第4話 閉ざされし千年扉

文字数 8,523文字

 夜炎は気絶している蒼雷を担ぎ、とある家の門の前に立っていた。そして、門の周りにある物体を手当たり次第に触っていく。すると、黒い突起物の感触が。手を左右に動かすと一センチ間隔くらいで空洞があることが解る。手の位置をもう少し下にズラすと出っ張っている何かが確認できる。夜炎はその出っ張りの部分を押すと、五秒程経ってから女性の声が聞こえた。

「どちら様でしょうか?」

 二十代くらいの若い女性の声だ。

「不知火夜炎と申します。そちらにお住いの神瞳蒼雷くんを連れてまいりました」

「蒼くんを? わざわざ有難うございます。至急お嬢様をお連れ致しますので、少々お待ちくださいませ」

「わかりました」

 と、言われ。夜炎は七分ほど待った。すると聞き慣れた声が。

「不知火君!? どうしたの? それにその蒼雷――」

「俺が無理を言って神瞳に戦いを申し出たんだ。条件は互いに能力アリで。一日に二回も能力を発動してヘトヘトなのだろう。コイツがこうなってしまった以上、俺がコイツを家に届けるのが義務というものだ」

「それはとても有難いけれど、私の家分かったんだね――」

「ああ。神瞳が水野の家に居候していることは分かっていたから、水野の魔力を探した。あとは、俺の場合は指ぱっちんの音の反響で、周囲にどの辺に障害物がるかを把握するだけだ」

「す、すごい。でも学校じゃやらないよね?」

「カルノールは校長のロードゲート先生に十歳のときに誘いを受け、魔法を教わっているからな。なので、どこにどういう物体があるか把握している。改装とかされるとたまに狼狽えてしまうが」

「じゃ、じゃ人間は?」

「人間にはニオイがついているからな。それでどこにいるのか把握できている」

「私のニオイは?」

 玲は恐る恐る問いかける。

「心配ない。フルーツ系の甘いニオイだ。香水でもなさそうだ。水野の隣にいる女性は先程、呼び鈴で鳴らした時に出た女性かな? ニオイが似ている」

「香水はつけていない。もしかしたら私の体臭かな? だと嬉しい!」

「変わった女だ。一度顔を拝見したいくらいだ」

「今できないの?」

「できん。この能力は非常に危険な能力だ。俺の目を見た水野は発火して命を落とすぞ」

「あれ? じゃあ蒼雷は?」

「俺より魔力が高い者は見ても問題ない。しかし俺が対象を凝視し、燃えろと俺が強く念じれば燃える」

 それを聞いた玲は苦笑する。

「や、やめておく」

「それでは神瞳を頼んだ。俺はこれで失礼する」

 夜炎が帰ろうとした時。

「あ、待って」

「ん?」

「もしよかったら晩御飯食べていかない? 寮の食事以外にもたまには食べないと」

「いや、俺は別にいい。気にするな」

「そう言わずに早く。美里さんは蒼雷をベッドに寝かしてきてもらっていいですか?」

「はい。お任せください」
 
 玲はそう言うと強引に夜炎を連れ、美里に門を開けさせて屋敷の敷地内に入る。夜炎は空気が変わったこと瞬時に察知して、大きめの指パッチンを三回ほど行う。反響を聞き分け、この辺一帯がどれくらいの広さか把握する。

「――家と思われる物体が二十メートルほど先にあるのだが、本当に家か?」

「そうよ。今歩いているところの感触は分かるよね?」

「ああ。石造りの歩道だ。歩道以外のところは芝のようだな」

「本当に凄いですね。不知火様は」

「いえいえ、それほどでもございません」

 夜炎の言うとおり、屋敷までの道のり石造りの歩道。それ以外は人工芝。そして、二十メートルほど先には、白いお城のような外観をした屋敷が。横幅は長く、まるで道を阻む巨大な壁のようにも見える。

 夜炎はそんなとてつもなく大きい屋敷に連れられる。

 中に入るとメイドが縦に並んでお出迎え。深々と頭を下げて玲の帰宅を歓迎する。

「美里さんは先に蒼雷を部屋に連れて行ってもらえますか?」

「かしこまりました」

 美里は小さく礼をすると蒼雷を背負ったまま、赤絨毯が敷かれている階段を上がり蒼雷の部屋へと向かった。一方、夜炎は少したじろいでいる。

「ニオイと声が一気に増えた。一体何人の女性が――」

 すると玲はふんぞり返って得意気に言う。

「三十人よ」

「多すぎる――さすが水野財閥」

「もっと大きくすることもできるけど、これくらいで十分だろってパパが言ってた」

「貧困の格差を感じたのは久々だな」

「あ、ごめん。癇に障った?」

 玲は少し俯き加減で、夜炎の表情をちらちらと確認する。

「いや問題ない。水野が奴等と一緒とは思っていない。俺が幼少のときにいた住人達が異常なだけだ」

「インザギロのカルバッハ地区だっけ? スラム街の」

「そうだ。かたや隣町は金持ちが住む町だからな。差別が激しい――
その点ここは穏やかな町だ。確かに水野家のような大金持ちは多いが、インザギロと比べ、住み心地は月とスッポンだ」

「産れも育ちもここなら良かったのにね」

「そうだな」

 その言葉に少し思いつめたような表情を見せた夜炎。玲もざっくりと夜炎の過去は知っているのでそれ以上何も言わない。

「さあ、食堂に行きましょ」

 玲は手をポンと叩くと、夜炎の手を引き食堂へと向かった。玄関から見える一番奥の部屋だ。玲は金色のドアノブを開けて部屋の中に入る。

 中央には赤色の絨毯が引かれて、黒色に塗装した木製の食卓が構えてる。その周りを八つの椅子が囲む。それを照らすのは、その真上にあるシャンデリア。奥には暖炉があるのだが。季節は春なだけに使われていない。

「さあ、ここに座って」

 玲はそう言って夜炎の手を取りながら、席に着かせる。

「すまない」

「料理はもう少ししたら持って来てくれるんだけどね。パパが帰ってくるの、もし良かったらパパも同席していいかな?」

「俺は別に気にしないぞ。それに水野の父親といえば、魔法省の大臣の右腕兼水野財閥の代表じゃないか。ロードゲート先生からも話は聞いているし、同席できるのはとても光栄だ」

 そう言った夜炎は自然と笑みを浮かべていた。その様子を見た玲は少し以外で驚いていた。

「初めて見た。不知火君がそこまで他人の事を嬉しそうに喋るの。しかもよりによってパパだなんて」

「実は昔お世話になったことがあるんだ。あの人は覚えているかどうか定かではないが、ロードゲート先生の次の恩人だ」

「パパは記憶力がいいからきっと覚えているよ。あの人は人脈が大事だってずっと言っているからね」

「そうか。もしそうなら喜ばしい」

 二人が何気なくそう話しているうちに、コンコンとノックする音が聞こえた。

「お嬢様、料理をお持ちしました」

「どうぞ」

 失礼しますという言葉をかけた後、部屋に数人のメイドと、白い衣装を纏った、短髪の四十代くらいの男性の料理人が料理を運んできた。テーブルの上に料理が次々と置かれていく。夜炎はその様々な料理のニオイに戸惑いをみせる。

「何やらうまそうなニオイがあちこちに」

 夜炎は鼻を利かすと、自然と笑みがこぼれていた。

「お嬢様。旦那様や蒼雷様のお料理もご用意させていただいても宜しいですか?」

「蒼雷起きたの?」

「はい。今シャワーを浴びているようで、もうそろそろこちらに顔を覗かせる頃合いかと」

「いい? 不知火君?」

「勿論だ」

「じゃあお願い」

「かしこまりました。直ぐにお持ち致します」

 メイド達は頭を下げた後、料理人を残してこの部屋から退出した。暫くすると外からコンコンとノックの音が聞こえた。

「パパだ。蒼雷君もいるが入ってもいいかな?」

「いいよ」

 玲の返答で入ってきたのは、淡い水色の髪に前髪を左に分けている銀縁の眼鏡をかけた三十代後半の男性。白いシャツの上から暗めのシルバーのベスト着て、ベストと同色のパンツを履いている。その男性の後ろには蒼雷がいた。

「よお不知火。料理のニオイが多いもので少し戸惑っている様子だな」

 蒼雷はそう言いながら笑みを浮かべながら夜炎の肩をポンと叩いた後に隣の席に座る。

「十年ぶりだね。不知火夜炎君」

「あの件はお世話になりました」

「とんでもない。では改めて。私の名前は水野龍騎。水野玲の父であり、神瞳蒼雷君の保護者だ。いつも娘と蒼雷君がお世話になっている。今日は存分に楽しんでくれ。そうだな、能力を使ってみてはどうだ?」

「いえ。それはできません」

「炎なら大丈夫だが。私が魔法の障壁を作ればいいことだ」

「いえ、そもそもピンチじゃないと使えない」

 その夜炎の返答に思わず吹き出す。

「し、視力を失っているのに、そんな契約まであるのか――なかなか不便な能力だな。た、確かにこの地球でトップクラスではあるとは聞いていたが――」

「まあ、それが俺の運命という訳です。俺がこの能力が使えるようになったのも、ほんの些細なキッカケ」

「そうだったな。あれだけ荒れていた少年が、今やよく笑う子になっている。視力を失ってしまったこと、本当に後悔していないんだな?」

「ええ。しかし反省はしております。どんな理由があろうとも、人の命を奪ったことには変わりありませんので。しかし、水野さんや先生にお会いできていなければ今の俺はないでしょう。本当にありがとうございました」

 夜炎はそう言って頭を下げる。龍騎は少し照れくさそうに頭をかいた。その様子を見ている蒼雷と玲はポカンとしている。

「さあ、せっかく用意してくれたんだ。食べようじゃないか料理が冷めてしまう」

 龍騎がそう言って手を叩くと、各々食事を存分に楽しんでいた。小一時間ほどで全員が食べ終わると、食後のコーヒーか紅茶。そしてケーキが用意された。

「あ、龍騎さん」

「なんだい?」

「千年の扉の向こう側って知っていますか?」

「知っている。しかし、誰も開けたことはないのは事実だ。属性玉の在り処を全て知る者もいない。属性玉に関しては、属性玉を守っている聖霊が厄介だ」

「聖霊? 聖霊って俺たちが能力を使うときに出てくるあの聖霊ですか?」 
 
「違う。そもそも能力の契約をする聖霊は聖界という場所にいる。この地球とはまた別の星にいる。それにそれらの聖霊が聖界以外の星に存在できる時間は限られている。しかし、属性玉を守護している聖霊達はまた別の話だ。属性玉が悪に渡ってはいけない。魔神ハデスという悪に満ちた神が再び復活するから。そしてハデスを封印している剣もまた強大な魔力を宿しているからだ。その剣を一度振るだけで国一つが滅ぶとも言われている。そんな剣が悪人の手に渡ったらどうなる? 考えるだけでも恐ろしいとは思わないかい? 先生には少し悪い気はするが、蒼雷君が倒した破壊帝ジェラがいい例だ」

「その聖霊の正体は一体――」

 夜炎は挙手してそう質問すると、龍騎は頷いてから答える。

「いい質問だ。その前に、地球の名前にある国名を十答えてみてくれないか?」

「今更――まずは俺たちが住んでいるローランス。暗黒の国スダイン、芸術大国セルシウス、遺跡の国レジスタン、経済大国インザギロ、自然大国フェリペス、水の国サーシャ、雪の国カルセア、風の国ロゼル、魔物大国メギラですけど」

「そう。簡単に言うとその人達の聖霊だ」

「つまり、授業で習うあの石板に描かれている人たちの聖霊というわけですね?」

 そう言った夜炎を少し疑った目で睨む蒼雷。

「なんで分かるんだよ。文字が分かるのはそうかもしれないが写真まで」

「俺が扱っている教科書には、文字は点字で写真は凹凸があるんだ。その凹凸でどんな形をしているのか把握できる」

「凹凸でどれくらい?」

「0.1mmほどじゃないか?」

 蒼雷と玲はそれを聞いて苦笑い。龍騎は少し不思議そうな顔をしている。

「何故、わざわざ凹凸で判別できるようにしたんだ? 魔法で映像化すればいいじゃないか」

「ロードゲート先生が、鍛錬と言っていました」

「なるほど。それは確かに名案だ」

 龍騎はそう言って思わず手をポンと叩いていた。蒼雷は夜炎をじっと見つめながら。

「お前凄いな。カルノール一の頭脳と戦闘力を持っていることだけのことはある」

「当然のことだ。まあ貴様にはできんだろうが」

「ほ、ほう言ってくれるじゃねえか」

 蒼雷は眉をヒクつかせながら拳を握りしめる。

「意外と挑発に弱いのか。血圧が上がっているぞ」

「あ?」

「相手が俺のような奴が出てきたら、お前は壊滅的だな。敵の思うツボになる」

「うっせえ。俺は誰にも負けえねえ」

「自惚れるな。俺たちが戦おうとしている相手は仮にも世間から恐れられている犯罪者集団だぞ」

「うんまあ、確かにスペルダーさんがボスだとしたら一体どんな手練れを仲間にしているのか想像もつかない。あの人のことだ、人脈もあるだろうし」

闇の支配者(ダークルーラー)にザギロスがいたらしいな? 強かったか?」

 龍騎の問いかけに蒼雷は間髪入れずにはいと答えた。

「能力は使ったのか?」

「使いました。しかし相手は使ってきませんでしたね。奴くらいの実力なら持っていても何ら違和感がないのですが」

「ザギロスは能力の使い手のはずだ。単純に能力発動の条件が揃っていなかったと考えてもいい。蒼雷君と実力はあまり変わらないはずだ」

「変わらないのか――強かったもんな」

「水野さん、闇の支配者(ダークルーラー)にはザギロス以外にどんな構成員がいるかご存知ですか?」

「う~む。奴等が動いていたという事に関して知ったのはつい最近だからね。魔法省の情報によれば、時雨天魔(しぐれてんま)闇の支配者(ダークルーラー)の構成員ということは調べがついている」

「確か飲むだけで足りない血液を補う薬品の開発に成功した人物――」

「そうだ。彼が開発する物は全て悪に渡ると厄介なことになるんだ。実際、彼と手を組んでいた犯罪者も多く、それで莫大な稼ぎを得ていた。エグゾトレイブに収容されていたが脱獄されていたんだ。獄内は死体の山だったらしい」

「死体の山? あそこには魔法省の中でも選りすぐりの魔術師が特別監視員としていたはずでは」

「とは言っても七色の操雷者(アルレーズ)ほどではない。なに簡単な話だ。要約すると魔法省では手に負えないということだ。まともに戦えるのは大臣と私くらいだ」

「まあ、魔法省強くないしな」

 蒼雷がサラッとそう呟くと、夜炎がおいと一言。

「気にしなくていい。結局は異次元級の強さを持った者は世界中に散りばめているからね。さてと」

 龍騎はそう言って席を立つ。

「私はこれで失礼するよ。仕事がまだ残っているのでね」

「今日は仕事は終わりじゃなかった?」

「会社の方は終わっているよ。けど魔法省の方の仕事があるんだ」

闇の支配者(ダークルーラー)ですか?」

 夜炎の質問にコクリと頷く。

「不知火君はゆっくりしていっていいよ。何なら泊まってもいい。玲、蒼雷君、不知火君を頼んだよ」

 龍騎はそう言い残してこの部屋から退出。

「どうする不知火君? 泊まっていく?」

「いやいい。水野今日は色々ありがとう」

「いえいえ。ほら蒼雷もなんか言う事あるでしょ?」

 玲にジトリと睨まれて蒼雷はうっと声を漏らしてから。

「送ってくれたんだってな――さ、サンキュ」

 蒼雷は夜炎の顔から視線を反らしながらそう言うと。

「誰かさんが寝てしまうからだ」

「おま――何で俺だけ喧嘩腰なんだよ。まあいいや」

「水野、今日はこれで失礼するよ。美味しい御馳走に感謝する」

「まあ私の手作りじゃないけどね。今度来たときは私がおもてなしするよ」

「ああ、楽しみにしている。それでは」

「じゃあ玄関まで送っていくよ。蒼雷は今日はちゃんと睡眠とって学校に備えること」

「分かった」

 蒼雷は返事したあと、欠伸をしながら目を擦る。玲は夜炎を玄関まで送って別れを告げた。

 翌日――。蒼雷、玲、夜炎はローランス神殿の地下、千年の扉前にロードゲートに連れられて来ていた。

 神殿内の床は全て白色の石造りで、天井の僅かに空いた隙間から射しこむ、地上の光に反応し、所々煌めいている。神殿内の中央には、人一人が立てるくらいの土台が。その土台を囲うようにして描かれているのは十人の魔術師。眼前に広がる巨大な扉もまた、床に描かれている絵と同じ。唯一違うのはその魔術師達の手の位置に窪みがある。

 逞しく、威圧感を放ち続けるその扉は、見る者を圧倒する。

「改めて見るともの凄い威圧感だな」

「ただの物体がこれだけの魔力を放ち続けているのは非常に珍しい」

「あそこの窪みに、属性玉を一つ嵌め込むと、他の属性玉の位置が分かるんじゃ。ほれ見てみ。すでに鋼鉄の玉が埋め込まれているじゃろ?」

 ロードゲートはそう言って、 左斜め上の方にある玉を指す。その玉が埋め込まれていることによって、魔術師が光っていた。

「本当ですね」

「この玉をどんどん嵌め込んでいくわけですか」

「そういうことじゃ。そしてワシもまた、コイツを持っている。

 そう言って取り出したのは、深緑と紫色の玉。玉の中にある光は歪んでいる。

「それは何の玉ですか?」

「重力の玉じゃよ。魔物大国メギラで見つけたんじゃよ。いつかはこの日が来るとは思っていた。取っておいて正解じゃの。蒼雷君、これを持って土台の上に立ってみるとよい」

「俺がですか?」

「左様。今のうちに要領を覚えておいたほうがええじゃろう」

「分かりました」

 蒼雷はそう言うと、差し出された重力の玉を手に持ち土台に立つ。

 すると、蒼雷が手に持つ玉は宙に浮き、扉が淡い青色の神々しい光を放つ。その光はやがて壁を覆い、一つの映像が流れ始めた。

 いくつもの風車がある平原をひたすら真っすぐ進んでいくと、辺りは次第に木で囲まれ渓谷に辿り着く。流れる小川にポツポツと点在する足場。その中で一つ。他とは違い少し大きな足場がある。その足場の上に、太陽と同じくらいの光を放つ緑色の玉が、姿を現したり、消えたりの繰り返しを行っている。

「何だこれ?」

 蒼雷がそう言うと、ロードゲートはフムフムと頷きながら指を指す。

「アレは疾風の玉じゃな。場所は風の大国ロゼル」

「ロゼルですか。風力発電が有名な国ですよね」

 夜炎はそう言った後に玲が。

「美味しい食べ物もたくさんあるよ。あと鉱石とかも豊富って聞いたことある」

「その通りじゃ。他に挙げるとすれば、犯罪件数が一番少ない国でもある。国民全体が穏やかな心の持ち主じゃからの。蒼雷君頼んだぞ」

「あんまり気乗りしないんですけどね」

「修行と旅行と思えばやる気は上がらんか?」

「少し上がりました」

「俺も同行しようと思うので大丈夫ですよ先生」

 夜炎がそう言うと、蒼雷の顔が少し暗くなる。

「お前も来るのかよ」

「お前一人じゃ難しいだろう。通常時は魔力はゼロなんだ。それに万が一に能力を何度も発動しなければならない状況になってみろ。命がいくつあっても足りないぞ」

「俺に意外と優しいんだな。普段のドライさとは比べ物にならないくらい。何か一瞬鳥肌立ったわ」

「今、俺を馬鹿にしたな? 来るなら来い。相手になってやる」

「まあまあ二人とも落ち着いて」

 玲はそう言って二人の肩を持ち仲裁に入ると、蒼雷と夜炎は仕方ないと言わんばかりに睨みあうのを止めた。

「バランスの取れた三人組じゃな」

 ロードゲートはそう言ってにこやかな笑みを浮かべる。

「校長先生」

「なにかな? 玲君」

「この二人は私にお任せください。圧倒的な戦闘能力はありませんが、サポートならできるので」

「君は、龍騎君と麻那君の娘じゃからな。心配ないと君の前で話したんじゃ。二人は任せたぞ?」

「はい!」

「なあ玲なんでそんなやる気出てるんだ。それで行く前提で話しているし」

「私がいないと不知火君に喧嘩吹っ掛けるでしょ? それにサポートなら学園通りにするから」

「遊びじゃねえんだぞ」

「玲君は学園一の防衛魔法を扱う。蒼雷君もそれは分かっている筈じゃ」

 ロードゲートがそう言うと、蒼雷は頭をかきながらしゃあねえと一言。

「あまり時間はないのでな。明日出立してほしいんじゃ。列車の用意もしているから心配は無用じゃ。勿論三人でな。公欠扱いなんじゃから楽しんでおくれ」

「楽しめって――敵がいる可能性はあるのですよね?」

闇の支配者(ダークルーラー)じゃな。可能性はあるじゃろ。何しろ相手方も玉の位置は掴めているはずじゃし」

「気は抜けないってことだよね。よし張り切っていこう!」

 玲はそう言って右手の拳を天に突き上げた。

「コイツ絶対遠足かなんかと勘違いしているぞ。なあ不知火」

 蒼雷はそう言って隣にいる夜炎の方に向く。

「俺一度ロゼルの風車を感じてみたかったんだ」

「お、お前まで」

 蒼雷はやれやれとため息をついて肩を落とす。

「では三人とも。よろしく頼む」

 ロードゲートがそう言うと三人ともはいと返事。その後は各自その場で解散した。しかし、ロードゲートはまだ門の前にいる。

「ついに扉が開くときがきたのかもしれんの。ちょうど千年。蒼雷君と夜炎君がこの世に降り立った時点で運命の歯車は大きく動き出したというわけか」

 ロードゲートはそう言い残すと門を後にした。


























                                                                                                                                                                                



 

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