『猫にお供えをする』

文字数 867文字

家の座敷の奥に据えた、小さな仏壇。仏さまを(まつ)るための仏壇ではなくて、一緒に暮らして亡くなっていったネコたちを(しの)ぶための、わたしの気持ちのための、モダン調のミニ仏壇。

無記名のままの小さな位牌(いはい)を、供養碑(くようひ)のように置いて。小さなお(りん)と、小さな造花を並べて。

座敷の掃除が終わった後に、仏壇の扉を開けて、お鈴を鳴らして、亡くなったネコたちに挨拶。一日が終わって眠る頃に、お鈴を鳴らして、今日もおやすみ。そして、仏壇の扉を閉めます。そういう毎日。

時々、閉めたはずの仏壇の扉が、開いていることがあります。うっかりして、閉め忘れただけだと思うけれど、そんなときには、ネコたちの好物と一緒に、猫ゴハンを1品、ほんの少しだけ手作りして供えます。

動物家族には、どんな食べ物をお供えしても良くて、(なら)わしも、しがらみも、ありません。家族の気持ちがすべて。

冷蔵庫を開けて目に留まったのは、鮭とジャガイモ。鮭の切り身の小骨を除いて、かるく茹でて、細かく刻んで。ジャガイモの皮を剥いて、やわらかく茹でて、崩して冷まして。鮭とジャガイモを和えるだけ。それだけ。

わたしの手作りのゴハンよりも、市販品のキャットフードの方が、香り高くて美味しいのだけれど。鮭とジャガイモに、猫用かつお節ふりかけも和えて、ごまかしておきました。仏壇の周りに、お供え物を盛った小皿を並べます。

鮭とジャガイモで、わたしのゴハンのおかずも1品、(あつら)えました。わたしのものも単純な和え物にして。炊けた白米とおかずを丸おぼんに載せて、座敷へ運んで。陽の射した畳に座って、わたしもあの子たちと一緒にゴハンにします。

わたしは、わたしなりに、あの子たちのことを大切にしてきたと思っています。できるだけ、あの子たちらしく、毎日を思うまま、過ごせるように。あの子たちが眠りのなかで、わたしとの日々を思い出して、

「野良生活とか、患いとか、タイヘンな猫人生だったけれど、とにかく、生きたニャ。ニンゲンっていうのも、捨てたモンじゃなかったニャ。にゃにゃ」

そんなふうに思ってくれたら。思ってくれたらと、わたしは願っているよ。
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