浴衣って、着慣れていないとはだけるよね

文字数 1,895文字

 久しぶりの旅行。とにかく自分を甘やかすだけの旅行。この数日間の為に、仕事を早め早めに終わらせ、コツコツと甘やかし資金を貯めてきた。始発電車に乗り込み、何度も乗り換えをして、ボックス席のある電車に揺られ、景色を堪能しながらの温泉地帯。
 ここで、源泉に浸かり美味しいものを堪能してやろうと言う計画だ。交通費は節約して早めに出発。交通費を節約した分、好きな物を買う算段である。
 荷物は二泊分が有るには有る。だが、浴衣やタオルは宿泊費に含まれる旅館を選んだので、その分の荷物は少ない。アメニティも、旅館ながらホテルの様に揃っているそうだ。歯ブラシだけでなく、化粧水も浴場にはあるらしい。富山の薬売りが黄色い桶で宣伝をするが如く、化粧水も化粧品会社の宣伝の為に置いてあるらしい。
 ただ、何処でもそうだけれど、人によってはアレルギーや悪戯が気になるので、使わないままだったサンプルを適当に持参するのも良い。サンプルなら大して嵩張らず、使ったら捨てていけば更に荷物は減る。
 さて、チェックインの時間まで街を散策するとしよう。

 チェックインの時間になったら直ぐ、旅館に向かった。旅館の受付で部屋の鍵を受け取って夕食等の説明を受け、ひと休み。直ぐに温泉に浸かりたいところではあるが、休憩なしでの温泉は体に負担が掛かる。なので、部屋に用意された急須にお茶っ葉を入れ、ポットから湯を注ぐ。この旅館独特の間は貴重だ。円形のお盆に乗せられ、急須に添えられた、旅館のお土産コーナーでも買えるお菓子。そのお菓子の材料を眺めながら、茶葉が開くのを待つ。そして、湯飲みに緑茶を注ぐ。
 緑茶の香りが部屋に広がり、何とも豪華な時間が流れる。スマホの電池は落として充電中だ。今は他に何をするでもなく、緑茶とお菓子に向き合う時間と決めた。そして、味を堪能する。

 ひと休みした後、浴衣やタオルを抱え、鍵を持って浴場に向かう。文字通り、湯上がりに着るから浴衣。こんな時でも無いと着ることのない浴衣。
 思えば、修学旅行で旅館には泊まったけれど、強制的に体育着が寝間着だった。小中高、全ての修学旅行で、寝るときは体育着着用。旅の風情もあったもんじゃない。
 その修学旅行だって、周りに流されるままで、自分が行きたい所の主張なんて一切しなかった。暗い学生時代だったなあ……自分の人生、今になってやっと自分で歩いている気がする。自分で旅行先を決めて、旅館も決めて、好きなことをする。子供の頃は、自分が好きなことを考えることすらも出来なかった。それが、やっと自分で自分の道を拓けた気がする。

 源泉かけながしを堪能した後で、肌を整えてから適当にメイクをしておく。仕事じゃないから、ベースメイクは省く。どうせ、部屋までの移動と夕食位でしか人と顔を合わせない。仕事であれば、朝から夜までメイクを崩さないようにベースが必要だ。だが、今は「してありますよ」程度で良い。なんなら、知らない人ばかりだからしたくもない。ただ、雑誌に貼り付いていたサンプルがあったから、この機会にアレルギーテストをしたかっただけである。
 さて、少し部屋で休んだら、夕食にしよう。様々なおかずが出てくる夕食も、オフシーズンなら安く楽しめる。

 夕食を堪能した後、食休みをとってから再度温泉に入る。これぞ贅沢。温泉を堪能したら、部屋の窓を開けて夜空を眺める。やはり、温泉地は空が綺麗だ。
 その後は適当にお茶を飲んだりテレビを眺めたりして過ごし、何時もより早く寝る。畳の上に敷かれた、ふかふかな布団で寝る。とても贅沢なことだと思う。
 「枕が変わると眠れないタイプ」では無いが、仕事の疲れが無いせいか直ぐには眠りに落ちなかった。しかし、明日は何をしようか考えているうちに眠ってしまったようだ。

 翌朝、ひっきりなしに鳴く鳥の声で目覚めた。せっかくなので会話に混ざろうと部屋の窓を開けたら逃げられた。人慣れはしていない様だ。
 寝汗をかいたので、水分補給をしてからの温泉。贅沢な朝風呂である。朝の浴場は空いている。だから、気兼ねなく入浴出来る。ただ、ちょっとバスタオルの湿り気が気になるだけだ。

 さて、寝汗をすっきりさせたら、今度は朝食だ。旅館の朝食と言えば、鮭に味噌汁と海苔。それが揃っているだけで美味しい。夕食程の豪華さは要らない。ただ、和食であれば良い。
 朝食を終えてからは、観光マップを眺めながらの行きたい場所の確認。スマホには頼らず、気の赴くままに街を回る。その楽しみを、大人になって知った。そうして、私は今まで経験出来なかった様々なことを、人生で歩んで行こうと思えるようになったのだ。
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