第1話

文字数 2,173文字

 今日は近くのショッピングモールに期日前投票に行ってきた。
 最初、どこにあるのか分からず店員に聞いたところ、一〇時からしか開きませんよと言われ、待つことしばし。私は一番乗りではなかった。すでに若い女性が先にいて、ジャンバー背中の文字を見ると、テナントの従業員のようだ。ほう、選挙に興味のない若い女性が多い中、しっかりした人はおるのだな。
 先日、テレビを見ていると幼子を抱いた主婦らしき女が「選挙に行く暇ありません」などと恥しげもなく言っていた。間違いなく知性も教養もない馬鹿女であろう。大体、若い主婦は子育て状況に文句は言うくせに選挙に行かない。女性議員が増えない理由も、そもそも政治や紛争に興味を持つ土壌がないのである。彼女らの頭の中は男と子供と女同士の嫉妬合戦で手一杯なのだ。政治家の演説を聞いても訳が分からず思考停止してしまう。親も悪いのだ。「馬鹿でも愛想良く可愛いふりしてたら結婚くらい出来るから」っていう無教養の親が育てた娘であろう。恐らくこの文のタイトル、もしくは一行目を見たところでシャットアウトするであろう馬鹿女達。
 そんな中、財宝を見つけた気分にさせる人であった。
 
  開場と共に入ると、見るからに民間企業の人ではないと分かる老若男女の係員たち。先日自宅に来ていたハガキを見せると、住民情報の打たれた紙を渡される。免許証でも見せた方がいいですか? と聞くと「必要ありません」と言われた。そして、一番受付に行って下さいって事で、一番という紙の貼られた机に向かうと、係員から地元立候補者の投票を行う紙を渡される。それを持って記入机に向かうのだが、三人しか立候補者がいない地方である。早い話、与党に入れるか、野党に入れるか、宗教団体からの立候補者に入れるかである。そもそも似たような事しか言わない、嫌、言えない上に、中央に行ったところで税金を食い潰すだけであろう有象無象。どうせこの期間しか真剣にはならない輩である。よっぽど『バ〜カ』と書いてやろうと思ったのだが、一人、顔が鳥肌実に似た候補者がいたので希望を込めて書くことにした。まあ、顔だけではなく、現状の日本が良くないという判断からであるが。
 そして投票を済ませると、次は比例代表の投票用紙を渡される。本日の目的はこれである。永く生きているとちょっとした事で周りの熱量を感じる事が出来るのだが、公的機関で働いているであろう係員達の空気は地方議員の投票に比べ、比例代表区になると「どうでもいいや」って感じ。なんといおうが我県は、戦後、保守系自民党がいかなる場合でも落ちる事がなかった日本でも珍しい保守王国である。
 投票完了まで三分かからない。ボケ〜ッとスマホをいじる暇があったら行った方が賢い。
 
 政府は好景気だというが、私の周りは貧乏人だらけである。
 高度成長期ってどうだったか? まあ、六〇間近の年寄り以上しか覚えてはいないだろうが。
 私もまだ幼かったので、朧気ながらではあるのだが、物価はドンドン上がっていた。母親が「物価が上がって困る」とはよく言っていた。ところが所得もそれ以上に上がっていたのだ。バブルの頃は中央に集中して恩恵があったのだが、あの頃は道が良くなったりビルが建ったりと地方も目に見えて変わっていった。よく日本にいる中国人が「三年間帰らなかったら、別な街になっていた」というが、あの感覚に近い。
 一九七〇年頃だったろうか? 道を歩くと一円玉から一〇円玉が道にやたら落ちていた。それは落としたというより、明らかに棄てていたって感じだった。理由は支払いをするのに邪魔だったからだろう。消費税のなかった時代、価格は切りの良い額であった。しかし、不景気で貧乏に喘いでいたら棄てたりはしないだろう。「一円を笑うものは一円に泣く」とはよく言ったものだが、常に現実は表裏一体のようだ。ちなみにアメリカ人と旅行した時は、釣りの小銭が膨大な量になるので、チェックアウトの際、チップとして小銭を山盛り置いて出て行った。小銭が邪魔に感じるのは万国共通のようだ。(最近の私は小銭を大事にしている)
 どんどん便利な物に消費を繰り返していた時代。どんな小さな会社でも我慢して勤めれば、一生安泰と言われた時代。
 私が就職した八〇年代。公務員は「老後の為に働く人々」と言われていた。そりゃあ民間の方が給料もいいよ、でも公務員は働かなくとも給料は上がっていくしな、老後も年金で安泰だしな、って言われていた。いつそれが逆転し、羨望される職業になったか覚えていないが、そういう位置付けではあった。早い話、公務員の生活水準は変わらないのかもしれないが、周りの民間が地盤沈下していっただけかもしれない。
 好景気っていうぐらいだから、大企業には金があるのだろう。頑張れば金持ちになって優雅な生活が送れるといった資本主義の幻想は、遥か昔。国を信用し期待をしていた私らの親の世代とは随分変わったが、取り敢えず選挙に行かずに情勢を変えようとするなら、暴動を起こすか、一揆でも起こすしかあるまい。それは今の日本においては遥かに困難な選択である。
 
 思想を変えない年寄りも多いのだが、彼らはいづれ死ぬ。今は変わらぬ政治も、選挙は変わる為の準備段階でもある。選挙位、みんな行こうね。
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