天国の友達に会えるハシゴ

文字数 2,000文字

「ムンムン、行ってきます」
ウサギのミミは巣穴を出ると空を見上げ、そう声をかけました。
いつも一緒に遊んでいたツキノワグマのムンムンが天国に行ってしまったのです。
ふさぎ込んだミミはしばらく学校を休みました。
今朝は久しぶりの登校です。
木々の隙間から見える空は澄んだ青一色。
「こんなにいい天気なのに、もうムンムンはいないんだね」
瞳がウルっとなったけど、何とか涙をこぼさずに森の学校に着きました。
心配して校門で待っていてくれたのは担任のタヌキ先生です。
ミミは元気に「おはようございます」とあいさつが出来ました。
教室に入ると、キツネのコンタが駆け寄ってきました。
「一緒にながーいハシゴを作ろうよ!」
「ハシゴ?」
ミミはちょっぴり戸惑いました。
今までコンタとはそんなにしゃべったことも一緒に遊んだこともありません。
でも、コンタは熱心にミミを誘いました。
「天国の友達に会いに行けるぐらい、長いハシゴを作るんだ!」
「えっ、ムンムンに会えるハシゴなの?」
天国にハシゴをかけるなんて、そんなことが出来るでしょうか?
ミミは半信半疑でしたが、コンタのキラキラと輝く瞳にはミミの心をギュッと掴む力がありました。
「作りたいッ! 一緒に作ろう」
すると、コンタはこう断言しました。
「ツキノワグマさんの天国なら、きっと月にあるはずだよ!」
自信満々にそう言われると、ミミも「きっとそうだ!」と思いました。
早速ミミとコンタは竹藪からたくさんの竹を切り出して、縄でつないでいきました。
「どんどん長く伸ばしていこうね!」
「早く月まで届くようにね!」
ミミとコンタは力を合わせ、ぐんぐんハシゴを長くしていきました。
ハシゴは日に日に長くなり、もうすぐ支えにしている高い木を追い越しそうです。
でも、いくら竹を長くつなげたところで月にはまだまだ届きそうにありません。
ミミは不安になってきました。
「もし、ムンムンの天国が月になかったら?」
その時は、もっと遠くの星にハシゴをかけないといけません。
「一番近くに見える月にも簡単に行けないのに……」
それはやってみて痛いほどよく分かったことでした。
ミミはまっ赤に腫れた手のひらにフーフーと息を吹きかけ、竹を縄でつなぐ作業を再開しました。
慣れない作業を続けていると、知らない間に手がジンジンしてきてとても痛くなったのです。
ミミはムンムンに肉球を見せてもらったことを思い出しました。
大きな肉球はプニプニではありませんが、カチカチでもなく不思議な感触がしました。
ムンムンは器用に木の枝を細工して、ミミのためにベッドとブランコを作ってくれました。
でっかい体で優しい心をもったツキノワグマのムンムン。
思い出はたくさんあり過ぎて、一緒に過ごした時間を思い浮かべるだけで何も手につかなくなりそうです。
「いつになったら月に届くハシゴなんて完成するの? 本当は出来ないのかも……」
隣でせっせと竹をつなげてくれているコンタを見ると、そんな弱音を吐くのは悪い気がしました。
そんな時、通りすがりのサルたちが木から木へとジャンプしながらミミを冷やかして行きました。
「ハハッ! 月に行きたきゃハシゴはムリだぜ。ロケットに乗らないと!」
とうとう、ミミはハシゴを作る手を止めました。
「月に届くハシゴなんて無理なんでしょ? アナタはただ長いハシゴを作って遊びたいだけじゃないの?」
ミミはコンタにそんなことを言ってしまったのです。

コンタは怒って帰ってしまいました。
「だったら一人でやりなよ!」
そう言い残してコンタは去っていきました。
もし、ミミだけでハシゴを作るとしたら?
あと何日、いや何ヶ月かかることやら……。
辺りはすっかり暗くなってしまいました。
ミミは夜空に輝く月を見て、目に涙を浮かべました。
「こんなことをしている間に、ツキノワグマさんはもう新しい友達をつくっているのかも」
天国には天国の仲間がいて、新しくやって来たムンムンはすっかり人気者。
歓迎会を開いてもらって、友達も大勢できているはず。
それに比べて……。
手助けをしてくれた友達のコンタをミミは失ってしまったのです。
「この森で助けてくれる仲間は誰もいなくなった」
ミミは深い孤独を感じました。
と、カサカサと落ち葉を踏んで近づいてくる足音が……!
身を隠す場所を探すことも出来ずミミが立ち尽くしていると、現れたのはコンタでした。
「ごめんよ、怒って帰ったりして」
コンタは謝りに戻って来たのです。
「ボクにも会いたい友達がいるんだ。ルナっていうオオカミの女の子だよ」
コンタはまぶしそうに月を見上げました。
「きっと、ルナの天国もあの月にあるんだ」
コンタもまた、ミミと同じように月に行きたい理由があったのです。
「ハシゴ、かけたいね」
ミミはコンタの隣に立って、月を見上げました。
夜空に浮かぶ月はさっきと同じですが、コンタと一緒に見る月はちょっぴり違うとミミは思いました。
なぜだか少し暖かく感じたのです。
(おわり)







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