第1話

文字数 2,024文字

僕は何もない個室に居た。
ここで指示通りの事をやればお金が貰えると、怪しい口コミを聞いてやって来た。
まあ、簡単な仕事だと思えば良いだろう。
ボーッと突っ立っていると天井が開きある物が落ちてきた。
それはドミノだった。
ドミノ倒しでも作れと言うことなのかと首をかしげていると、ヒラヒラと紙が落ちてきた。
紙にはこう書いてあった。
『ドミノを積み上げギネス記録を超えろ』と。
僕は言われた通りドミノを集めて一つ二つと積んでいった出だしは順調だった。けれど程なくしてドミノは呆気なく崩れていく。
何度やっても同じ位の処で崩れていく。
大きくため息を吐いて、どうしようかと旬順する。
このまま続けるか、あるいは止めて帰るか……。
その考えに首を振って自分に続けるんだと言い聞かせる。
何度もやる内にコツが掴めてきたのか、少しずつドミノタワーは高くなっていく。
これに何の意味があるのだろうと考え始めるとタワーは崩れやすくなる。けれども考えずにはいられない。
一体誰が何の為に成功報酬まで用意して何がしたいのだろうと考え始めると止まらなくなる。
その度にタワーは崩れ、一からやり直しになる。
僕はどうしてこんな事を始めようと思ったのかとまで思うようになってしまい、集中力は完全に途切れた。
少し休憩をと座り込んで崩れたドミノ達を見る。
途端に疲労が出始め立ち上がりたくなくなってしまった。
どうせ成功しないのだろうと、その場に寝転び天井を見る。
するとヒラヒラともう一枚紙が落ちてきた。
そこには『金額半分になるがギネス記録の半分でOK』と書かれていた。
半分なら積み上げられるぞと思い立ち上がると、ドミノを集めてまた積み始めた。何度か崩れはしたが、なんとかギネス記録の半分を積み上げることに成功した僕は手放しで喜んだ。
そうしているとまた天井から紙が落ちてきた。
そこには『ドミノ積み、半分だけれど成功おめでとう。賞金を与えよう』と書かれていて、ドサッと音がしたかと思うと、麻袋に書かれていた金額の金が入っていた。
僕はそれを持って部屋を出ようとした時だ、また天井から紙が落ちてきた。
そこには『今の金を倍にする方法がある、参加するか?代わりに今持っている金はゼロになるが』と書かれていていた。
僕は考え迷った挙げ句、参加しない事にした。
その代わり部屋の中を見て回りこの部屋に仕掛けられたカメラを探すのだった。
こんな意味の無い仕事をさせて楽しんでいるのは誰なのか知りたくなったからだ。
けれどもカメラ処か壁と壁の継ぎ目も見えない位に不思議な作りをしているこの部屋。
僕はこれ以上調べようが無いと思い、部屋を出ようとした。けれど扉は開かない。
どういう事だと僕は慌てたが、もしかしてと思い、先程の紙を拾い上げてもう一度よく読んだ。
そこには小さな字で『十分以上部屋にいた場合は強制参加とする』と書かれていた。
こんな意味不明な仕事早く終わらせて出たい処だが、そういう訳にはいかないらしい。
するとまたヒラヒラと紙か落ちてきた。
拾い上げて読んでみるとそこには『十分以内にトランプタワーを作れ』と書かれていた。
するとトランプが一組箱に入った状態で落ちてきた。
急いでトランプを拾い箱を開けてタワーを作ろうとするが、完成する筈もなく何度も崩れ、時間切れになった。
ガックリと項垂れるしかない僕。
やっぱり美味しい話には何かあるんだと思い部屋を出ようとした。
けれど開かない。
また何かあるのかと思っているとまた天井から紙が落ちてきた。
そこには『紙飛行機を作り部屋の端まで飛ばせ、成功すれば先程の三分の一渡す』と書かれていた。
先程まで持っていた筈の麻袋が無くなっておりどういうことかと考えたが、仕方ないとばかりに紙飛行機を作って飛ばす。何度も失敗を重ねながら遂に完成した最終形態の紙飛行機で壁の端まで飛ばす事が出来た。
すると先程より小さな麻袋が落ちてきてそれを手に取ると、僕は急いで扉を開いて外へ出たのだった。


「今回のは割りと楽しめたな」
そこは豪奢なパーティールームの一室で、至る所にあるモニターには先程の部屋の様子が写されていた。
「ええ、庶民が無様に踊る姿はいつ見ても楽しめますわ」
そんな事をきらびやかなドレスを着た淑女が言う。
他にもこの雰囲気に相応しい服装の男女数名が「次はまだか」と待っている様だった。
「ご心配為さらずとも貧乏人は金に釣られてやって来ますよ、ほら」
見れば先程とは違う人間が出されたお題に頭を捻っている様だった。
「やはりこの仕事は止められませんな、人間の剥き出しの欲求を眺める……これ以上の楽しみはないのだから」
モニターに写された人間の一挙手一投足を見てクスクスと笑う。
「本当に、天職かもしれませんね、私にとって」
そう笑みを浮かべると、モニターの人間とそれを見る者達を交互に見て、深く笑みを刻むのだった。
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