第1話 チップ

文字数 648文字



 そう遠くない未来の話。

 画期的なコミュニケーション・デバイスとして生まれたスマートホンは、爆発的に人々に浸透した。

 様々な機種が生まれては消えていく。メーカー間の過激な競争は、何十年も続いた。

 やがてスマホが当たり前になり、機能がマンネリ化してくると、その勢いに(かげ)りが見え始めた。

 ところがあるメーカーの努力が、次のブレイクスルーを引き起こした。

 体に埋め込める、チップ型のスマホが発売されたのだ。

 液晶画面は不要になり、映像は視神経を通って直接脳に送られた。音声は骨から振動で伝わり、バイブは肌への弱い刺激に置き換えられた。人体がまるまるスマホの筐体(きょうたい)になったようなものだ。

 人間の五感を操ることで、スマホは次の新しい表現を可能にした。

 例えば自分の容姿や服装を変化させるアプリ。実体は何も変わっていないが、そう感じさせるよう、脳に信号を送り込んでいた。通信機能を使えば、他人にも望む姿を見せる事ができた。

 部屋に超リアルな仮想の街やキャラクター(アバター)を出現させるアプリも有名だ。レストランで食事すると、味覚が刺激され本気で食べた気になれた。

 例をあげたらキリがない。この技術は、ゲームや映画、ファション、老人介護などあらゆる分野に応用が効く。

 かつてない体験を得るため、人々はこぞってチップを自分の体に埋め込んだ。

 そしてついに、国が動いた。

「7歳を過ぎた国民は、体内にスマホ(チップ)を埋め込む事を義務とする」

 人が国家に完全に管理される時代の幕開けだった。

 しかしどんな時代にも、例外となるものが現れる。

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