第1話

文字数 833文字

「あー、スッキリしたー!!」
今日も大量のキャベツの千切りを生み出した私は腰に手を当て、ひとりそう呟く。
色々試してみたけれど、心のモヤモヤの解消にはキャベツの千切りがやっぱり1番いいようだ。

 辛いことも、悲しいことも、理不尽に思うことも、(わき)に置き、目の前のキャベツが全て千切りに変わる頃には、新しい自分に生まれ変わった気持ちになる。

 今日も、そう。
ついこの間、別れてまだ1週間もたってない、元の恋人が、新しい彼女を同僚に紹介している現場に居合わせてしまった。

 お互い納得づくで別れたにしても、1週間で新しい彼女って、どういうことよ!

このモヤモヤは帰宅して夕食を済ませ、入浴しても消えることはなかった。
一度は布団に入ったものの、眠ることができず
これしかないと私は台所に立った。
いつまでも、この気持ちを引きずりたくはない。
私は包丁を手に、キャベツに向かう。
そう、これはセレモニー。
そして無心の時間が過ぎて行く。

抱えていたモヤモヤが細いキャベツの山にとって代わる頃私はスッキリした気持ちで、達成感と共にふぅー、と緩んだ息を吐き出す。

さて、と、このキャベツの山をどうしよう?

この思いの行き先は当然お腹の中なわけだけど…。
そうだ!
思い立って携帯を手に取ると美咲にメッセージを送信する。
「夜遅くに、ごめん。明日の約束だけど、週末だしウチでご飯食べない?お好み焼きしようよ」
程なくして「もちろんOKだよー!たくさん話そう!」と返信が届く。
事情を知る彼女だからこその早いレスポンスに私はニッコリする。

 きっと明日、彼女は私の愚痴や文句をビール片手に聞きながら、時に笑い飛ばし、時に励まししてくれるに違いない。
ついこの間まで恋人とていた週末の時間。
寂しく過ごすはずが友人との楽しい時間になりそうだ。
モリモリ食べて元気を出そう。

そんな友人の存在を思うと、ほっこりと心が温まる。

24時50分。

日付をまたいだこの時間。
「明日、楽しみだな…」
全ての準備を済ませると私はベッドへと向かうのだった。


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