第1話 おめでとうございます

文字数 2,911文字


「おめでとう御座います、100人の中に選ばれました」

ん?何だ今のは?

俺は眠い目を擦りながらベッドの横に置いてある携帯を見た。

おかしい、迷惑メールフィルターが掛かっているはずなのだが。

いや待てよ、そもそも、音声で案内する設定にしてたっけ?

いろいろな疑問が頭に浮かんでは消えたが取り敢えず携帯を確認した。

すると、そこには銀色に輝く何かを着た何者かが映っていた。

え?TV電話?なんで?

こんなコントの宇宙人みたいな格好をする人間に知り合いはいないはずなのだが……。

「おめでとう御座います、あなたは百人の中に選ばれました」

もう一度、よくわからない祝辞を頂いた後に思い至ったのは、恐らくドッキリだろうという結論だった。

しかし、だとすると不審な点がいくつかある。

どうやってセキュリティの高いこの部屋に入り携帯に細工できたのかと言う事。

もう一度携帯をマジマジと見て自分の携帯かどうかを確認した。

前に落として付けたキズもちゃんとあるし、もし、ドッキリだとしたらとんでもなく手がこんでいると言える。

色々な可能性について考えたが、どうもどれも非現実的な事に思い至る。

俺は今の状況が現実かどうか確かめる意味も込めて部屋についている呼び鈴を鳴らした。

呼び鈴と言っても大きな音がなる訳ではなく屋敷全体の至るところで呼んでいることがわかる様になる仕様なので執事のセバスチャンかメイドの誰かが気づいて来てくれる筈だ。

しかし、ややしばらくたっても何の反応もなかった。

俺は少し焦りを感じはじめた。

「おめでとう御座います、あなたは100人に選ばれました」

また例の意味不明な祝辞を受けたあたりで腹が立ってきた。

俺は意を決してその銀色の奴と話をする事にした。


「おい、なんのつもりか知らないが詐欺なら間に合ってるぞ」

「詐欺ではありません」

「じゃあドッキリか?どこのTV局かしらんが許可した覚えはない、事と次第によっては訴える事になるぞ」

「ドッキリではありません、それに、TV局には誰もいないと思いますが」

「は?なぜ?」

「選ばれなかったからです」

「選ばれなかった?」

そう言えば、こいつはずっと選ばれたとかなんとか言ってたな、どういう意味なんだ?

「何に選ばれなかったんだ?」

「選別です」

「なんの?」

「人間の」

え?人間の選別?

じゃあ、こいつは人間ではないって言ってるのか?

「おい、面白いドッキリだな」

「ですからドッキリではありません」

「いやいや、そんな安い宇宙人の衣装で騙されるものか」

「いえ、あなたが見ているのはあなたが考えつく未知の生命体の概念を具現化したもので、それが陳腐(ちんぷ)に見えるという事はつまりあなたの発想力がちん……」

「まてまて!なんでそうなる!ヘンテコ宇宙人!」

「宇宙人ではありません」

「じ、じゃあなんなんだよ」

「ある意味地球人です」

「はあ?」

「驚くのもむりありませんがずっと地球に住んでいました」

「どこに?まさか地底とかか?」

「いえ、地上に」

「しかし……」

「今まで同じ地球上に居ましたがこちらからはあなたがたは見えていましたがそちらはこちらを見ることは出来ない様でした」

「なぜ?」

「次元が違うので」

「は?次元が……違う?」

「そうです、つまり宇宙人ではなく異次元人です」

俺は絶句した。
異次元人だと?

あれか?三次元の先の四次元のアレだな?

そうそう、わかるわかる……

「わかるかボケィ!」

「どうしました?突然大声をだして」

「い、いや何でもない、すまない」

「いえ、大丈夫ですよ、私達は皆、温厚です。文字通り次元が違うので」

「はぁ、なんか腹立つけど。その……温厚な異次元人が俺に何の様なんだ?選別ってなんだ?俺はこれからどうなる?」

「質問が多いですね」

「当たり前だろ」

「まず、選別というのは文字通り選んで分けたのですこの世界に住むべき人間を」

「住むべき?じゃあ他の人はどこへ?」

「もはやこの世界にはいませんねぇ」

「はあ?じゃあこの世界には選ばれた百人しかいないのか?」

「そうなります」

「ふ、ふふふ、ふはははは」

「おや、もう壊れました?」

「壊れてない!面白いから笑ったんだ!」

「そうですか……残念、何が面白いんです?」

「そりゃ、笑うさ!こんな茶番を笑わずに居られるか!……ていうか、今残念て聞こえたけど」

「そうですか、信じてもらえませんか」

「おい、誤魔化すな」

「ではこれを見てどう説明されますか?」

いきなり、壁一面に画面が垂れ下がっている未だ市場には出回っていない6Kのテレビ画面が文字通り大きく映し出された。

垂れ下がっているというのは紙のような薄さなのでそう表現するしかないのだ。


「なんだよ、なんの変哲も無いスタジオが映っているだけじゃ……」

そう、言いかけてその異常さに気がついた。

たしかに、お昼の番組でよく見るセットが映っているだけだ。

しかし、誰も座っていない。

それより、問題なのは、こんな放送事故みたいな画面がずっと流され続けている事実。

本来なら、コマーシャルに変わるか、もしくは「しばらくお待ちください」の画面になっているはずだ。

俺はチャンネルを次々と変えてみたがどれもこれもセットだけ。

「これで、信じてもらえましたか?」

テレビ画面を観ながら俺は呼吸が荒くなっているのを感じていた。

俺は堪らずテレビを消した。

「いや、まだだ、まだ信じられん!」

「おや、疑り深いですねぇ」

「当たり前だ!」

俺は取るものもとりあえず部屋を飛び出した。


「おい!誰か!誰か!」

俺の声はホールの様な高い天井に反響して虚しく返ってくるだけだった。

窓に駆け寄って外を観た。

いや、だめだ、こんな中途半端な確認じゃ何もわからない!

俺は未だにテレビ局の考えた壮大なドッキリである可能性を捨ててなかった。

車庫に入って水素自動車のエンジンをかけた。

これも市販されていないタイプの自動車だが水を分解して酸素と水素に分けそれを燃料にエンジンが回る仕組みであり、つまり燃料は水だ。

これを持ってるのは世界でも数人で日本では恐らく俺だけの筈だ。

とはいえ、別段環境に配慮している訳ではなくただ新しい物が好きなだけなのだが。

フィーーーン

水素自動車の特殊なエンジン音を楽しむ余裕もなく俺は街へと向かった。

出来るだけ人が居そうな場所へハンドルを切った。

俺は信号機を守りながら走っていたが、途中から馬鹿らしくなってやめた。

もし、信号無視で捕まえにくるおまわりさんが居たら喜んで捕まりたかった。

それでも街で事故を起こしている車を見るたびに心が踊った。

野次馬根性ではない、もしかしたら人が居るかもしれないと思ったからだ。

しかし、多重衝突している車が煙を上げていても救急車も来なければ警察も来ない。

それどころか野次馬も居ない。

突然ドライバーだけいなくなった車がそのままどこかに突っ込んだ様子だ。

街中でクラクションが鳴ってる。

まるで、主人を失った車が其処此処(そこここ)で泣いている様な音だ。

ドォーーーン

突然どこかで爆発音がした。

おそらく、車から流れた燃料に引火でもしたのだろう。

しかし、救出する必要はない。

誰も乗っていないのだから。

俺は何も考えられなくなり暫くポカンとその光景を眺めていた。

選ばれた……か。

どちらかというと取り残された気分だった。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み