第1話

文字数 403文字

 いつのころからかわたしは、まともな名称はつかわなくなった。
 鈴木さんのことをズズズさんと呼ぶ。高級な和食屋さんでモズクをたのむときも「ズズズください」という。それで通じちゃうのだ。中野から三鷹まで乗るタクシーで運転手さんに「ズズズの駅まで」と告げたらちゃんと三鷹駅までつれていってくれた。
 これはなにも三文字のときばかりではない。どういう治療をのぞむか歯医者さんにきかれたとき、わたしはインプラント治療を受けたかったので「ズズズにしてください」と告げた。そうしてわたしの美麗なインプラントの歯並びができあがった。
 酔った男から「なにカップ?」ときかれたりすれば「ズズズ」とこたえる。「おーっっ!!」男たちから歓声があがる。
 しりとりで「あめんぼ」といった人のあとに「ズズズ」という。つながってしまう。
 これはどうしたことだろう? なんてわたしは思わない。世界はズズズ病にかかってしまった。それだけのこと。
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