二重

文字数 1,723文字

『「気○い病院の先生」という言葉には二重の意味があるようにしか思えないのだ』
G.K.チェスタトン「正統とは何か」より

「それで、その幽霊のようなモノが見えるようになったのは、いつごろからですか?」
「子供の頃です」
「どうして、それ……まぁ、仮に幽霊と呼びますが……が人間でないと気付かれたのですか?」
「いや……親や友達から『誰と話してるんだ?』と言われたり……あとは……明らかに、おかしな場所に現われたりするので」
「おかしな場所とは?」
「ええ、小学校の頃に、教室の中に、先生じゃない大人の人が現われたりして……」
「例えば……貴方が、その幽霊のせいで実害を受けてるとしても……そうですね……無視する事も出来るんじゃないですか?」
「それが……彼等は……僕が彼等を見える事を知ってるようで……幽霊の性格によって違いますが……まるで、いじめなんかで無視されてる子供や、友達から話し掛けられた場合に無視した場合のような反応をするんです」
「具体的には、どう云う反応ですか?」
「ある幽霊はブチ切れて……別の幽霊は傷付いたような表情になりました。反応は様々ですが『僕が彼等と話す義務が有る』と彼らが思っているのに、僕が無視してしまった、と云う仮説で説明可能なモノばかりです」
「原因は同じなのに、その原因に対する反応が違うとは妙ですね」
「いえ、ですから、彼等一体一体に性格の違いが有ると思うんです」
「そんな馬鹿な、人間は怒るべき時に怒り、笑うべき時に笑うのが正常ですよ。彼等は全て狂気に陥っているが、その狂気のタイプが違う、と貴方は考えているのですか?」
「いえ、単に性格の違いが有ると……」
「よく判りませんな」
「とは言え、彼等の性格には共通点が有るとは思います」
「はぁ? さっきと言ってる事が違うじゃないですか?」
「いえ、ですから、ある1つの点では共通点が有りますが、他の事についてはバラバラなんです」
「よく判りませんが……その共通点とは何ですか?」
「頭が固い事です」
「はぁ?」
「何て……喩えればいいか……。そうですね、知り合いの結婚式で笑っていいなら知り合いの葬式でも笑っていい、知り合いの葬式で笑っちゃ駄目なら知り合いの結婚式でも笑っちゃ駄目……そんな変な考え方をしがちなんです……」
「変ですね」
「そうでしょう」
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「ちょっと待って下さい。えっと……喩えが悪かったのかな……別の例で説明します」
「ああ、そうですか、お願いします」
「少し前に流行ったUFOもののホラー映画で……」
「UFOと云う事は宇宙人の乗り物ですな」
「違うんです。UFOそのものが宇宙生物だった、というオチなんですが……」
「はぁ? UFOも宇宙人も実在しないので、こんな事を言っても仕方ないですが……UFOはUFO、宇宙人は宇宙人でしょう?」
「ええっと……」
「意味が判らない。明らかに違う2つのモノが同じモノだった、なんてフィクションであっても理解不能だ」
「あ……あの……」
「つまり、貴方は、貴方に見えてる幽霊に、そんな映画の話をしても理解してもらえないと……」
「はぁ……そうなんです。ああ、そうだ、もっと巧い言い方が有った……彼らは自分の固定観念から外れる事象や概念を理解する能力が、普通の人間に比べて著しく劣ってるんです。例えば、自然保護運動に偏見を持ってたら『絶滅危惧種を救うにはどうすれば良いか?』と云う問い掛けを無意識の内に『可哀想なイルカさん達を大事にしましょう』と脳内で変換しているような……」
「いえ、ですから自然保護なんて『可哀想なイルカさん達を大事にしましょう』的な感傷ですよね?」
「ちょ……ちょっと待って下さい」
「ああ……どうも……遅くなりました。医者の不養生って奴で、腹を壊して、ずっとトイレに……」
「えっ?」
「『えっ?』って何が『えっ?』なんですか?」
「『えっ?』って何が『えっ?』なんですか?」
「え……えっと……先生が……2人?」
「私は1人しか居ませんよ」
「私は1人しか居ませんよ」
「そ……そんな馬鹿な……」
「あの……そこの椅子には誰も座っていませんよ」
「あの……そこのドアの辺りには誰も居ませんよ」
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