日傘の女
文字数 319文字
足腰が弱くなって、めっきり出歩かなくなった妻は、二階のテラスから外を眺めるのが日課になっていた。
その理由は、軽快に歩く、日傘の女を見るためだった。
顔は見えないが、明るい笑顔が想像できた。
散歩だろうか、買い物だろうか、いつも日傘を差していた。
「ほらほら、あの人よ」
たまたま居合わせた夫に教えた。
「ほう。確かに軽やかな歩き方だ」
「私もあんなふうに歩けたら、散歩も楽しいだろうな……」
「うむ……」
ところが、それから間もなくして、パタッと日傘の女を見なくなった。
数ヶ月後。妻は、スタスタと軽快に歩いていた。
外科医の夫は、生き生きと楽しそうに歩く妻を見て喜んだ。――