あらすじ+プロット

文字数 4,139文字

【あらすじ】

主人公の沙那(中1)は、妖怪の姿が見える特殊能力を持つ。事故物件で亡くなった住人は恨みを持つと妖怪に変化して次の住人に不幸をもたらすため、それを止めたいと思っているが、誰も信じてくれない。中学に入った沙那は、非公式の部活『怖い家クラブ』があることを知り、入会。妖怪を苦悩から解き放って浄化するため、相棒のしゃべる黒猫妖怪とバディを組んであちこちの事故物件に行き、スマホなどの日常的なアイテムで機転を利かせて解決に導く。


【プロット】

プロローグ・
取り壊し予定の閉鎖されたアパートに入っていこうとするカップルがいた。どうやら肝試しに来たようだ。そこに、「入らない方がいい」と声をかける少女の姿が。「妖怪が出るから」と言う。馬鹿にして、中に入って行くカップル。すると天井が突然崩れて来て、カップルは病院送りになってしまった。少女はこぶしをにぎり、悔しそうな表情でつぶやく。「だから言ったのに……。どうして誰も信じてくれないの……」。


物件1・
中1の少女・沙那には、妖怪の姿が見える特殊能力がある。沙那の家は不動産屋。幼い頃、父親と一緒に取り扱っている家を見に行った沙那は、そこで妖怪の姿を発見するが、父親には見えないため、取り合ってもらえない。すると、その後そこに入居した友達が事故に遭ったと聞かされ、ショックを受ける。後にその家が「事故物件」(住人が不審な死を遂げた家)だったことを知る。

中学に入った沙那は尊大な態度の先輩、栄子から部活に勧誘される。警戒する沙那だったが、事故物件を調査する部だと聞き、話を聞きに行く。案内された場所は、校舎のはずれの空き倉庫の中。栄子先輩はここで学校非公認の『怖い家クラブ』を一人でやっているらしい。事故物件では、そのあと不審火が出たり、地震で家具が倒壊したりして、入居した住人に不幸な出来事が起こる場合があるという。

沙那が興味を持つと、放課後事故物件の見学に行こうと言われ、とあるマンションに行く。管理人には話をつけてあるという。どうやら普段のえらそうな態度とは違い、大人に取り入るときはすごく真面目で、仕事の手伝いなど積極的にやるようだ。
すると、見に行ったマンションの部屋に黒猫の妖怪・ロクがいて話しかけてきた。「苦しんでいる妖怪たちを救ってほしい」と。沙那は困惑する。これまで、妖怪と話をしたことなどなかったからだ。しかも、ロクの姿は栄子先輩には見えていないようだ。

ロクによれば、亡くなった人は恨みの念で妖怪に変化することがあり、人間だったときの恨みの念にとらわれて苦しんでいる。その思いを聴いてやわらげてやれば浄化されるという。 
こっそり、もう一度ロクがいた部屋に出かけていく沙那。父親から訊いた話では、この部屋に住んでいた女性はひとり暮らしで、事故で突然亡くなったあとしばらく発見されなかったらしい。その恨みの念が残って妖怪となっている。沙那の母親も事故で亡くなっており、他人事と思えない沙那は協力する。

ところが、部屋のどこにも妖怪はいない。そのとき、沙那のスマホに着信が入る。かけてきたのは栄子先輩で、「どこでサボっているの?」と言われる。すると栄子先輩が急に「友達の家にいるんでしょ? 女の子の声がするわよ」と言い出す。もちろん、沙那やロクはしゃべってなどいない。

ひょっとしたら女の子の声とは、この部屋にいた住人の声かも知れない。沙那は栄子先輩に「この部屋の住人はどこで亡くなったのか?」訊くと、お風呂場のようだ。沙那がおそるおそるお風呂場を開けてみると、誰もいない。
スマホのカメラで撮ってみると、画面が突然真っ赤になる。きっとこのお風呂場で転んで血を流したに違いないと考えたが、ふと、頭を打ちそうなものが何もないことに気づく。「まさか……」振り向いた沙那は、妖怪と遭遇する。住人は脱衣所で亡くなっていたのだ。

うかつに話しかけたら逃げられてしまう。沙那は考える。「ただの事故なら、なぜ恨みの念を抱いたのか?」と。すると、さっき電話中に女の声が混じっていたことを思い出す。沙那は電話の向こうの栄子先輩に訊いてみると、亡くなった女性は事故に遭ったとき彼氏に電話をして助けを求めたのに、彼氏は浮気中で出なかったと言う。その恨みの念が妖怪になったに違いない。妖怪は、今にも襲いかかってきそうだ。そこで沙那はスマホで電話をかける仕草をして、妖怪に「もう大丈夫だよ」と言ってあげた。まるで彼氏のように。妖怪は涙を流し、無事に浄化されていった。


物件2・
ある日、沙那の家の不動産屋に、お客さんがおびえた様子でやってきた。「もうあんな部屋には住めない」という。壁に人間の形のしみがいくら消しても浮き出てきたり、夜中に何者かに首を絞められたりするらしい。栄子先輩はそこの家の大家さんとも知り合いで、沙那はロクと一緒に向かう。しかし、部屋に妖怪の姿は見えない。それもそのはず。話を聞いてみると、本当は隣の部屋で住人が病死しただけであり、この部屋は事故物件ではなかった。今いる部屋はたしかに住人が亡くなったものの部屋の中ではなく、シングルマザーの女性が強盗に襲われて逃げるとき、子供と一緒に近くの歩道橋の階段から落ちたのだという。ではなぜ怪奇現象が起こるのか? 

すると沙那のスマホに栄子先輩から着信が入る。しかしうまく言葉が聞こえず、なぜかゴボゴボと水の中で言葉を発しているような声になってしまう。これはヒントではないかと思う沙那。水といえばお風呂場だが、やはりそこにも妖怪の姿は見えない。近くの池に向かうものの、特に新しい情報は得られない。そこに通りかかった近所の住民に話を聞く。

親子が亡くなった日は真夏で、母親は自分の子供を遊ばせようとプールに水をはっていたところ、強盗に襲われたそうだ。なんとか子供を連れて逃げ出した彼女は、歩道橋のところで足を踏み外し、落下。命を落としたという。住民の話では、そのとき母親はなぜかグッショリ濡れていたという。

すると、ロクがピンときた。部屋に入って来た強盗は、奥さんを黙らせるためにプールの水の中に沈めたのだ。その後、逃げ出して亡くなってしまったことになる。怪奇現象が起こる理由がわかった。妖怪となった彼女は、部屋の住人を殺そうとしていたわけではない。住人を強盗と勘違いして、子供を守るために戦おうとしていたのだ。
沙那は子供の人形を用意して、部屋に置いた。すると妖怪が現れ、沙那に襲いかかってきた。なんとか逃れると、妖怪は必死に子供の人形を守ろうとする。沙那がスマホで、強盗犯が捕まった当時のニュースを見せると、安心した妖怪は浄化され、消えていった。


物件3・
ロクがうかない表情をしている。あちこちの事故物件を移動している妖怪が見つけられないという。その妖怪は人間だった時、ある部屋で自殺してしまったのだが、この世に恨みを残して妖怪になった。なぜ移動しているのかといえば、自分と同じように悩みを抱えている人に憑りついて回っているのだという。もし憑りつかれたら、その人は自殺してしまうかも知れない。なんとか捜そうと、その妖怪が人間だったとき自殺した部屋に行くが、何もない。
 
栄子先輩に電話で訪ねてみると、音声が途切れ途切れだ。聞こえづらい電話の奥から聞こえてきたのは「部屋の階段……」という言葉。しかしその部屋はマンションの一室。二階などない。そのとき沙那は気がつく。天井から階段を出すと、ロフトに通じているのだ。ロフトに上がってみるが、特に何もない。「もしこの部屋で自殺するとしたら……」。階段を使うはずだ。そのとき、とっさに気配を感じた。階段の方を振り向くとそこにいたのはロク。ほっとするが、どうも様子がおかしい。ロクは無言のまま階段を上がってきた。

自殺した住人というのは、ロク自身だった。新しく道連れにするターゲットを捜しているようだ。逃げる沙那だったが、追い詰められる。助けを呼ぼうにもスマホはバッテリー切れ。沙那は、ロクが人間だった頃なぜ自殺したか聞き出そうとするが、ロクは聞く耳を持たない。「お前も自分のことを誰にも理解されなくて、孤独だったんだろ? なら、誰も手の届かい場所に行こうぜ?」と言うロク。沙那は「たしかに、私は孤独だった。だけど今は一人じゃない。栄子先輩もいるし、それに……ロクにも会えた!」絶対にあきらめないと思う沙那。

すると、ロフトの奥にネコ用のおもちゃとお皿が置いてあるのを発見する。それを見た沙那は「ひょっとして今の姿は、自分が昔飼っていた猫の姿じゃないの?」と尋ねる。すると、ロクは自分のことを語り出した。
「俺は親友に裏切られ、恋人にも裏切られ、仕事も失って絶望して床に倒れていた。そんなとき、飼いネコまで俺を見捨てて逃げたんだ。だから、絶望して死んだ」と言う。すると、
沙那は「それは違うよ」と答えた。不動産屋の父親から聞いたことがあった。

沙那がまだ赤ん坊のころ、黒猫がボロボロになりながら自分の店にやってきたことがある。父親はその猫に見覚えがあった。前にマンションを貸したお客さんが連れていた猫だったのだ。とっさに「何かある」と感じた父親はマンションに向かうと、飼い主である男性が首をつっていた。
黒猫は男性を見捨てたのではない。男性が床に倒れているのを見て「病気だ」と勘違いし、以前会ったことのある沙那の父親に助けを求めにきたのだった。しかし男性は助からず、やがて黒猫も死んでしまった。

真実を知ったロクは涙を流し、沙那はそっと抱きしめた。ロクの体が光の粒に包まれ、浄化されて消えていった。あとには、ロクがつけていた首輪だけが残されていた。

数日後、沙那は部室に行くが、誰もいない。すると栄子先輩の後ろにくっついて、一匹の黒猫が部室に入って来た。「ロクが浄化されて生まれ変わったのか」と嬉しい反面、さびしく思う沙那。ところが、黒猫は沙那と二人きりになると、以前のようにペラペラとしゃべり出した。ロクは一度浄化されたのだが、まだ苦しんでいる妖怪たちがいることが未練となって戻ってきてしまったらしい。
沙那は涙をぬぐう。これから再びロクと一緒に、妖怪を浄化する日々を送ることになるだろう。




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