第1話

文字数 1,913文字



「やだ、梨央の何? かわいい~」
「見せて見せて」
「本当だぁ~かわいい~」

 友だちが一斉に私のスマホの画面を覗き込んだ。

「梨央って猫飼ってたんだ」
「ね、知らなかった」
「真っ白だぁ~」

 女子高生の待ち受けといえば友だちや彼氏との自撮りか推しの画像が多い。

 きっと猫の写真が珍しかったのだろう。

「いいなぁ、うちも猫飼いたい」
「ね、私も」
「かわいいよね~」

「ありがとう」

 かわいいを連発されて私は顔を赤らめた。

 恥ずかしいけれど嬉しかった。

 この猫は私だ。

 猫神様を先祖にもつ私たち猫族は人間と同じように生まれてくる。

 ただし十六歳になると猫族の遺伝子が突然変異をおこし、満月の夜に猫の姿となるのだ。

 十六歳になった私もつい先日猫の姿に変身した。

 真っ白でふかふかの毛並みだったのが嬉しくてお母さんに撮ってもらったのがこの写真だった。

「……で、この前彼氏がさぁ」
「え、なになに?」

 助かった。

 もう話題が変わっていることにほっとした。

 女子高生の興味なんてこんなもんだよね。

 彼氏の話題で盛り上がる友だち。

 彼氏か……。

 小さい頃から聴かされていた話。

 猫族は猫族同士、運命の糸で繋がっている。

 十六歳で突然変異を起こし運命の者に出会う。

 出会ったら何らかの知らせがあるらしい。

 猫族の血を絶やさないように猫神様が与えてくれた恩恵なのだそうだ。

「あ、バス来た。じゃあね梨央」

「うん、じゃあね」

 みんなが乗ったバスを見送った私は気まぐれに歩いてみることにした。

 天気もいいし、かわいいと言われて気分がよかった。

 こんな日は芝生にでも寝転んで日向ぼっこでもしたい。

 私は家の近くにある広い公園の芝生の上に思いきり寝転んだ。

「あー、気持ちいいー」

 一瞬で睡魔に襲われた。

 カバンを枕にして体を丸めるとお日様が私を優しく包み込んでゆく……。

『おい! おい!』

 私はゆっくりと目を開けた。

『ん……』

 私を覗き込んでいたのは真っ黒で綺麗な毛並みの猫だった。

『猫がしゃべってる……』

『は?』

 黒猫があきれたような目で私を見ている。

 何か様子がおかしい。

『お前も猫だけど』

『えっ!?』

 そう言われて見るといつの間にか私も猫の姿になっていた。

 この黒猫と目線が一緒だ。

 辺りを見ると遠くには大きな人間がたくさんいて少し怖かった。

『私……どうして』

『芝生に寝転んだと思ったら急に猫になったからびっくりした。幸い誰も気付いてないみたいだからよかったけどさ』

『そんな……えっと……ありがとう』

『いや、別に』

 改めて黒猫を見ると毛並みもその体つきもやっぱり綺麗だった。

『……あなたはどうして助けてくれたの? 私を見てその、驚かなかったの?』

『ん? ああ、俺も猫族だし』

『えっ』

『学校帰り、なんとなくこの公園見てたらあんたがひょこってやってきて、倒れたと思ったら猫になって、でヤバいと思って近付いたらなぜか俺も猫になっちまった』

『そう、だったんだ。なんかごめんね。私、梨央。あなたは?』

『俺はクロ』

『クロ!?』

 私が驚くとクロは恥ずかしそうにしながら自分の手を舐め顔を拭き始めた。

『俺が生まれた時にオフクロが、黒猫がほしいって願ってクロってつけたんだって。ったく、本当に黒猫だったからよかったけど、もしも違ってたらどうすんだって話しだよな』

『ふ……ふふ、あはは』

『な、なんだよ、笑うなよ』

『ごめん、だっておかしくて、ふふ』

『……ハハッ』

 クロも照れながら笑っていた。

 私はなんだかクロがかわいいと思ったし、もっと話したいと思った。

 家族以外で同じ猫族の人と会ったのも初めてだったし。

 ん?

 同じ猫族……ってことはもしかして……。

「あっ!」
「うわっ!」

 そう思った時、私たちはまた突然人間の姿に戻っていた。

「あ、その制服」

 背が高くてさらさらの黒髪に整った顔立ちのクロは同じ高校の制服を着ていた。

「あは、同じ高校だったんだ」

「そう、だから余計に目についちゃってさ」

「あ、改めて、私は梨央です」

「俺はクロ。よろしくな、梨央」

「うん!」

 クロに見つめられた私は胸がドキドキするのがわかった。

「家まで送るよ」

「え、本当に?」

「なんか危なっかしいし、たぶん……梨央が俺の運命の人だろうから」

 クロが頬を赤らめるのを見て私まで顔が熱くなった。

「うん。私ももっとクロと話したいし、一緒にいたいって思った」

「……じゃあ、ちょっと座る?」

 私たちはまた芝生に座り込み、しばらく二人で日向ぼっこの続きを楽しんだ。

 猫族同士を繋ぐ運命の糸。

 私たちはこれからこの運命の糸をきっとずっと大切に紡いでいくのだろう。


 追記:それから私の待ち受けが白猫と黒猫の二匹になったのは言うまでもない。





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