第1話

文字数 1,290文字

 友達と変なカレー屋に来ていた。友達がハマっている店らしい。

 インド人が経営しているカレー屋だが、店名は「シンさんの美味しいカレー屋さん」。店構えもレトロというか、手作り感があり、本当に美味しいのかはわからない。確実に綺麗な店ではない。

 そもそもこのカレー屋、闇市だった場所にある。この辺りは空襲の被害がなかったので、ごちゃごちゃとした街並みが今も残っていた。飲食店が多いが、風俗店もあるので、場所自体に怪しい雰囲気が漂う。

 そしてカレー屋に入ると、なんかヨガっぽい音楽が流れていた。ずっと聞いていると呪われそうな音だが、そこはスルーしておく。

 意外な事に店は混んでいた。四人がけのテーブル席は全部客で埋まり、私たちは隅の方にある二人がけの席に座る。

 そして変な音楽と共に、店員たちのカタコトの日本語も聞こえてきた。カレーの良い匂いもするが、食べる前から不安だ。店名通り美味しいと良いのだが。

「蘭子、この変なカレー屋に本当にハマってるの?」
「うん。この変な感じがいいんだよ」

 そんな友達の蘭子は、美人だ。アラフォーだがモテる。

 彼氏も途切れた事はないが、連れている男は変なのが多かった。今も反ワクチン組織のリーダーと付き合っているらしく、さすがに引く。他にもデブな料理人とか、半グレみたいな男とも付き合っていた時があり、笑えない。

「私、食べ物も男も差別しない主義なの。見た目はこだわらない」

 いや、少しはこだわろう?

 しかし、こんな美人にそんな事言われたら、男たちもワンチャンあり?と思わせるスキがある。モテる理由はわかる。本人の趣味が悪くて残念だが。

「まあ、いいか。注文しよう」
「うん」

 蘭子はそう言い、カタコトの店員を呼び、注文した。店員は日本語がまだ得意じゃなさそうで、オーダーとは別のものがきた。

「うける、面白いね」

 私はイラッとしたが、蘭子は面白がり、店員を許していた。すると食事代が全額タダになってしまった。美人の力が恐ろしい……。

 テーブルの上にはオーダーミスのナンとバターチキンカレーとほうれん草のカレー。

 ナンはやたらと大きい。もし巨人がいたら、その手の平ぐらいありそう。ところどころキツネ色に焦げ、パリパリとした食感。本当はご飯にしたかったが、これでも悪くないだろう。どうせ、タダになってしまったし。

 もっとも付け合わせのサラダは、変なドレッシングがかけられていて、食べるのに勇気がいる感じだ。肝心のカレーは濃厚だ。店名に恥じない味だった。これは思い切って食べてみて良かったと思う。

「なんでいつも変な男と付き合ってるの?」
「いや、普通の男は空気読んで下に出るのがつまんないんだよね。取り柄は優しいだけって感じ。身の程知らずでガッツのある男の方が犬みたいで可愛いよなぁって。あと、基本私に上から目線のドSに萌える」

 モテない私は、蘭子の言う事は意味がわからないが、たまには変な店で美味しいカレーを食べるのも悪くない気がした。

 こんな変なカレー屋も心から楽しめたら、自分も人に対して懐も広くなれそう。

「美味しい」

 笑顔で食べる蘭子を見ながら、そんな事を考えていた。
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