アルバムを買いに

文字数 999文字

 COVID19の足音がひたひたと近づいていたのを知りながらも無視していた頃。

「何があっても絶対に買いに来ます!」
 予約票を渡し、可愛らしい店員さんにそう言っていた。

 彼女の素敵な笑顔は今でも忘れていない。再びその笑顔に出会えることを心待ちにしていた。その店員さんがいない可能性だってあることは知っていた。

 でも、2020年4月7日からの非常事態宣言で1カ月間、デパートが閉まってしまうなど誰が想像できただろうか。そこのCDショップで大好きなアーティストのアルバムを予約をしていた。

 それでも一縷の望みをかけてデパートへ向かった。
「閉まっている」と電話はもらっていたが、それは人を集まらせないための嘘で、本当は売っているのではないかと。

 もちろん閉まっていた。

 いつも人であふれていた駅前のほとんどの店が閉まっていた。開いているのは薬局など。立ち寄ってもマスクや消毒薬はなかった。

 信じられない光景だった。
 人込みを避けるために日が暮れてから駅前に行ったのだが暗かった。そして人がいない。街灯は点いていたが計画停電を思い出した。あれも心が萎えた。人が明かりがないことが、ここまで不安になるのかと。

 日常が崩れていく。
 暗い街に絶望を感じた。

『STAY HOME』が脳裏をかすめる。

 大好きなアーティストのアルバムを買うことは不要ではない。人として生きるために必要だ。とても大切なことなのだ。 

 文化を守れ。
 義務ではない。好きだから守りたいのだ。

 だからマスクをしてなけなしの消毒薬を持ち、人がいない時間帯を選んで駅前に来た。でも、売っていなかった。

 方法は他にもあった。
 しかし、音楽配信アプリだと初回限定(おまけ)は付かない。通販は混み合っていたのでいつ届くかわからないらしく、避けてしまった。

 一刻も早く入手したい。大好きなアーティストの音楽を聴けば不安は希望に変わる。だからスマホを取り出し、やむを得ず通販を探して申し込む。

 情報漏洩も怖かったのでカードは使わずコンビニ払い。COVID19のために何も信じられなくなっていた。すぐにコンビニへ行き現金で支払った。

 こんなに頑張ってもCDは私の手の中にない。
 すぐに聴きたかった。

 そして気づく。
 家電量販店、開いてないか?

 慌てて向かうと閉まった直後だった。
 明日も開いていることを確認し、とぼとぼと帰宅した。



 こんなことになるなんて思わなかった……


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登場人物紹介

佳純(かすみ)

趣味は旅行と小説を書くこと。

御朱印も集めることがある。

※アイコンは白玉えん様から許可をいただいて使用しています。

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