嘘のような話
文字数 1,454文字
その告白は突然だった。いつものように夕食を食べ、いつものように子どもを寝かしつけたその後だった。
何も思いつかず、大きく息を吐いたような声が漏れた。なんだ、この女は何を言ってるんだ。
幻聴じゃない。どうやら、幻聴では無かったようだ。
思わず、声が大きくなってしまう。声が震える。いつ以来だろうか……いや、初めて妻をこんなふうに怒鳴った。
そう大きくため息をつく――ため息をつきたいのは、こっちだ。
思わず、問いかけた。
何がって、結婚して、ベイビー作って、マイホーム建てて、現在絶賛幸せに暮らしてることだよバカ野郎。
どうやら、言いたいことってのはあまりにたくさんあると言えないらしい。
ええええ、違うのー? だって、ベイビーどうすんだよ。作っちゃったじゃないかよ。気づけよ、その前に。
そりゃあ、最近はご無沙汰だったけど一応俺も仕事でクタクタで、お前だって育児で随分疲れてたじゃないか。
あの女……ぶん殴ってやる。訴えて、賠償金請求してやる。
投げやりになって叫んだ。酒が欲しい……
脳みそウジ湧いてんじゃないかこの女は! その女と暮らすのか? ベイビーどうすんだ。マイホームどうすんだよ、ローン払えよこの野郎。
どーすんだよー、俺にはこの家広すぎるよー! もう抱えちゃってんだよ色々と。単身赴任の相談受けてんだよ。だいたい家買おうって言ったのお前だろ!
子どもなんて絶対渡さんぞ。お前、今、考えてみたら俺道具じゃねぇか。子作りマシーンじゃねぇか。プロポーズした時のあの言葉「子ども絶対作ろうね」ってお前っ……お前っ……
それは、言っちゃダメでしょ。俺は? 俺はどうすんの?
思いきり被ってんじゃねぇか! 子作りマシーン決定じゃねぇか!
わかった、もう貴様に未練はない。一生呪って生きてやる。当然だが、子供は渡さん。子供に罪は無いし、俺が立派に育ててやる。
知らんよ! なんなの! 俺、悪者なの? ねえ、俺が悪いの? 俺が悪いのか!
そうだよテメエが悪いんだよ! 貯金残ってねぇんだよ、もうこの家庭に人生全部懸けちゃってんだよ。
しかし……それでも……
どうしようもないバカ女だよ、お前は。で、そんなバカ女を愛した俺は、大バカ野郎だ。
世界一聞きたくない、ありがとうだった。
もう、これ以上驚く話なんて、この世には存在しないのだろう。
お前……まさか……
初めて妻を殴った。