第5話 黄泉

文字数 585文字

エレベーターホールの壁には、最下層のエリアマップが掲げられていました。
フーセンのようなバイタイ保管庫の真下が居住区。そこから東と西にエレベーターでそれぞれのモニター室につながっています。
 居住区には偽物の大気(地下水を利用して作っているのだそうです)と太陽があり、昼間の間はまるで地上にいるようです。夜になると太陽は沈むのですが、大気自体が地上の照明を受けてぼんやりと発光しているので、完全に暗くはなりません。
 最初、24時間明るいなんていかにも偽物の世界という感じで気持ち悪い、と思ったのですが、地上にもそういう風になる国があるんだと友達が教えてくれました。しかも、そこもとても寒い所なのだそうです。
 ただここと違っているのは、季節が廻れば何れ夜が巡ってくることと、巡ってきた夜空では「オウロラ」という巨大な光の帯が、刻々と色や形を変えてあらわれることだそうです。


私たちは地下に降りる前と同じように、ずっと監視を続けました。ほかに何もやる事がなかったものですから。バイタイは常に変化しているようでいて、常に止まっています。時々水面に伸びる茎が拍動している気がする時はありますが、気のせいだと友達に言われました。
 休日は友達と「オウロラ」の話をしていましたが、だんだんとお互い、それが何のことだったかさえ、わからなくなってしまい、最近は黙って互いの顔を見合わせています。
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