嘘のような話

文字数 1,454文字

私……レズビアンなの
 その告白は突然だった。いつものように夕食を食べ、いつものように子どもを寝かしつけたその後だった。
……ええっ?
 何も思いつかず、大きく息を吐いたような声が漏れた。なんだ、この女は何を言ってるんだ。
だから……ごめん、私レズビアンだったの
 幻聴じゃない。どうやら、幻聴では無かったようだ。
お前、バカな事言うなよ!

 思わず、声が大きくなってしまう。声が震える。いつ以来だろうか……いや、初めて妻をこんなふうに怒鳴った。


……ごめん
 そう大きくため息をつく――ため息をつきたいのは、こっちだ。
どうすんだよ?
 思わず、問いかけた。
……何が?

 何がって、結婚して、ベイビー作って、マイホーム建てて、現在絶賛幸せに暮らしてることだよバカ野郎。
だから……間違いじゃないのかってことだよ

 どうやら、言いたいことってのはあまりにたくさんあると言えないらしい。


違うの

 ええええ、違うのー? だって、ベイビーどうすんだよ。作っちゃったじゃないかよ。気づけよ、その前に。


だって……お前……その確かに最近はアレだったけどさ
 そりゃあ、最近はご無沙汰だったけど一応俺も仕事でクタクタで、お前だって育児で随分疲れてたじゃないか。
……相手……ベビーシッターさんなの
 あの女……ぶん殴ってやる。訴えて、賠償金請求してやる。
……で! どうすんだよ!

 投げやりになって叫んだ。酒が欲しい……


……何が?
 脳みそウジ湧いてんじゃないかこの女は! その女と暮らすのか? ベイビーどうすんだ。マイホームどうすんだよ、ローン払えよこの野郎。
うん……出てく。子供も……連れてく

 どーすんだよー、俺にはこの家広すぎるよー! もう抱えちゃってんだよ色々と。単身赴任の相談受けてんだよ。だいたい家買おうって言ったのお前だろ!


お前……そんな我儘通じるとでも思ってんのか?
 子どもなんて絶対渡さんぞ。お前、今、考えてみたら俺道具じゃねぇか。子作りマシーンじゃねぇか。プロポーズした時のあの言葉「子ども絶対作ろうね」ってお前っ……お前っ……
……愛してるの
 それは、言っちゃダメでしょ。俺は? 俺はどうすんの?
 なあ、そりゃあ俺は最近忙しかったけどさぁ。そんなおと……女と付き合って日にちなんて経って無いんだろ? 俺と何年一緒に過ごしてんだよ?
……7年なの
 思いきり被ってんじゃねぇか! 子作りマシーン決定じゃねぇか!
……言っておくが子どもは渡さんぞ
 わかった、もう貴様に未練はない。一生呪って生きてやる。当然だが、子供は渡さん。子供に罪は無いし、俺が立派に育ててやる。
凛は……お母さんとがいいって
 知らんよ! なんなの! 俺、悪者なの? ねえ、俺が悪いの? 俺が悪いのか!
 ゴメン……全部私が悪いの

 そうだよテメエが悪いんだよ! 貯金残ってねぇんだよ、もうこの家庭に人生全部懸けちゃってんだよ。






 しかし……それでも……

愛……してるのかよ?










……うん
 どうしようもないバカ女だよ、お前は。で、そんなバカ女を愛した俺は、大バカ野郎だ。
……親には話したのか?
ううん、言ってない
話さなきゃ駄目だろう? 大事な事なんだから
……いいの?
 言い訳無いだろ! でも……しょうがないんだろう?
……ありがとう
 世界一聞きたくない、ありがとうだった。
ねえ……あと1つだけ聞いてくれる?
なんだよ?

 もう、これ以上驚く話なんて、この世には存在しないのだろう。


今日……何の日はわかる?
あ? そんなん4月1た……
 お前……まさか……
トゥットゥルー! エイプリルフー―














 初めて妻を殴った。

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登場人物紹介

修(夫)


理佳(妻)

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