにせよ、これだけで既に信じられないでしょう?
 信じられなくて当然ですよ。私自身、初めて妖精が現実にいることを認識するのに時間がかかりましたから。
 
 私は昔から内気な性格でした。そのため、学校では仲の良い友達は一人も居らず、教室ではいつも一人でした。
 学校に楽しみを見いだせなかった私は、学校が終わると真っ直ぐ家に帰り、ランドセルのソファに投げるようにして置き、テレビを付けていました。
 当時、アイドルのアニメが流行っており、クラスでも休み時間や放課後を使ってまで話題に上がっていました。しかし、私は一つもその話題についていけませんでした。というのも、私は別のアニメに熱中していたからです。
 アイドルのアニメと同時刻に放送されていた、主人公と妖精のファンタジーアニメです。
 
 内気な性格の主人公が妖精と冒険に出るという内容のもので、主人公に共感を覚えた私は、妖精がいることに憧れました。
 そして、休み時間、クラスでアイドルの話が出る中、私は妖精の絵をずっと描くようになりました。しかし、ある日、描くだけでは飽き足らず、一番上手く描けていた妖精に「青」と名前を付けました。名前の由来はシンプルで、青色が好きだったからです。

 これが原因でしょう。今、書いている秘密に繋がる出来事がこの日を境に起こり始めました。
 
 この日は青を大切に家まで持ち帰り、一緒にアニメを見ました。そこまでは何もなかったんですけど、寝ようとした時に見たんです。ただの紙のはずなのに青の羽が光っているのを。私は何度も目を擦りました。
 そして、先ほどの妖精が言ったセリフにもあるように数々の悪戯を私の周りの人にし始めたんです。最初は疑っていなかった大人たちが私を疑うようになりました。それだけでなく、有無を言わさぬ形で大人からお説教をされるときもありました。
 同年代の中でも孤立していた私は増々、学校での居場所がなくり、ある日何もない教室に逃げ込みました。何もかもが嫌になり、叫びだしそうになった時、
 「どうしたの?泣きそうな顔して」
 そんな言葉と共に少年が私の顔を覗き込みました。ビックリしていると、悪戯気な笑顔で青色の蝶を見せてきました。
 「さっき窓から見えたんだ。綺麗でしょ。これあげるから笑ってよ」
 そう言って少年は私に青い蝶と初恋をくれました。
 大人になった今、私は初恋の相手と結婚しました。青い妖精が蝶となって私たちを結んでくれたんです。
 こんな話、誰に言っても信じてもらえないでしょ?
 
 日記を書くのは久々だったので少し文章が変かもしれないけど、結局は私しか見ないんだもの。秘密は秘密。
                                       ーーー
 
 誰にも言えない秘密でも誰かに言いたくなる秘密は紙に書くと良いよ。そんなおばあちゃんの言葉を思い出し、昔使っていた日記帳を引っ張り出してきた。残り数ページしかなかったが、長く書いても仕方ないし丁度いいかもしれないと机に向かった。そして書き終わった頃、息子が学校から帰って来た。ランドセルを放り投げると、勉強机の中から虫眼鏡を取り出し、いつもの探偵ごっこが始まった。今、テレビで放送されている探偵アニメにハマっているそうだ。虫眼鏡で落書きされたノートを覗き込んでいる。
 そんな様子を見て、私は呟いた。

 「小さな探偵さん。私の妖精を探して」

 
 
 
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